[749] プロ@ |
昨今では様々な分野のプロが活躍しているが、中にはプロと呼んでいいのかどうか疑わしいものもある。
マイクを持った数人の記者がある男にインタビューする。
「あなたがあの有名な整理整頓のプロですね。お噂はかねがねetc…」
サングラスをかけた色黒のその男は執拗なインタビューにもまんざら不満でもなさそうに応えた。
「整理整頓は日頃の努力が大事なんだ。まず一度でも散らかしたらいろいろな場所に乱れが出る。恋愛とか人付き合いとかね」
そう言ってタクシーに乗った男はある住所を告げそのまま記者たちを残し走り去った。
やがて男はそれから様々なプロになる。
プロには資格はいらない。そう周りから呼ばれればその分野のエキスパートになれるのだ。
たとえば赤ちゃんをあやすプロ。散歩のプロ。
家庭菜園のプロ。言い訳のプロ。
誤字脱字のプロ。逃げ足のプロ。
男はマスコミから様々な顔を持つプロと呼ばれ調子に乗っていた。
やがて男はマスコミから不死身のプロ。あるいはどんな状況下に措かれても死なないプロ。
そう呼ばれていた。
しかしその呼び方は風聞や噂がつくった偽の情報。しかし男はそれも美味しいとマスコミに噂は本当だと話した。
それから男は危険なスタントや命懸けのマジック。
様々な死と背中あわせのパフォーマンスを見せるようになった。
ある時、男は仮死状態から生還すると断言し、わざと大量の薬を服用。
それから何年かして男は記憶喪失になったまま目覚めた。
マスコミは「記憶喪失のプロ」と彼を呼んでもてはやした。
だが、それから何年かするとマスコミはかそんな彼に飽きたのか彼を話題にすることはなくなった。
それを良く思わない男は再び自分に注目してもらおうとある美術館の厳重な警備を掻い潜り美術品を盗んだ。
「窃盗のプロ」
彼はそれをマスコミの前で公開。
だが、彼は当然のごとく刑務所行き。
[750] プロA - どるとる
何年かして、刑務所から出てきた男をマスコミが取り囲む。 記者「今、忘れられた人という特集をやってまして、あなたがあの有名なあの人は今のプロですよね」 彼ははじめてプロと呼ばれることに恥ずかしさと奇妙な抵抗感を抱いた。 「いえ人違いです」 男はかかわり合いになりたくなくてマスコミを振り切ろうとしたが、記者が詰め寄り 「なるほど今度はしらばっくれのプロですね」 違いますと強い口調で言い返すと 「ではなんのプロなんですか?」 カメラの光が瞬いていくつものマイクが彼に向けられた。 「もうほっといてくれ。俺はなんのプロでもない」 記者は納得したようにマイクを離した。 しばらくしてはっと何かに気づいた顔をして 「なんのプロでもないプロ。それこそ究極のプロの中のプロですね!関心です」 そう言う記者にあきれながら男は叫んだ。 「違う!俺はプロなんかじゃない」 今月号のある雑誌に出所後初インタビューと題され「絶叫のプロ」 そう書かれた見出しに刑務所をバッグに叫ぶ男を写したカラー写真が掲載された。 2016/07/31 13:33
[751] 献身 - どるとる 彼は昔から乱暴だった。何かというと人にあたる。 口より先に手が出るタイプだ。 そのために周りからは嫌われたがその腕っぷしを買われて組に入った。 やがて男はそこそこの地位にのしあがり舎弟のような弟分を抱えるまでになった。 チンピラ上がりのヤスが男を兄貴と慕いいつもあとをついてくる。 男が右に行けばヤスも右に。 男が左に行けばヤスも左に。 まるでカルガモの親子のように男のあとをついて回った。 ある日、男が些細ないざこざでチンピラ風の数人をぼこぼこに殴った。 なかなか手応えのある相手で傷だらけの体で男は帰路に着く。 夢の中に神様を名乗るじいさんが出てきた。 じいさんによるとお前は人様に迷惑をかけている。よってあと一度でも人を殴れば地獄に落ちるという。 だが、逆に人を助ければ天国に行ける可能性もあるという。 それから男は人に親切にしたり自らすすんでボランティアに参加したりした。 男の変わりように周りは男を白い目で見る。 やがてやくざが善行をするなどおかしくなったとしか思えないと組を追い出されてしまった男は感謝されることの喜びを様々な人との出会いによって気づく。 ある日、病院で少女に出会い臓器提供者を探しているという話を聞く。 