詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
かじかむ理由は
雪ではないね
それは
雪のなかでこそ
探せるものだけれど
雪そのものは
寝ているだけだね
てぶくろは
つかのまの嘘だと思う
夢だとか
情けだとか
その素顔のことは
きっとだれにも
責められない
信じることで
ほつれてゆくから
疑うべきだろう
その哀しみを
毛糸も綿も
やさしい幻だと思う
すべての冬は
とまらないけれど
確実に過ぎてゆくけれど
吐く息は
てのひらを染みてゆく
守るかぎりは
何度でも
真っ白く
凍てつくことは
しずかな躍動
北風は
言わないね
さよならなどは言わないね
空から降りるすべの下
或いはときどきその上で
頷くことを
なくさずに
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ふたつ、
別々にあるよろこびは
わずかなあいだだけ
並んでみせます
滑らかに
ひとつのループを分け合うことは
しだいに加速を招きます
より一層よろこびたくて
より一層おおきなものを
みせたくて
ふたつ、
別々にあるよろこびは
もともとの場所を知らないのです
そのかなしみが
よろこびをなし
ほどなくそれは繰り返されて
こごえるのです
おそれるべきが
みえなくて
ゼロはたやすい意味のまま
ゼロをはなれていきました
ふたつ、
別々にあるよろこびは
なくなるものだと思います
始めからおわりまで
順序立てることを
忘れたままで
アイス・オン・アイス
もともと
ささいなことでした
消えてしまう寂しさをただ
あきらめきれない
やさしさのなか
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くり返す波に
届かずじまいの手を思うとき
ようやくかぜを
聞いた気がした
この世にひとつの
具象のように
二本のあしで
すれ違えるものを
まちがえながら
ここにいる
ほら、
陸地にはもう
いさりびだけが
くすぶって
おそらくずっと
知らない昔に
触れていた
手探りで
しずかにふさいだ耳のため
拾うことばに
拾われて、
みる
あおくあおく
どこまでも
何よりも
ただ、いまは、
まだ、
かなしみ沿岸で
さかなは必ず真新しい
毎夜、
あるいはその序章としての
語りのなかで
充ち満ちそうに
無音が跳ねる
連続せずに
こころを
踏んで
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もう、
忘れてしまえないだろうわたしを置いて
片耳うさぎよ
にげなさい
どうして、
こんなにも寂しいというのに
深みにはまることを知ってきたのに
どうしても、
ひとを離れては
眠りにつけない
言葉、
ひとのもたらす言葉について
もがいて終わるだけではなくて
知りたい、
知りたいと願えることの
まだみぬ闇を
胸、
胸の奥底にある浅瀬がきらり、
きらりと刺さる嘆きであっても
わたし、
そこでまだまだ
呼ばれていたい
ある、
名前はかならず残ってあるから
言葉、
ほんとうのことから
消えないつもりで
さまようことの
言葉、
でありたい
だけれど上手に
半分だけでも許されはしないだろうか、と
ありえぬ月夜から
ほほえみを
こぼす、
託す
片耳うさぎよ
逃げなさい
わたしのほろぼす
わたし、から
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透明の底にあるものを
探せてはいない、ということを
探しているのだとおもう
それゆえわたしたちは
疑問の形をよそおいながらも
空に吹かれる日々を
なぞるのだろう
丁寧に、
さまよいながら
怯えるのだろう
けがれることを知らない途中で
いつしか覚えた閉じ方は
瞳をすぐに溢れてしまう
いつも、
そうして
たやすく呼んでしまうそれらを
拾い尽くせずに
奪われたままかも知れない
わたしたちは、
永遠に
乾いてゆくから
乾いてゆけるから
ときどき意味を逆さまにして
もとめられ
待ちわびるような
やさしさかも知れない、
永遠は
染みこむほどに
おそれ、わすれて、
消せないような
透明の底にはないものに
届いてしまう、その距離を
ちいさなひかりが過ぎてゆく
この声は
どこにも届いていかないだろう
ときどきそれを解放として
おだやかにおろそかに
しあわせを沈み、
すべての祈りは
底に在る
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こぼれる匂いに
転がるよるに
企んで
膨らんで
それがつまりは
ほほえみで
真顔にあふれていくものは
つややか、な
ひみつ
ふれて
ふるえて
ひたむきに
皮一枚、をたいせつに
して
にがてなものに
抱きとめられたら
ゆっくりでいい
やぶいて
みせて
それが
こころを
弾ませるから
しぶきをあげて
なついていく
から
やわらかな焦りに
包まれるよるは
汗が
うっすら
おもいでになる
いたみはそうして
離れて
つないで
迷いはけして
終わらない、でも、
泣かなくて
いい
いらない果実は
どこにも無い
から
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華やぎなさい、
ささやきに
背中は砂なのでしょう
どうしたって、もう
無音でいられずに
並ぶのでしょう
嘘でも良いではありませんか
道なき道があなたです
それを飲み込む
わたしです
少しの違いがすべて、ですから
畏れることにも頷きます
が、
やぶれることなど
ありえません
どうぞ、
おやすみください
そろそろ魔術にしませんか
ひとつだけ、
裏切るように
水音の
なか
てさぐりの
硬さ、を響いて
満足そう
に
ゆるやかですね
寒さを運ぶ船出の夜は
浅く
とらわれていようかと
ふけてゆきます
杖のかたわら、
乾きにすがり
瞬きもせず
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ふたつの手のひらを
使いこなせない昼下がり
耳を澄ませてわたしは
しずかに風を
遮断する
すべては
それとなく遠い気がして
けれども確証はなくて
言えずに続いた
願いごと
そっと
拒み通してきたあれこれが
わたしの向こうで
陽を浴びている
翼はいつも
やさしく落ちていて
羽ばたくものを
聴いていた
嘘かもしれない瞳のなかに
いくつも窓を磨かせて
待つ身をいつしか
とまどいながら
ふるえる歌に
消えないように
野原にかくれた幼さを
差し出すように
花の咲くとき
わたしはひみつの
教え子になる
透けるばかりの手紙の文字に
そっと涙を温めながら
ひとつの意味を
手がかりに
して
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いつからか
従えずにはいられないような
ある種の隷属のなかで
炎をおぼえた
つめたい石を蹴飛ばしながら
無言の
雨に
含まれ、ながらえ、
水たちの森は
鏡をとおり吸いあげられて
知らないことばが
よみがえる
いくつもこぼれた過ちを
ついばむ小鳥の
一羽となって
灯り、
ほのかに
まがいもの、かも知れない
朝がくる
根を張る禁忌に
背かれ続けているような
樹木の日々を
束ねては
畏怖のかたちに冴えていた
燃されず火を散る
葉脈として
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ひとが
つとめて
恥じらえるよう、
糸はほつれに優れています
こころ
こまやかに
誰もが夜を縫いかねて
きらめく星に
焦がれてしまう
かばい合う布として
擦り切れやすさを離れていかず、
思い
思いに
火と水は
すべからく
かよわきことがはじまりです
原罪の果て
どこにも咲かない救いのために
うまれて喜ぶいたみを綴り、
声はつむぎます
途切れ、そのものを
針の
ほそさが
染みわたるよう、
ひとは逆らい棲むのでしょう
澄みゆくやみの
鮮やかさ
もっともきれいなあざむきに