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感想掲示板  〜 記事No.782に返信します 〜

[782] カウント
投稿者:どるとる


その日は朝から妙だった。
朝ごはんにはハムエッグとトーストという地味なチョイスをしていつもの時間に家を出た。
なんの問題もなく順調な出だしだった。
通りすがる人、会話をする二人の主婦や元気にマラソンをするおじいちゃんに挨拶を交わす。

おはようございますと言うと笑ってた人も急に真顔になって係数計というのか
あのカチカチと数をカウントするあの小さな機械。

あれを徐に手にしたかと思うと私のほうに向けてカチカチやりだす。

主婦もおじいちゃんも子供でさえいつもそんなものを持ち歩いてるのかとそんな疑問も生まれそうなほどにポケットや鞄から取り出したかと思うとカチカチやる。

私に会うまでは全然普通なのに私が通る瞬間、スイッチが切り替わるようにおかしな行動に出る。

最初は赤の他人ばかりだったが、やがて喫茶店で友人と会話をしているとさっきまでは普通だったのに急に係数計を取り出してカチカチやりだす。

挙げ句の果てには付き合ってまだ日が浅い彼女がソフトクリームを食べていると急にカチカチ音がして。
嫌な予感がしてそちらを見るとやはりカチカチとやっている。

何をカウントしているのかなんて聞いたって無駄だった。
カチカチと鳴らしながら気でも狂ったように口でも音にあわせてカチカチと言っている。

町を抜け出そうとしたが、たくさんの人間に途中道を遮られ追いかけ回された。

追いかけ回される間、不思議に彼らはカチカチと口にする速度が速くなっていく。

やがて駅前のアーケードの階段から誤って足を滑らせ転落してしまう。
無数のカチカチという音と言葉が聞こえる中で男は頭から血を流し息絶えた。

するとまるで何事もなかったように男を囲んでいた人たちは散り散りになっていく。

カチカチという音は男の脈拍や心音と同調した音だったのである。男が死亡したことによってその命の音が消えたのだ。

2016/08/26 17:08


[783] 王様の椅子 - どるとる

商店街の福引きで特別賞なるものを引き当てた。
一等がハワイだからよほどいいものがあたるのだろうと鼻息を荒くしながらどんな商品が出るのか楽しみにしていた。

すると「王様の椅子」と呼ばれる小汚い椅子が商品だと福引き屋のオヤジが言う。

「あんたは運がいい。これで当分はいい思いができるよ」

そう言って仕方なくその椅子を持ち帰る。

椅子を持ち帰ってあまりに汚かったのでタオルで拭いてやると座れる程度にはなった。

せっかくもらったからには使わないとと思い縁側に置き、昼寝用の椅子にすることにした。

その椅子で昼寝をすると妙な夢を見るようになる。

夢の中では自分は遠い異国の王様らしく羽根団扇であおぐきれいな女と金色に輝く王宮。
たくさんの美味そうな肉料理と果物の数々に舌鼓をうつ。

最初はほんの数秒程度の夢が数分、数十分、数時間と長くなりしまいには1日や一週間くらいの長さに思えた。

どちらが現実なのかわからなくなる程に。

現実の自分はさえない商店街にあるちんけな店のせがれだが椅子に座れば一国の王になれる。

やがて椅子に座ったまま夢の中で自分は覚めない夢を見続けてかれこれ十年が過ぎた。
時間の概念は正確ではなくもしかしたらそれよりずっと時間が経過したのかも知れない。

さすがにやることがないので退屈をもて余してしまった。
椅子から離れようとするが立ち上がることができない。

やがて夢が飽きてしまい早く覚めろと念じていると、急に視界が歪み目眩がした。

目眩のあとに気づくと自分はごみ捨て場にいた。
たくさんのごみに埋もれている。
どうやらごみ収集所のようで、ボロボロになった椅子に座っていた。
自分はさえない店のせがれどころか家も家族もないホームレスだということに暫くして気づいたのである。
今までのはすべて自分が作り出した妄想の世界だったのだ。
2016/08/28 17:32

