詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ぼくが
ぼくから許されて
きみがきみから贈られる
ぼくは
ぼくだけど
きみを愛しているわけで
いちたすいち、は
いまならわかる
たやすく
解ける
ぼくは
いつのまにか
こんなにもぼくだったんだね
ほら、こぼれるすべてがやさしくて
しあわせは
ときのなかにある
必ず、ときのなかに
ぼくが
ぼくから満たされて
きみがきみから望まれる
ねがいごとは
難しくしないで
ささやかな日常を
いっしょうけんめいに
小さいなりに
ちょうど
よく。
きのうときょうと
かぞえかぞえて
またあした
ふたりのために
ひとつの
ために
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わたしの水は干からびる
あなたが逃げた
ささいな
謝辞に
わたしの水は追いかける
あなたがこぼした
祈りの岸から
わたしの水は溢れない
あなたがなくした
なみだの代わり
波へと寄せて
いますぐに
つながるための魔法は遠い
忘れたければ忘れなさいと
いちばん近くで
はぐれ通して
消えてゆくことを
どこまでなぞりゆきますか
消してゆくというのに
そのうえに
なお
わたしの水は契らない
あなたがその手を
千切らぬように
やさしく
とけて
わたしの水は知っている
あなたがあなたを
見つける日々も
見つけぬ
日々も
ふしぎをさすらい
いのちは揺れて
わたしの水は
まだまだ
そこか
ら
わたしの水は
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どんな夜にも月は鎮座して
炎と水とがこぼれ合うから
欠けても
ゆるし
て、
けものは静かに
帰属する
荒涼の異国を踏むようにして
夢見の鮮度に奪われて
濁りのそこには
清らかな、
らせん
健気に待つ身を
みせながら
月は、まだか
重なる針に畏れをなしても
継がれてゆくものは
ひとつの冷酷
鼓動を拒むさなかでなら
失わずに済んだかも知れない
手のなかで握るものに
いつからか
傷ついて
紛れる、
ふか
く
ふり仰ぐたび
思い出せるような気配が
肩にそっと
圧力を
まだ、
生きて、まだ、
無言がほころぶ夜にだけ
のぼりゆける
音階がある
ともに、
ともに、触手をかばい合い
ながれのために
その脈拍
は
射抜かれるほどの透明を
つなげて
消えて
しじまは、遙か
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なつかしい匂いに
ひたる冬、
寒さは
使い慣れたはずの指先に
疑いようも無いくらい
数をつのらせて
まもるべきが
すべて、に
なる
泣いてしまうことも
ねむってしまうことも
きっとなりゆき、
逆らうことで
知りうる
空、の
思い出さない約束を
思い出せなくなるまで
ここは、
手紙
宛名を忘れる代わりに
風のことばを
ただ負って
損ねた、
いろ
覚えきれないものは
誰にでもあるから
ささやく形で、
粉雪は
ふり
上がってゆくものが綺麗
舞いながら、散り
さかいを幾つも
さまよって
頬が濡れたら、きのう
きのうはどこにも
下がらない
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ざわめきを聴いていた
誰か、いいえ
それよりもっと
わかりやすいものたちと
孤独を分け合って
ざわめいていた
聴いていた
つばさを諦めることで
繰り返されてゆく、
そのつばさに
そむきながらも
満たされてゆけるから、
どこまでも
どこまでも
とまどい続ける音がある
そこからが、波
水のいのちのそこまでの
くずれるかたちと
真夏はすずしく
託す途中と真冬は祈り
おなじことだったかも知れない
たとえ真逆だとしても
そらから降りてきたところ
あるいはうみを畏れるところ
溜息ひとつも
ひかりとなるなら
はじまりのため
射抜けばいい
すべてを
刹那のうたがため
うごめくほとり
揺らめくかたわら
ひとしれず花のほころぶように、
蒼から目醒める
無数のゆめに
永遠をゆく
水のいのちは
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きみの名前をおぼえた日から
ぼくはふたつを呼んでいる
やさしさは偽らないからね
溢れても