だが提供者がなかなか見つからず合うドナーがない。 男は自らが提供者になり得るか調べる。すると少女と同じ血液型でつまりは提供できるとわかった。 男は自らの命を捧げわざと飛び降りをするとヤスに自分が死んだあと臓器を少女に提供するように言付けを頼み、少女は男の臓器提供により生きることができた。 少女は男の墓の前で涙を流しながら両親とともにありがとうと男の冥福を祈り手を合わす。 その光景を雲の上から見ていた男は傍らに立つ神様に 「やっぱり感謝されることはとても気持ちがいい。私は今までそれに気づかなかった」 そう言って天国の門へと歩いていく。 2016/07/31 14:06
[752] 痛みのラリー - どるとる
普段から部下に対しては傲慢な態度をとっていた片岡はよく部下を殴ってはストレスを解消するということをしていた。
小さなことで部下を殴った瞬間、エレベーターが四階に着くと、たくさんの人が乗ってきてその中の一人の肘が片岡のほほを直撃。 それから他人や家族に手をあげると同じだけの痛みが様々な形で跳ね返ってくるという現象に見まわれた。 大きな痛みを与えればそれと同じく大きな痛みが跳ね返ってくるし、小さな痛みならばそれと同じく小さな痛みが跳ね返ってくる。 そのことに気づいてからは部下に手をあげるようなことはなくなった。 ある時、男の勤める会社の営業課にゴキブリが出た。 スリッパで叩いてゴミ箱に捨てるとみんなから賛辞を受けた。 そして喜んでいるとあることに気づく。 「やってしまった」 その頃NASAでは空から巨大な隕石が突如落ちてくるのを衛星がとらえた。 女性職員が言う。 「隕石が落ちていく方向にあるのは日本何々県の何々商社です。もう間に合いません。あと3時間もすれば隕石は間違いなく地上に到達します」 職員は続けて言った。 「でも不思議なんですよ。最初の観測では隕石の軌道は海に落ちるはずだったのですが、まるで隕石に意思があるように瞬間的に隕石が突然方向を変えたんですよ」 2016/07/31 14:34
[753] はい、カット - どるとる 「はい、カット」 その日エミはあるドラマの撮影をしていた。 撮影が終わり宿泊しているホテルに帰る。 長期に渡る撮影のためホテルに部屋をとりそこから撮影所に向かっているのだ。 演技にかけては自信があるエミは将来は大女優になることを夢に見ていた。 夢の中でも彼女は女優だった。 何度も何度も読み返した台本の台詞を流れるように語る。 「はい、カット」 そういう監督の声に目を覚ますと自分はホテルにいたはずなのに稽古場のパイプ椅子で眠っていた。 向こうには小さな舞台セットがあり見知った男優や女優が演技をしていた。 NGを出して落ち込んでいると監督が疲れてるじゃないの?と嫌みをいう。 ホテルに帰りベッドに倒れるように眠ると、再び 「はい、カット」 監督の声で目を覚ます。 無意識に撮影所に来て演技をしている自分がいる。 セットとして用意された姿見に衣装を着た自分が映っている。 撮影があと一回で無事終わるとクランクインまで数日という時に女優は倒れてしまう。 仕方なく、代役を立ててドラマは無事完成したが、エミとしては納得がいかない。 何度も監督に撮りなおしを要求したが、その要求は奇しくも拒否されてしまう。 そして疲れきった様子でお酒を飲み酔いつぶれてしまう。 ホテルで眠りに着いた。 「おい」と声をかけられた。 はたと気づくとそこは撮影所であり撮影開始の数分前。 「今、行きます」と言ってセットに入ろうとした瞬間、倒れる。 倒れる間際、監督が 「はい、カット」と言い、続けて 「テイク アクション」 再び目覚めると先ほどと全く一緒の場面。 おいと呼ばれ撮影セットに走っていく自分。 もう何度も何度も繰り返しているのに一向に先に進まない。ずっと同じシーンの繰り返し。 このままあとどれくらい繰り返せばいいのだろう。 そしてまた先ほどのシーンを倒れるまで繰り返す。 2016/07/31 15:14