[784] 英雄と呼ばれた男 - どるとる

島野はある日ゴミを道で拾った。
それをゴミ箱に捨てた。
たったそれだけのことで周りから賛辞を受けた。

「君は偉い。英雄だ。是非ご馳走させてください」

その日から何か小さなボランティアや人助けをするたびに賛辞を受けた。過剰なほどの人々の扱いにさすがに悪い気がして断ると英雄に何もできないなんてと泣き出す始末。
なかには死のうとする人までいるのでわかりましたと仕方なくご馳走になったりした。

今の彼女もそんな中で出会った。
彼女は英雄の彼女になれるなんて素晴らしい。自分はついていると何かあるたびにありがとうありがとうと涙を流して感謝する。

やがて英雄を讃えようという団体まで出て来た。
町では英雄を讃えようという催しまであり、調子に乗った島野は自棄だと思い彼らの賛辞に素直にこたえることにした。

ある日曜日、町で見かけた女の子が自殺をしようとしていたので助けたときに

「ありがとう。あなたは英雄。あなたには感謝してもしきれません。この感謝はいずれ返しますね」

そう言って行ってしまう。
やがて黒塗りの車が島野の家に来て聞けばあの女の子の使いだという。その車に乗って女の子の家に向かうと盛大な歓迎を受けた。
やがて帰ろうとしたときに扉をふさがれて

「私はあなたに命を助けられました。しかし命を助けられた感謝は何をしても返しきれません。なので由緒ある私どもの家に代々あなたの名を伝え継ぐためにあなたには即神仏になって頂きます。あなたの名は後世まで語り継がれることでしょう」

そう娘が言うと島野は薬のようなものを嗅がされやがて意識がなくなった。

やがて娘の家のエントランスに英雄というタイトルのつけられた立派な剥製が設置された。

その剥製は指を空に突き立てられたポーズをとらされた島野だった。
2016/08/28 17:52

[785] 白昼夢 - どるとる

ある昼下がり交番に男が慌てた様子で駆け込んでくる。

ちょうどパトロールから帰ったばかりの巡査が男を椅子に座らせてなだめ透かす。

「まあまあ、落ち着いて何を盗まれたんですか?」

すると男は落ち着きを取り戻し、自分の身の上話を始める。

やれ自分は難産で生まれただの結婚したのはいいものの妻が乱暴な奴で結局離婚しただのと延々と子供のときの話や最近の話をぐちゃぐちゃに織り混ぜた人生談を聞かされた。

民間人の話を聞くのも警官の勤めと真面目だった巡査はうなずきながら聞いていたが、やがて何回も同じ話をする男の退屈な話につい眠ってしまう。

「おい、川上。起きろ」

そんな声にはたと気づくと眠ってしまったことに気づいて、寝ぼけたように

「はい」とだけ返事をするとなんだか寒い。

見るとパンツ一枚の姿になっている。

これはどうしたことかと思ってると交番の中が荒らされてひどい状態になっている。

引き出しを開けられていろんなものが散乱していた。

上司はカンカンだ。
目の前には何も書かれていない真っ白な被害届がある。

上司はそれはなんの被害届だと聞くと

「私の、私の被害届です。制服とあと備品を盗まれました」

大きな怒号が交番内にひびいた。
2016/08/30 12:26

[786] 卓上ゲーム - どるとる

商社に勤める綿貫はギャンブルに目がない。
競馬や競輪はもちろんのこと暇があれば会社を休んででもパチンコに行く嵌まりようだ。

しかしギャンブルで借金をこさえた綿貫は金もないし、どうしようかと思ってると怪しい男に道端で声をかけられた。

誘われるまま雑居ビルの階段をおりていき扉を開けると数人の男が机に向かって何かをしている。

机に座るよう指示され言われたとおりに座ると何をするのか説明もなく案内してくれた男は奥に引っ込んでしまう。

何をすればいいのかと男たちに聞くが、男たちは何もこたえない。

ただ、ひたすらに数字を言い合っている。

男は三人いて、まずひげ面の男が98というと太った男が97という。そして老人が96という。

どうやら数字を減らしていき、それを順番に言い合っていくルールらしい。
なんの面白みもないゲームじゃないか。

しかし暇潰しにはちょうどいいかと最後の老人に続いて自分も数字を言うことにした。
途中参加は認められるのかと思ったが男たちは自分が参加したことをとがめもせずに自分を含めた形でゲームは続く。