まみれても
ささやかなすべてを
見失わないように
疑うことは
まもることから始まってゆく
信じることは
攻めることから転じた姿
あしたはやがて
きのうに変わると云うよ
いくつのきのうが
安らぐだろう
ここでいま
みたこともない宝石は
いつまでも輝くのだろうし
きっとすばらしいのだろうけれど
気づかないまま
踏みつけてしまったりは
しないものだろうか
語り尽くされたものの隙間から
こぼれるなにかを待ちながら
ぼくは
きみの名前を
ひとつに結んだ
ふたつの腕で
愛のさなかで
真っ直ぐに
真っ直ぐなものをたよっている
やわらかに
やわらかなものを傷つけている
触れるということは
あまりにも非力さを明るくするけれど
それはかなしみではないね
敢えて言うなら、そう
かなしむための
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わたしはまだ
運ばれてゆける
むずかしい物事を
ほかの名前で呼ぶよりも
ここが峠の途中なら、
そらにまぎれず
澄み渡りたい
あなたのそばには無い数を
おだやかに
解き放つ、太陽の真下
優しさはいつも後ろから
雲のかなたの眠りのように
及ぶはずもない、
ひとすじの
みち
留まりながら
うしないながら
なつかしさに長けてゆく
のぞみの水底は、
かたちを拒み
まもりを
永く
凍てつくことは灼けること
せめてもの願いたちが、
吐息をつづって
清らかに、
降り
赤からゆびへ
黒から波間へ
閉じ忘れられたとびらには
だれかの背中が
しずかに灯る
終われない、希求
青から生まれる熱の積もりに
白からのがれて
真冬はこぼれ
いつもいくつも
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きんいろは
かなしいすべだと思います
闇夜のはなは
もっともあかく
ひとみを閉じこめて
火から、
結ばれてゆく、
果実のことなど、
だれもが、
とがめようもなく、
さようなら、
まぼろしのかわりに、
つないでゆきます、
ときに、
くだかれ、
散ることをせず、
似ていることを
ただひとつの手形と
いたしましょう
罪は
ひとしく滅びますので
はじまりかたもその先々も
待たせてはなりません
待つことも
ひさしく
傾きは、
つめたいまま、
汲みあげられて、
まどろみのかたわら、
いとしさに乗り、
かがやきを、
迎え、
いくつでしたか
あしたは
みずの方角へ
とおくの鏡をよぎります
わかれることを
うつくしく
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翼を有する生きものに
あこがれていた
のぞみの場所までは
もちろんのこと
そこから
遥かな地平のすみまで
こころはきっと
羽ばたける
翼を有する生きかたに
あこがれていた
ひとの背中に
翼は不似合いではなく
むしろ
似合うのではないかと思うのに
いまだ一度も
見ていない
ひとの背中に寄り添う風を
翼はいくつ聴いたのだろうか
語りはじめる時刻は
きょうも訪れずに
あきらめることを
どこまで慣れてしまえたら
傷まずにすむだろう
境界線のための
それらの空は
きのうをなくさず
生まれたままで
過去のものごとへと
すり替わる流れをおそれても
自然に
ごく自然に
そそぎ止まない涙のなかで
きれいなままに眠りを落ちたい
ぼくは
あこがれを捨てないことから
あしたを数えた
たとえ翼をなくしていても
まっすぐに
ただ
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雨粒を
ゆるすしかなかったことが熱だった
ほんの
一握り、の
うばわれるものも無く
渡ってもらうことで
どこか安らいでただ濡れていた
それしかなかった、
雨だれに
ほそく
もう、
ちかいと思っていたのに
だれのことばも
こたえに聞こえてしまう
肩はなおさら
ひとりを
耐えて
いつからか
或いは、いつまでか
ふたつの瞳はかさならなくて
無言をあびせる雲たちが、
そら
おなじ、
みなおなじ
ここに、いたいけれど
向こうにも染みて、いたいから
すくわれてしまう水の日は
まだまだ深い、
はなせない
おぼえ忘れた果実のような、
あらがえない
しずくの
めぐみ
ひみつをかばう鍵の重さは
すぐに時計を透けてゆく
ほら、
千の槍が降る
紛れようもないものに
あらわれながら