[754] 養殖 - どるとる 街中を埋める人混みの中にスーツを着た男がいる。 男は台本を手にカツカツと軽快に歩いていく。 男は町行く人に声をかける。 「やあ、久しぶり」 声をかけられた女は怪訝そうな顔で男を見る。 男は再び歩いてゆくと今度は別の人に声をかける。 「敵兵発見」 銃を構えるしぐさをするとバンバンと銃声を真似た声を出した。 男はそんな感じで道行く人に声をかけては不可解なことを言う。 やがて男は急に苦しみ出してのたうちまわりながら動かなくなった。 やがて誰かが呼んだ救急車が来てタンカーに乗せられた男は運ばれていった。 ベッドに寝かされた男の隣には初老の科学者がいる。 科学者はため息を吐きながらまた失敗かと呟いて部屋を出る。 部屋の奥には巨大な空間があり無数の人間が立っている。 しかしどれも精巧につくられたロボットで、様々な職種の制服を着ている。 その建物の外の門には 「人間養殖・培養研究所」とある。 2016/07/31 15:32
[766] 狸の泥舟 - どるとる ある男がバスに乗る。 つい眠りこんでしまい目覚めると知らない町にバスは停まる。 ここはどこか訪ねようと運転席に向かうと運転手がいない。他の乗客もいないので仕方なくバスを降りる。 バス停をあとにすると、しばらく同じような田んぼばかりの景色が続く道をひたすら歩いていく。 すると古い神社が見えてきて鳥居の前におじいさんがいて おじいさんは水をくれと男に言う。 男はそれを無視しておじいさんを蹴飛ばしてしまう。 神社を過ぎてしばらく行くと若者が立っている。 しかし、若者は片足がなく杖をついている。 若者はおにぎりをくれと言うが、男は先ほどのおじいさん同様に厚かましい奴だと蹴飛ばしてしまう。 やがて、川があって川を渡るための船頭がいたが、川を渡らせるために船頭は百円寄越せとい言う。 男は船頭を川に突き落とし船を奪い船で向こう岸に渡ろうと漕いでいく。 真ん中あたりまで来たときに船は溶けて沈んでしまう。 来た方を見ると船頭が先ほどの若者とおじいさんの二人と並んでもっと沈め沈めと言っている。 男が沈むと三人はくるりと空中で回ると三びきの狸になった。 翌日の新聞にバスの中で男性死亡。死因は呼吸困難による窒息死。 そんな記事が載った。 2016/08/11 15:44
[768] 熱帯夜 - どるとる ある部屋で四人の男たちが麻雀をしている。 皆で牌をかき混ぜる。 役満続きの平井が一人勝ち。 再びやり直し、また牌をかき混ぜる。 外がなんだか騒がしい。人が行き交う足音やサイレンの音まで聞こえる。 騒音もたいがいにして欲しい。 気にせず麻雀を続ける。 相澤がリーチを迎えたところで平井が麦酒をこぼすと野田がタオルで拭いてやる。 遠藤がそそっかしい奴だと笑う。 それにしても今夜は暑い。外は騒がしいし、部屋中が赤いライトに照らされているように真っ赤だ。 瞬間平井が麦酒をこぼすと野田がタオルで拭いてやる。 遠藤がそそっかしい奴だと笑う。 牌をじゃらじゃらとかき混ぜる。 そして平井が麦酒をこぼせば野田がタオルで拭く。 アパート外の会話。 「もうマンションには住民一人残っていません」 「よし、消火を始めろ」 勢いよく燃え盛るマンション。炎に向かってポンプ車のホースの水がかけられる。 四人の男たちは相変わらず麻雀をしている。 ある程度ゲームが進んだところで平井が麦酒をこぼす。 床に敷いたマットレスに麦酒が広がってゆく。 遠藤がそそっかしい奴だと笑う。 2016/08/21 01:31
[769] 感動の産出 - どるとる 平賀は売れない俳優。役がもらえてもエキストラばかり。 新聞の折り込みに劇団員募集のチラシを見つける。 平賀は所属する事務所をやめてその劇団に入ることにした。するとその劇団でも指折りの名優にまでなった。 やる舞台ほとんどが盛況。 賞もいくつかもらうまでになった。 そしてある感動ものの舞台をやることになりその主役を任された。 舞台が終わり感動の渦に包まれる。 拍手をする観客。 だがおかしなことにいつまでも拍手が止まない。 おかしいなと思いながら幕が降りるのを待っているといきなり後ろから刺された。 振り向くと劇団員たちが笑みを浮かべて彼を滅多刺しにする。 刺したナイフを抜いて返り血を浴びて血まみれになった座長がおもむろにマイクを手にし、こう言った。 主役の死こそ最高の感動です。どうですか?お楽しみいただけましたか?」 すると凄まじい拍手の渦が巻き起こった。 2016/08/22 12:24