50を過ぎたあたりでなんだか体が妙にだるくなっていく気がした。
気のせいかと思ったものの数字が減っていくたびに体から熱がうばわれていく。

とうとう30を切るとめまいと吐き気に襲われた。
このままじゃマズイとある瞬間に

「100」と叫ぶと三人の男が一斉にこちらを向いてチッと小さく舌打ちするとかき消すようにいなくなってしまう。

そのとたんに強烈なめまいがしてふと気づくとベッドの上に寝かされていた。

隣には看護婦がいて

「気づかれましたか。一時期危ない状態だったんですよ。生死の境をさまよって。でもバイタルが正常値にいきなり戻って吃驚しました」

看護婦に聞けばいきなり路上で倒れて病院に運び込まれたらしい。念のため検査入院を勧められた。
2016/08/30 12:53

[787] 選択@ - どるとる

人はいつもあらゆる選択に迫られます。
今日はどんな服を着ていこうか。
何時に家を出ようか。どの道を使おうか。誰とすごそうか。
選択とは必ずどちらかを選ばなければなりません。それが二択であれそれ以上の選択肢であれ結果の出ない選択は私が知るかぎりこの世界にはありません。
しかしその選択があなたの人生をも左右するとしたらどうでしょう。あなたは選択を間違えずに成功をつかみとる自信はありますか?
これは選択を余儀なくされたあなた自身の物語かもしれません。

国枝は昔から自他共に認める優柔不断な男だった。
そんな性格からか周りからは疎まれていたりする。

昼の社内食堂。B定食にするかA定食にするかで迷っている。

同僚たちはすんなりと決めていく。
どうしてあんなに軽々と決められるのだろう。それが国枝は不思議でならなかった。

結局、気づくと昼休みは終わり昼飯を食いっぱぐれた。

腹は空くが、選ばなかったのはある意味正解だった。迷ったまま安易に決めてしまえばおそらくそれが不安材料になってしまい仕事に集中できないからだ。

だが、反面選択することをもっとスムーズにできたら。それが彼のささやかな夢だった。

そんな彼にも迷わずに選択できたことが一度だけある。

落としたハンカチを拾ったことから付き合った彼女の留美からデートに誘われたときだ。
行き先は遊園地。
その日は楽しかった。

しかしある日こんな出来事が起こった。あちらこちらで助けてという声。
ある人は犬に袖を捕まれて困っているし、またある人は風船を木に引っ掻けて困っている。

周りには人がいるのになぜか誰も助けようとはしない。
そして助けを求める彼らは一斉に国枝に助けを求める。

どうすればいいのか。まず先に誰を助けどんなふうに助け、そしてどう声をかければ。

助けてほしいのは寧ろこちらだった。
2016/08/31 21:19

[788] 選択A - どるとる

困り果ててしまった。い

そのうちに目の前で女の子が車に乗せられそうになる。

一方ではおばあちゃんが引ったくりにあっている。

どちらを助けようか。どちらか一方を選べばどちらかを見捨てることになる。

これ以上ないくらい迷ったが、おどおどしているだけで何もできないでいると、急にまるで芝居でもしていたかのようにおばあちゃんを襲った引ったくりとおばあちゃん、それから女の子をさらおうとしていた数人の男と女の子が無表情でツカツカと国枝に歩みより
「この薄情者!」と罵った。

その瞬間、近くを歩いていた警官の銃を無理やり奪い

「選べないくらいならいっそ死んだほうがマシだ」

そう叫びこめかみに銃口を向け引き金を引いた。

一発の銃弾が国枝の頭を貫通し、国枝はその場に倒れた。

しかし彼を気にかける者は誰一人いなかった。
2016/08/31 21:31

[789] 親切@ - どるとる

親切にされる。或いは親切にする。
それは一見人間味に溢れた行為であるが、それが度をすぎると親切もうざったい。
しかしもしその親切を苦労のように買ってでもしたがる人間がいたら、あなたはその親切を快く引き受けるでしょうか。これは望まれない親切を押し付けられる男の身に起きた奇妙な話です。

