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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1264] トーチカ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


海岸線を走ると
凍てついた汽水の上に
オオワシが
見える

車通りのまばらな国道に吹く風は
きょうも横なぐり

どんなに晴天だろうと
いや、澄めば澄むほどに
ハンドルを
とられる

海風に弾かれた雪の隙間からは
冬をしのぶ草たちの
鎮火の色合いが見えて
やがて
ぽつりぽつりと
人家が姿を見せ始める

かつての
繁栄を証す看板たちの
役目を終えた形も
姿を見せ始める

トーチカが見たければ
さらなる海岸線へ
赴けばいい

ロマンスのついででも
メモリアルのつもりでも
知らずのうちでも
興味本位でも
さらなる
潮騒へ
赴けばいい

いずれの理由でも
特別に理由などなくても
おそらく
二度目はないだろう

何の気持ちもないままに
迎える二度目はないだろう

安易な言葉の総てを受け止めるようにして
安易な言葉の総てを拒絶するようにして
風穴は今この時も音を立てている

いまや
定かにはしがたい明るみの中で
拭えぬ強固な黒点を背負わされた無数の一瞬が
海風に運ばれて聴こえくる

逃れようなど幾らもあるというのに
晴れ渡る暖かな冬の一日だというのに
それを
彼ら、を
彼女ら、を
待たせているのが見えてしまう

こんなに遠い
こんなに浅い
海岸線を走っていても



2014/03/16 (Sun)

[1265] 伝書鳩
詩人:千波 一也 [投票][編集]


うつくしく帰れ、と
はかない願いを込めた
ささやかな窓辺は
永遠に失われない

ただし、代償はある

例えばそれは
老いる瞳

例えばそれは
老いる瞳の中の
いつわらざる面影

例えばそれは
老いる瞳の外にしか
生まれられない温度たち


信じた末の迷いの空を
一直線に雲がゆく

だれにも
剥ぎ取れない
剥ぎ取るべきではない
やわらかな羽が
永続の輪を
なぞり
ゆく



2014/03/16 (Sun)

[1266] 祝辞
詩人:千波 一也 [投票][編集]


むなしい言葉の重なりに
わたしのあなたは
あらわれます

のぞんだ言葉の重なりに
わたしのあなたは
あらわれます



きれいな言葉の重なりに
あなたのわたしが
あらわれます

かわいた言葉の重なりに
あなたのわたしが
あらわれます



やさしい言葉の重なりに
わたしのあなたが
きえさります

すがしい言葉の重なりに
わたしのあなたが
きえさります



さびしい言葉の重なりに
あなたのわたしが
きえさります

あかるい言葉の重なりに
あなたのわたしが
きえさります




2014/03/22 (Sat)

[1267] 嫌いなもの
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嫌いなものになろうと
おもう

嫌いなものになれたなら
嫌わずに済むとおもう
もう、きっと

好きに
なり始めるとおもう
ようやっと

嫌いなものになろうと
おもう
完璧に


2014/03/22 (Sat)

[1268] 
詩人:千波 一也 [投票][編集]


翼のためを思うなら
自分の足で立つことね

翼の憩いを
奪わぬために



翼のためを思うなら
自分の足を休めることね

翼の務めを
奪わぬために



誰かのためを思うなら
ちがう誰かを
諦めなきゃね

どちらも救えず
終わらぬために




2014/03/22 (Sat)

[1269] いい子いい子
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あんよが出来たら
いい子いい子

おさかな食べたら
いい子いい子

幼い子どもを褒めるはやすし


着替えが出来たら
いい子いい子

なまえが言えたら
いい子いい子

わが子もよそ子も
ちいさな手柄を褒めるはやすし



えがおであれたら
いい子いい子

そばへと寄れば
いい子いい子

あかりに満ちて褒めるはやすし



物をとらせば
いい子いい子

ねむりに就けたら
いい子いい子

分け隔てのない始まりを
与えることはいとやすし

思い出すのもいとやすし

ならば
なにゆえ忘れるのだろう



転んで泣いても
いい子いい子

泣かずに起きても
いい子いい子



手をさしのべたら
いい子いい子

手をひらけたら
いい子いい子



2014/03/22 (Sat)