[770] トンネル - どるとる 恵美は散歩中にいきなり背後から羽交い締めにされた挙げ句目隠しをされトラックの荷台に放り込まれた。 どれくらい経ったのか目隠しをとられるとそこは施設のような場所で 「アナタにほんじん?」 そう聞かれたのではいとうなずくと外人の男は日本人と聞くと嬉しそうに笑顔になり、彼女を歓迎した。 出された豪勢なご馳走を食べてワインを飲む。 最初は毒でも入ってるのかと疑ったが、毒味のつもりなのか先に外人が食べているところを見ると毒は入ってないようだった。 施設には日本人は自分一人らしかった。 ここどこなのか聞こうとしたが、なんだか恐くて聞けなかった。 数日をそこで過ごして施設での暮らしにも慣れた頃、エマというフランス人の女の子と友達になった。 エマにここはなんなのかを聞くと生存者のための施設らしい。 生存者とはなんなのかと問うと、よくわからないという。 やがてさらに数日経つと、エマはトラックでどこかに運ばれていった。 その夜、恵美は施設を抜け出すことにした。 驚くほど警備は手薄で簡単に抜け出すことができた。 途中トンネルがあったのでそこを抜け出すと白い光に包まれた。 「おい、しっかりしろ」 そんな声に目を覚ますと懐中電灯を手にした数人が自分の周りを取り囲み安否を確認している様子であった。 見渡すとそこは路地裏のようなところだった。 「良かった、良かった」 そう言うと男たちは何があったのか説明した。 「我々はある国が開発した爆弾の軌道をそらしたが、かわしきれなかったこの町が爆撃された。生存者を探しているときに君を見つけた」 あちこちが痛い。見ると膝や顔に軽いやけどやすり傷がある。 「ここは危険だ。我々の施設に来なさい」 そう言って男たちは恵美をトラックに乗せて運んでいく。 途中にトンネルがある。 恵美は見覚えがあったがどこで見たのか。よく思い出せない。 2016/08/22 12:49
[771] 爆破犯 - どるとる 爆弾事件を起こしうんよく逃げおおせた川栄。二年後、未登録の電話をとると、自分と同じ声で。 「あと二分で爆発するぞ」そう聞こえた。 なんのことかわからないでいると、二分後川栄の体が爆風と爆炎をあげ肉片を撒き散らしながら吹き飛んだ。 2016/08/22 15:03
[772] 二分後の未来 - どるとる 最初は何かの病気かと思った。 まるでフラッシュバックするように今見ているだろうものと同じ景色がスローテンポで流れる。 いつもの公園のベンチに座っているとベンチから見える眺めがゆっくりになる。 しばらくするとまたいつもの感覚に戻る。 その間、凡そ二分。 気づくと何度かそういう感覚になるがある段階で回数を重ねると二分後の未来を見てるとわかる。 目の前に女の子がいて赤い風船を誤って手から離してしまう光景を見たあとにそれと同じことが二分後に起きる。 ただ二分後の未来がわかったところで何の助けにもならずただ迷惑なだけだった。 しかしたまに事故を未然に防いだりすることもあった。 今も目の前で二分後に男の子にトラックが突っ込んで男の子が轢かれてしまう光景を見た。 咄嗟に体が動き男の子を助けようと男の子を抱き抱えるようにしてトラックをかわしたところにもう一台のトラックが死角から突っ込んできた。 時刻にすると二分二秒後のことだった。 母親の絶叫する声が公園内にひびいた。 2016/08/22 15:11
[773] 借運 - どるとる ついてない。 また福引きでティッシュを引いちまった。 白色の玉を手にため息をつく片山。 ある日、運をローンで月々借りることが出来るという話を聞く。 ラッキーとばかりに運を借りる。 お金を借りるのとはわけが違うので運を借りるとなると、後々不運に見舞われることになるらしいが、彼にはそんなことはお構い無しだった。なにしろ今までがついてなかったからだ。 やがて彼は自分でおこした企業が成功し、社長になった。 だが、ある日身内に不幸があった。 母親が死に、まもなくして父親が死に月々に友人や親戚に不幸があった。 ある者は病気になりある者は事故に遭い、ある者は行方不明になった。 いよいよおかしいと思い、あのローン会社をたずねた。 ローン会社の人間が冷たく言い放つ。 「だから言ったでしょ。不幸があとからやって来ると。不幸はあなたに訪れるとは限りませんよ」 やがて男は自ら会社をたたみ、莫大な借金を背負い、断崖に見投げをした。 しばらくして生き別れた男の幼い妹にローン会社の人間がやって来て、片山が亡くなったことによって発生した運を受けとる権利を得ることが出来ると説明。 男が借りた運が死によってすべてチャラになりそれでもまだ残っている運の使い道をどうするか妹にたずねると妹はその運をお金に変えて、男に立派な墓を立てるようにと言った。 2016/08/24 12:31