親切な男がいた。趣味は募金。
蓄えのほとんどを慈善団体に寄付するなんてことは彼にしてみれば当たり前だった。

その日道に落ちていた1000万を警察に届けた。1000万は皮のバッグに入って路地に無造作に置かれていた。
猫ババしていないか聞かれたが、警察が勘定し終えると申し訳なさそうに詫びを入れる。

「いや、あなたみたいな親切な人がいるんですね。大抵はみんな拾ったり見つけたりするといくらか持ち逃げなんてこともざらにあるし、今回は金額が金額だけにね。そういうケースだと思ったもんで」

だったら警察になど届けないだろうと思ってると簡単な書類を書かされた。その後一週間で落とし主が見つかった。

見るからに気の弱そうな多田という男だった。

ありがとうありがとうこのご恩は忘れないなどと拾ってくれた男の手を握り涙ながらに感謝した。

それからだった。用もないのに何か出来ることはないかといつもしつこく付きまとわれる。

いいですからと言うのだが、彼はそれでは気がすまないと利かない。

最初はありがとうと感謝をしていたがだんだんエスカレートする男の行為に怒りを覚えそろそろやめてくれないかと言おうとした矢先。
あれだけしつこかった男は急に姿を見せなくなった。

やっと解放された。親切にされるというのも大変なものだと今までの自分の行いを反省し、親切も大概にしないとなあと思っていると、

ある時、後ろから刺された。

あの男だった。

「なんで」と言うと、男は平然と
2016/08/31 22:08

[790] 親切A - どるとる

だってぼくと酒を飲んでたときよく会社で上司に怒られるから死にたいって言ってたでしょ。だから希望どおりコロシテあげますよ」

意識がなくなる瞬間、そういえば酔った勢いで多田と飲んだとき死にたいなどと口走った。それを真に受けたんだと思った。

「それは親切とは言わないだろう」

それが男の最後の言葉だった。

警察が来るまでの間、涙を流して自分があやめた男に追いすがるようにして

「まだまだ親切を返しきれてないのに。負債ぶんはぼくの命で勘弁してください」

多田はナイフで自身の胸を刺し貫いた。
2016/08/31 22:22

[791] 忘れられない味 - どるとる

ある山荘の中、山本と五十嵐は共謀して殺したある男のことについて話していた。

どれだけ時間が過ぎただろう。
雨が強くなってきた。ガタガタとドアが鳴る。

やがて、ノックをする音がした。

ドアの向こうにどちら様と声をかけると池田ですという。

その名前を聞いた瞬間、応対した山本は青ざめる。

池田は自分たちが殺した男の名だった。

「少々道に迷いまして体を休めさせてくれませんか?」

中にいれるか悩んだ結果、男たちは池田を中に入れる。

池田は怪我ひとつなく男たちとはまるで初対面といった感じ。男たちとの記憶がなかった。

不思議に思ったが、このまま生かしておいてはいつかばれると思った二人は再び池田を殺そうとナイフを手に池田の眠る部屋にこっそりと向かう。

布団を頭からすっぽりと被った池田にナイフを降り下ろした山本。

その瞬間、池田が布団から這い出て

「また殺すの?」

気づくと自分は洞穴にいて、焚き火の薪が割れる音で目を覚ます。

近くには二つの死体。先ほどまで人間だったもの。

そろそろ焼ける。
一口大に切られた肉の塊にかぶりつく。
血が滴るその肉を美味しそうに食べる山本。

「こっちは五十嵐味
こっちは池田味」

美味い、美味いと肉の味に舌鼓を打つ山本の姿はまるで化け物のようであった。
石の壁に映る影がゆらゆらと揺れていた。
2016/09/06 21:54
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