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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1230] 才能
詩人:千波 一也 [投票][編集]

かよわい肌の持ち主は
男のほう

繊細に消されていった
煙草の匂いは
指にも
首にも
移り住む

男を選んで
移り住む



男は
確かに直線的だ

けれどもそこに
強度はない

女の
したたかな
曲線のなかでだけ
つかの間の英雄を味わう
有限の直線だ



本能は
女が受け継ぐ習わしで

男は
その足元に
飼い馴らされる

そして
有る筈もない才能を
健気に磨く

信じる力を
一心に
磨く



かよわい言葉の源は
男にあって

視線は
鋭くならざるを得ない

守るべきかと問われたら
信じることに
命をかけて

美しいものたちに
憧れるよりほかにない



男は
真っ直ぐ前を見る

抱えきれない多くのものを
背中に肩に
感じながら

開け放たれた
前を見る

自由気ままな
女の視界の
片隅で


2014/02/19 (Wed)

[1229] 湯宿にて
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ドアを開けると
しらない私が待っている

無上の憩いを
約束するように
鏡の私が会釈する


窓の外には
なつかしい夜

あたたかな夜



単調に
指折り数えることの

単調な充足は
ようやく首位になる

ここにきて
本当の首位になる



ドアから出ると
廊下は静かに灯りだす

いつかの音を忍ばせて

だれかの声を
忍ばせて

ゆっくりと
滲み始める



私の時計は
正しさに欠けていて

気まぐれに物語を編む

ふと
立ち止まるのは
そういうからくり

そういう
仕掛け



真白な煙のなかには
何も見えない

でも
それでいい

幻めいた瞬間が
そこに在るということ

真実味のある儚さが
そこに見えるということ

容易にはあり得ない
容易さに

私はひとり
お辞儀する


2014/02/19 (Wed)

[1228] ナイフのように
詩人:千波 一也 [投票][編集]


羅列で構わないから

愛の言葉を私にください

そう、突き立てるように

脆弱さを削ぎ落として

2014/02/19 (Wed)

[1227] 波のゆくえ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

波のゆくえが
気がかりならば

波の言葉に
添いましょう

正しさに
包まれようもないけれど

同じだけ
誤りようもないならば

それは
素敵な所作ですね

波のゆくえも
きっと

そんなふうに
笑んでいるやも知れません


2014/02/19 (Wed)

[1226] 散る葉
詩人:千波 一也 [投票][編集]


葉は、
いつか散る

かならず散る

その
散る、というさまは
さびしいけれど
寒々しいけれど

散る、という務めは
葉にしか担えない

わたしには、
どんな務めが担えるだろうか

模倣ではなく
比喩でもなく

ひとの命が、
ひとの命だけが
たどり着きえる場所は
どこだろう

2014/02/14 (Fri)

[1225] 無限
詩人:千波 一也 [投票][編集]

荒涼とした大地の上に
荒涼とした時空が
広がる

その
片隅を
写し取りたい些細な詞は
荒涼とした
影をなす

荒涼とした影の懐に
荒涼とした金属の
痕跡がある

その
一つ一つを
愛でる眼差しと
振り切ろうとする背中とが
荒涼とした大地の上に
ささやかな破片を
点々とさらす

荒涼とした風の中で
荒涼とした溶融が
終わりを告げて
また始まって

厭い切れない固執の輪から
荒涼とした時が降る


2014/02/14 (Fri)

[1224] 氷点
詩人:千波 一也 [投票][編集]

白いひかりの内側で
やさしくもつれ合うものを
聴いていたかったのに
ただ、聴いていたかったのに

生きていてもいいですか、と問うよりも
生きていなくてはいけませんか、と問うほうが
おそろしく鋭い


かねてより
足音を待つのが好きでした
おのれの行方はさておき
気ままに彩色するのが
好きでした


白いひかりが一直線に磨耗してゆく
あれはもう、内でも外でもない
形、と呼ばれるためだけの
疲弊

わたしのからだは
あらゆる支えを軋ませながら
いつしかその頼りなさが頼りになって
やわらかに恵まれてきたけれど
悲しい結び目は必ずあらわれる


素足に広がる波紋のはじまりは
ささいな涙と
ささいなため息

ささいな全てのはじまりは
かならず此処にあるけれど
終わりについてはわからない
誰もわからない
わかってはいけない


睦まじくいつわり合いましょう
睦まじくとらわれ合いましょう
どちらがどちらを担うかなんて決めたところで叶いません
睦まじくうつむき合いましょう
睦まじくたちのき合いましょう
どちらがどちらを担うかなんて境で言ってもはじまらない