[1270] 砂の城
詩人:千波 一也 [投票][編集]

砂の城は
潮風にだけ開かれている

砂の城は
形あるものを招きはしない

そのことに
気づいたものたちは
ゆっくり砂へと戻りはじめる

そして
それらの隙間へ
およぶ視線たちも同様に
ゆっくり砂へと戻りはじめる


砂の城は
空洞だらけの構造だから
なにものも閉じ込めたりはしない

それなのに
出口を求めるものたちが
いつの間にか、ある


生まれつきの砂などない

たったひとつのその真実が
孤独の層を
悲哀の層を
築きあげてゆく

崩れることを繰り返しながら
築きあげてゆく




2014/03/22 (Sat)

[1271] 羽つき
詩人:千波 一也 [投票][編集]

かるく、かるく、
つかれる羽は
かつて
どこかの空でした

あかるく、かるく、
つかれる羽は
かつて
どこかの水でした

まあるく、まるく
つかれる羽は
かつて
どこかの頂でした

知らぬが仏の小路では
花の童の盛りです




2014/03/22 (Sat)

[1272] 追いつけるなら
詩人:千波 一也 [投票][編集]


数えきれない星座のようなきみが
言いようもなく妬ましかった

放課後の教室に射す茜の切なささえも
きみは上手に味方につけている気がして
ぼくは焦りだけを募らせていた


裏切ることをしない嘘もあるんだね
この世には

見限ることをしない本音もあるんだね
この世には

いつまで待っても買い手のない品物みたいに
ぼくに向かないすべての誉れを
詳しく知ることがぼくの日常だった


たぶん
追いつけるなら
何だってしただろう

でも、
なりふり構わずに
怖れから逃げるすべだけが
ぼくに光を与えてくれたから
今さら対峙しようだなんて
思えない


抱えきれない荷物など
ぼくの背には在りはしなかった

自由の意味に
こころから真剣に迷えるようなきみが
言いようもなく妬ましかった

追いつけるなら
何だってしただろう、なんて
過ぎたあとなら幾らでも語れる

何も残すことのない重みに耐えられるなら
幾らでも語れる



2014/03/22 (Sat)

[1273] 夢だもの
詩人:千波 一也 [投票][編集]



変幻自在なあやしさを
とにかく、すぐにも
体得したいね

敵があるのが仕方ないなら
そうしてかわしたいものだね


矢継ぎ早に寄せる白目には
理路整然と語るしかないね

日が暮れたって
夜が明けたって
黒目になるまで付き合う覚悟を
持ちたいね


何事も
それなり、の知性でいいはずだね

それなり、の定義は難しいけれど
適切な痛みが伴うならば
おおむね良好な
定義だね


恥ずかしくてもいいじゃない
消え入りそうでもいいじゃない

あなたが指さしかねている
その幻を
あなただけは
確かに愛してやまないのでしょ

べらべら漏らさない佇まいが
ゆかり正しい秘密の所作だもの

後ろめたさは健全の証だね


寂しくなりたいね
虚しくなりたいね
とことん、とことん
思い詰めたいね

あなたにしか守り得ないのが
夢なんだもの
あなたのための夢だもの
哀しいことに耐えなきゃね
苦しいことに耐えなきゃね

だって、どうする
ほんとに失せてしまったときは


明かりなんて要らないね
目の前が見えたらそれで上出来だもの
目の前すら見えないなんて
よくある話だね

明かりの素質があるとしても
それはあなたになんて
向かないからね

そうと知ってもなお
明かりを求めるかい


責めるものには
責めさせておきなさい

無視ではなく
蔑視ではなく
ないがしろではなく
責めさせておきなさい

ときに
その責めるものが
あなた自身であることもあり得ると
わかって、ね


支離滅裂な真っすぐさを
いつも、いつでも
頼りにしていたいね

迷惑だろうと
身のほど知らずだろうと
世間知らずだろうと
愚かだろうと

迎えに行かなきゃならないからね
ずっと、待ち続けてくれるのが
夢だもの


たやすく呼べる、
たやすく呼べるだけ、の
あなたも
わたしも
同志だね


2014/03/22 (Sat)
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