[774] 落下 - どるとる 佐山は絶叫アトラクションが好き。 遊園地に行ったら、ジェットコースターには必ず乗る。 対して彼の恋人の真美は絶叫アトラクションが嫌いだった。 無理やりジェットコースターに乗せた佐山はもうすぐで落ちるぞという落下地点まで来たときに気絶してしまう。 気絶している最中、妙な光景を見た。 ストレッチゃーで運ばれる自分。 先には手術室と書かれた部屋。 周りを囲う医者とナース。 泣きじゃくる真美。 やがて気づくとマシンは地上に着き、みんなが降りてゆく。真美と一緒に降りると 「なあんだあなたも気絶することなんかあるのね」 そんなことを言う。もう一度乗ろうと言うと真美は待ってるという。 一人、順番を待ち再びジェットコースターに乗り、あの落下地点まで着たときに今度は急に何十メートルもあるビルの屋上から落下する光景を見た。 妙にリアルだ。すごい。 あまりの怖さにうわぁと叫び声をあげる。ハッと目を覚ますと白衣を着た人物が横にいて 「どうです?わが社の落下体験マシンは。 あらゆるシチュエーションでの落下をお楽しみ頂けます」 佐山はもう一度お願いしますと言っておこしたからだを横たえた。 白衣を着た人物はマシンのスイッチを入れて 「それでは今度は工事現場の足場から落下し、地上より250メートル上空から投げ出される場面からのスタートです」 2016/08/24 12:53
[776] 笑われ屋 - どるとる 野島はお笑いの仕事をしている。 主に日常の中にある笑いをネタにして提供する。 その日も数人のお客様を相手に小さなステージでお笑いライヴをしていた。 お茶をこぼして台詞を言う下りのところで何も入っていないはずの湯飲みを転がしてギャグを言うと笑いが巻き起こる。 一時間あまりのライヴが終わりアパートに帰る。 そして翌日もライヴをする。 そんな毎日が繰り返される。 ある日、おかしなことが起きた。 ちょっとつまずいただけで主婦に指をさされてゲラゲラと大笑いをされた。 そればかりではなく駅のホームで財布を落としただけで腹を抱えてその場にいた何人もの人間が一斉に笑い出す。 おかしな日だ。その日から全然ライヴで笑いがとれなくなってしまう。 代わりに日常生活でポカをやらかしたりすると誰彼構わず笑わしてしまう。 その日もライヴをしにステージに向かうタクシーの車内でお釣りを千円と一万円を間違えただけでタクシードライバーがハンドル操作を誤りそのまま電柱に激突した。 幸い、大きな事故にはならなかったが、事故を起こしたあともドライバーはゲラゲラと苦しそうに笑い悶えていた。 野島はそれをただ呆れたように見ていたのだった。 2016/08/25 12:35
[777] 臓器ドナー - どるとる 急患で運び込まれた中林。 田舎の病院で設備もなくかといってほかの病院に移している時間はない。 もちろんドナーなんてない。 先生と婦長が会話をしている。 意識だけがかすかに残っている中林は会話の内容を聞いて戦慄する。 「この際、豚の内臓で手術する他ないな」 うわぁと目を覚ます中林。 そこは病院のベッドの上だった。 退院の日、病院の入り口から出たときに養豚所のトラックが目の前を過ぎていく。 こちらをじっと見つめる一匹の豚がぶひっと鳴くと、中林も無意識にぶひっと鳴いた。 口を抑える中林。 どうやら昨日の会話は夢などではなく現実だったらしい。 2016/08/25 12:53
