ホーム > 詩人の部屋 > 千波 一也の部屋 > 投稿順表示

千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[749] 列島
詩人:千波 一也 [投票][編集]


焦りをおぼえた場所からは

やさしくきこえる

誘惑のつめ



口笛をなつかしむまでは

曲がり角などこわくはなかった



憂いにまみれた地平には

消せないほのおと

水夫のつばさ


雲のながれを追えない煙が

なみだを起こして夕日に染まる




いつわりをあばく緯度に立ちながら

傾けられない慰めの風


甘えてしまえない白々しさを

辛辣なけものが吠えたてるだろう


よこしまな直線に

地図はほつれて




望みのかわりに持つものは

いつかの日々の忘れもの

いつかの日々に

送るもの


擬似をたずねて数千里


沈まなかった向こう岸まで

手を振るかたちは

よろこびを負う

かろやかな

疲弊



ほどけた靴紐には

素直なむずかしさを乗せて



海をわたらず空を敷かず

さわやかな愚問を

浮かべて

並べて


永遠は滅びてもゆるやかな修復を




2007/01/09 (Tue)

[750] スケッチブック
詩人:千波 一也 [投票][編集]



おおきなカバンはいらない


なるべくなら

手ぶらが

いい



気の向くままに街を


ゆかいなものに

流れるものに

みじかく綺麗にあいさつをして

気の向くままにときを



吸いこんだなら

はなすだけ


そうしたら

未完のスケッチブックが

またひとつ喜ぶから

あしたのわたしは

きのうと違う

いまから

始まる




宛てる誰かをさがせなくても

いそがなければ

たよりは届く


やすやすとは

破かれない紙であるために

約束をまもること

上手にはなして




見つからない日々が

見つかるのなら

それは明るさ

かならず光



いつまでも遠い道のりが

完成の枠組みなのかも知れないね



もとめる先を決めつけないで

はなしたぶんだけ

浴びてゆく



2007/01/10 (Wed)

[751] 擬人法
詩人:千波 一也 [投票][編集]



かなしむこころではなくて

かなしみという言葉を覚えなさい


よろこぶこころではなくて

よろこびの色彩に詳しくなりなさい


問うことはよそにまかせて

やみくもになぞりなさい



優しさといたわりと子守歌と


そこに上手に落ちつけば

皮膚の温度は恒常です

はなさぬように

はかりなさい



ありがたいものはすり替わり、



俊敏に嗅ぎ分けることです

愚鈍さを


鋭利に聞き分けることです

優劣を


ただし隠して

野性をひそめて



思いやるための思いやりさえ

まぼろしと消す

すべての

すべに



こたえることをまずは預けて

ごまかすことに慣れなさい


それほどかたりはたやすくて

すぐにもかたちはいたむのです


ひとごと世ごとに

むずかしく


2007/01/10 (Wed)

[752] とらわれの蛇
詩人:千波 一也 [投票][編集]




それは髪ではなかった



すがりつけない言葉でも

寄りかかり続けた、

矛盾


まもるわけでもなかった壁が

ひび割れようとしていることに

わけもなく怯えて



臨月は、皮肉



あまりにも目を避けたから

あこがれて

落ちた、のかも知れない



潔白に、化石




放れるものはたくらみに長けすぎて

泣きたいきもちは

剥がされてゆく


拒んだなにかを埋め合わせるために

いのちを含んでは

さびしがる性


巻きつけた夜の深さを首にともして

毒牙はあてもなく逃げ惑う

みずからを狂わせて



やさしさはかけら、

握りしめている

かけら




歴史の、凝固




いつか髪ではなくなった眼光に

告げる言葉をまだ知らない


すくえなければ

すくわれないから

呪文を、漂流


一途な、

緊縛


2007/01/10 (Wed)

[753] 雪崩
詩人:千波 一也 [投票][編集]



すべてを飲み込む激しい流れは

もはや雪崩と呼べない



かすかな吐息

たよりない足音

あしたをさぐる腕


たとえばそんな営みに

じっと耳を傾ける静寂こそが

雪崩の呼び名に

ふさわしい



待つものごとがあっても無くても

待たれているということだけは

くつがえらない決まりごと



白紙のうえで白線は

はじめからえがかれている


気付かずにすむことがおそろしさ



すべてを押し流す激しい雪崩は

とうの昔にはじまりがある



まばたきの間にうつろうものなど

はかなきいのちのほかにはない


駈けてゆくものには

駈ける姿がみえやすく

駈けない姿を

信じこむ


その失速を

雪崩はたしかに聴いている



終わりはすでに止まらない

はじまりのなかの

はじまりに


2007/01/10 (Wed)