連鎖してゆく矛盾のそばには
いつでも言葉が寄り添っていて
それはそれは安らかに事も無げに
季節をつむいでみせるから
まぼろしは燃えてしまえる
美しさをたたえて燃えてしまえる
けずり落とされてもしまえる
はかなくて
放ってはおけないきらめきとなって
けずり落とされてもしまえる


従順なら良かった
もののあはれ、にも
辱めにも
咎めにも

従順なら良かった


はげしさを増す怒りの深みから
きびしさを増す慈しみの上辺から
奔放にともされ続けている
いちるの望み
常夜灯

その下で
あるいは上で
ひとつのものへと帰ろうとするうたが
わたしの耳に運ばれる

ひとつのもとから分かれたはずの
寂しいばかりではいられないはずの
わたしの耳に


2014/02/14 (Fri)

[1223] かなしい記憶
詩人:千波 一也 [投票][編集]

水は
裏切ったりはしないのです

やさしい嘘と
呼ばれるすべに甘んじて
飲み干しかねた
水はあっても

迎える季節を過ちかねて
流れるしかなかった
水はあっても

水は
何をも裏切らないのです


太陽と
とても近いところに
遠い昔が波打っています

だから
わたしは
ふたつの瞳で
ひとつのものを
慈しもうと思うのです

円く
及ぶべき人の思いの根幹を
慈しもうと思うのです


日記のなかに並んだ文字は
傷とよく似た面影です

はね返される
陽射しの底で
形づくられる
祈りの首輪

言葉に出せない密書のような
うすい匂いが溢れてゆきます


すれ違うとしたら
爪の先ほどの
蕾の上で

抱き締め合うとしたら
波間に漂う後悔が
聞こえない頂で

思い出すとしたら
重なり得ない
つばさの
両端で
各々で


穢れていたのかも知れません
はじめから

穢れてしまえるようにと
心遣いがあったのかも知れません
はじめから

曖昧ならば懇願も
きれいな音色に落ち着いて
例えばわたしの硝子戸に
懐いてくれると
思うのです

寂しい刃がひとりでに
よろこびすべてを
葬るならば

信じていましょう
寄り添っていましょう

頷いて
微笑んで
こぼれていましょう




2014/02/14 (Fri)

[1222] 精悍
詩人:千波 一也 [投票][編集]


希望という名の紙切れよ
希望という名の瞳に渡れ

誰かは無謀と云うだろう
或いは幼稚と嗤うだろう

希望という名の未熟さよ
立ち止まるがいい
思う存分に

希望という名の愚かさよ
立ち戻るがいい
思う存分に

あちらこちらへ身を捩らせて
あちらこちらへ心を捩らせて
見るに堪えない紙切れとなっても
そこに埋もれた希望のことを
お前は決して見限るな

希望という名の紙切れは
希望の瞳に留まるだろう

絶望という名の声ならば
絶望の耳元に届くだろう




2014/02/14 (Fri)

[1221] まちがい探し
詩人:千波 一也 [投票][編集]

きのうの僕には
あったはずのものが
きょうは
どこにも
見つからなくて

きのうの僕には
無かったはずのものが
あすには
ひょい、と
あらわれるかも
知れなくて

寂しいような
ときめくような
頼りないような
すくわれるような

正誤も
価値も
たしかめ始めたら
すべて
事務的な数字
機械的な数字

探すつもりで
いるのか、いないのか
程よく
装えたなら
易しさも
難しさも
とけ合うかも知れない

まったくちがう
まったくの
一つに
とけ合うかも知れない



2014/02/14 (Fri)
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