[778] 流行り - どるとる 【前口上】流行というものはいつの時代にもあるもので、その時代を彩るまさに代名詞のようなものである。 しかしたとえば流行にならざるもの。 あるいはなってはいけないものが流行になってしまったらどうでしょうか。 自殺。殺人。事件。事故。。 そんなマイナス性のあるものが流行になったら、その時あなたは気づく筈。すでに奇妙な世界の住人になってしまっていることに。 流行の最先端を行く東京のとある町に住むOLの久美。 流行とあらばなんにでも手を出す。 洋服にアーティスト、売れているものは片っ端から買いまくるし、新しい情報を常にPCやスマホでチェックする。 雑誌のチェックも怠らない。 それが仇になったのか流行に乗らずにはいられなくなってしまった。 やがて流行っている服がどんなにダサくても着なければいけない。そんな脅迫観念を抱くようになった。 同じ服やアクセサリーを身につけた人たちが町でよく見かけるようになった。 今までよりさらに尋常じゃない流行りようだ。 やがて自殺が流行り出した。 友達はこぞって自殺をする。自殺の楽しみを長く味わうために死なない程度に体を軽く傷つけたりあるいはわざと縄で首を絞めるなどのささやかな苦しみを与えたりする。 彼女も例外ではなかった。しかし、自殺はあまりにリスキー。 彼女は一人、町から出ようとする。流行りのない国へ行こうというのだ。 空港に来たときに町中の人間が集まっているんじゃないかというくらいのたくさんの人間でごった返していた。 流行はとうに移ろい、今や一人旅ブームになっていたのである。 彼女は飛行機に乗り込むとハッとして 「しまった。また流行に乗ってしまった」 旅客機の行き先は「ハワイ」 ハワイアンブームに乗らなければいいのだがと一抹の不安を抱いた。 2016/08/25 20:06
[779] 我慢 - どるとる 外はムシムシとした真夏の太陽がアスファルトをこんがりと焦がしている。 喫茶店内、入り口から一番遠い席に座る二人の男。 若い男が中年の男に「私は我慢の限界なんです」 と言うと、中年が 「何がだい?」と言う。 だがそれには男はこたえずに数分沈黙する。 数分後、再び男は 「もう持ちそうにありません。退避してください」 「でもまだ珈琲が途中だし」 そう男が言う。 しかし先ほどから若い男は苦しそうな表情をして顔がこわばっている。 ふいに男が砂糖をとろうとして若い男の前に置かれた水を倒してしまった。 ばしゃあという音。 若い男は避けるように立ち上がる。 その瞬間、 「ブベベベベ」 という凄まじい屁の音がした。 とたんに喫茶店は炎に包まれ燃え出した。 「私の屁は可燃性なんです」 そう若い男が炎の中で中年に言うが、中年は白目を剥いて気絶していた。 2016/08/25 20:20
[780] 副作用 - どるとる 大臣が病気になった。特別な薬で、その料金が高く国家予算並みである。 なんとか大臣はお金を用意して、薬を買った。 薬を飲んだ大臣は化け物に変わってしまう。鏡を見ると見たこともない生物だ。 ほかの人間に自分がどんなふうに見えるかと問うと、自分らと同じように見えると言う。 しかし、大臣には自分がどう見ても化け物に見える。 手が二本、足が二本ある肌色の気持ち悪い生物に。 鏡を見るたびに吐いてしまう。 あの薬を一度でも飲んでしまうと自分の姿形が自分の目にだけ化け物のように見えてしまうという。 困ったことにそれが副作用だと医者は言う。鏡に映る大臣の姿は半人半獣の生物だった。 2016/08/26 12:42
[781] 美の基準 - どるとる エリカは誰よりも美人だった。 しかしまだまだ自分は美人ではない。 そんな思い込みから周りの声も聞かず整形を重ねた。 整形はうまくいきおかげで誰もが認める美人になった。 しかし流行り廃りは早いもので美人の基準は平安時代まで遡りぽっちゃりとした不細工顔が美人だという認識になり彼女は次第にあろうことか不細工と呼ばれるようになる。 それに腹を立てた彼女は整形をし今度は時代に合わせた不細工な顔に変えた。 彼女は持て囃されたが、やがてしばらくして美人の価値基準は戻ってきれいな顔立ちの人間が好まれるようになった。 整形を重ねた結果これ以上整形をすれば顔が崩壊しかねないと医者に言われるが無理やりに整形をしてしまう。 整形後、鏡を見たエリカは満足そうな顔で病院を出る。 美人が持て囃される時代は過ぎて今や猿顔がトレンドだった。 車のミラーに映るエリカの顔はまさに猿そっくりの顔だったのである。 2016/08/26 12:53
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