[754] 反旗
詩人:千波 一也 [投票][編集]



掲げられている、

無表情


ときおり

風につられて

わらいもするが

恥じらえもせず恥じらっている



そらへと挙げた小さな拳は

ささいなものほど

守りぬけるのに


もう、

ささいなものすら許さない



傷つかないためには

傷つけること


でもそれは

だれかにとって

やさしい語りになりうるだろうか



吹かれるだけの、

無表情


ときおり

風につられて

うたいもするが

聴かせあぐねて疲れ切っている


孤独とはぐれて

ただよって


歓迎とも

決別とも

取れるかたちで

ただ、風に


2007/01/10 (Wed)

[755] 惑星
詩人:千波 一也 [投票][編集]



この星には喜びが溢れていると

わらう君の目は

泣いている


この星には悲しみが渦巻くと

ささやく君の手は

爽やかだ



満天の星空はきれい


僕に解けない謎なんて

まだまだ幾つも

あるからね



さようならを待っていた

避けていたのは

こんにちは


鏡よ鏡、そこにいるのは誰ですか



近くにあっても届かない

遠くにあっても

たどりつく


そんな気配を鵜呑みにしながら

流れる星につかまった、





形をおぼえることがすでに形で

旅人のうたなんかを

口ずさむ、

僕は


終わらない、

終われない、


ぐるぐる回した地球儀を

ぴたりと

止めた


2007/01/10 (Wed)

[756] ランダム・リバー
詩人:千波 一也 [投票][編集]



感情をよぶことは

あたりまえにむずかしい



かえされながら

逆らいながら


寄る辺をなくして

ふたつの

川は



フィナーレ、を



響きのために

重ならず


わすれるすべを

置き去りに



こころに染み渡るものは

微笑をたたえて


幾度も繰りかえすことが

すれ違い


おかえりなさいは

いつもある



きらきら光るそれぞれを

いとわないのが

潤いのみず


ときに冷たくもあるけれど

その身も川なら

ひとつの

川なら


はるかに続くしきたりを

あふれて砕け



ひとは背中を離れない

あるいは常に

かえりつく


もっとも深く、

ランダムに



2007/01/10 (Wed)

[757] レプリカの四月
詩人:千波 一也 [投票][編集]



たとえばそれは食卓のさかな


二度と泳がない姿はあわれです

しかし言葉はあぶくですから

気付かれずに消える、その

あぶくこそが

あわれです


おぼつかない箸使いでは

落としてしまう、

かけがえの

なさ


にぎやかなランプには

よくよく影が

お似合いで



いろとりどりが、春

つまり自由という名の鉄格子です


えらび抜かれた策略だけが

憂いを占めて、

あふれる

春です




たとえばそれは浴室のあかり


窓をもとめる心地よさを

つなぎ忘れて椅子に闇

照らされるほど

おかしな粒が

なじみます


透ける、すき



手にしたものに捕まって

幾度と知れず

ゆめ渡り、


その首を振ってください

縦でもよこでも



疑うことなどいたしません


それより急いで続きますから

疎遠なしらせも、

身近なうそも


2007/01/11 (Thu)

[758] 硝子カクテル
詩人:千波 一也 [投票][編集]



自然ななりゆきに

透きとおるため

染まり尽くして



澄まないかなしみを住み慣れた手に

いかにも軽く鍵は転がり

避けながら、呼ぶ

まばゆい

ひかり



情熱の火をはずかしめた日は

こおりを伝わりよみがえる


あざわらう蝶の紋様が

きらり、と見えたら

淡いよる



おごそかな渦潮は

いろを混ぜて

とけて、

また



よろこびというものを憶えたら

傷つくことに錆びついてゆく



それは酔いだね


たやすく今宵もしなだれて、

アルコールの渇きに

うるおいを

放り



言うまでもなく、

痛むことでなお痛むから

どこまでも行っても檻はある



愛する者の名は硝子に揺れて

割れたとしても響きは美麗



ごくごく自然ななりゆきに

かぼそい指が

のどを、

飲む


2007/01/11 (Thu)
747件中 (171-180) [ << 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 >> ... 75
- 詩人の部屋 -