詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
まだ去り切らない
冬を踏む
春の
躊躇をたすけるように
前向きに踏む
それが出来たら
夏は自分を裏切らない
秋の実りも
訪れる
最後の最後まで
冬を踏む
そうしてやがて
春も踏む
その後の夏も
秋さえも
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やわらかな睫毛は
煌めきながら砕けたから
ぼくの腕には、もう
何も残らない
その
残らない感触が
時間、なのだろう
いきているのか
いないのか
真っすぐ過ぎて
やわらかい硬度の向こう側に
ひとを飲み込む孤独が
ある
らしい。
いつかきみは
宇宙のかなたを知りたい、と
教えてくれたね
そんなきみを
思い出すごとに
宇宙を忘れたぼくの暮らしが
鮮明になるよ
眠らずに済むのなら
夢など見ない、かもしれない
夢を見ないで済むのなら
痛みも傷もない、かもしれない
痛みも傷もないならば
幸せに迷うことはない、かもしれない
すべて
憶測だけど
すべてが
誤りの連鎖である、などと
決めたりできないから
しばし、
凍結
あながち
誤りでもないかもしれない、と
再び迷いはじめたら
何事もなかったように
呼び起こそう
いまある
そのままの流れを
血脈を。
頷けない疑問符は皆
いつしかきれいに
逆さまになって
なお頷けない
形を作る
時間がきっと
ありあり、と仲立ちをするけれど
その罪は暴かれない
永遠に
暴かれない
きみが、もしも
冷たい生命体だったら
ぼくはこれほど惑わない
ぼくが、もしも
冷たい生命体だったら
きみのあれこれを
憂えたりしない
ほんの
ささいな遊びで良いから
つかの間の本気を
信じてほしい
覚悟や
決意を
信じてほしい
きれいに消える
その前に
一度しか会えない
その素顔のまま
で。
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ため息を
つきたいがための
ため息に、くもる窓
渦巻く言葉の上辺には
夢を、
夢らしいものを、
夢と呼んで安らぐものを
もとめた日々が
静寂している
ゼロにも満たない
意気地はようやく、今
プラスマイナスの
境目を見る
明日のために
出来ることとは何だろう
今日のためを思って
築いたことなど
あっただろうか
空を
見あげる者を
通過するだけの
風はいつも、冷たくて
すべもないのに
空はただ、かならずの
空だった
温め合えた時代の陰に
遠ざけ合える絆が
あった
相反する思いはみんな
限りなく透明な
ひとつずつ、
で
やがて
ほどかれ
空に消えていく
色を
もたない尊厳は
いまも昔も眠りのさなか
それゆえ
人は術に溺れやすい、
のだろう
始まりの日は螺旋の底で
終わりも何ら変わらない
私が
こうして
語る言葉も
やがては空に消えていく
うっすら、
きれいに、
何事にも等しく
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轟音に
おびえるばかりの私には
列車そのものの
揺れになど
考えの
およぶ筈もなく
可憐な花、
それも一輪の花、
そんな風景ばかりに
こころを砕いて
いた
眺める窓もない箱の外には
ときどき寂しい野原が過ぎて
箱の中身の室内と
調和する、
ときどき
鍵の機能が
金属に似合うわけを
私はそうして
遠巻きに嗅ぐ、
ときどき
掌の中になど
時刻表は、ない
それはもう少し疎遠で
さりげない近しさで
背中あたりに
あると思う
たぶん
時刻表には
形がないのに
形にこだわる愚かさが
気配だけを、ただ
羅列したから
きょうも
誰かが
遅れを気にしたり
優越したりして
背中の翼を
失って
いく
間に合うだろうか、と
問われたならば
どう答えても
結果は同じ
問うた本人が
私でないのなら
いかなる信念で答えても
いかなる根拠で答えても
いかなる情愛で答えても
間に合うものは
間に合うのだし
間に合わないものは
間に合わないのだと思う
轟音の
余韻の中を
貨物列車の最後尾が
木立の向こうに
透過していく、
いま
私に
残していけるのは
万人に向かない
道しるべ
正解だとか
過ちだとかを
促すためではなく、
ここにいたことを
ここで案じたことを告げるための
道しるべ
まだ知らない
駅の名は幾らでもある
知る駅のほうが圧倒的に
すくない
それは
なんと幸福なことだろう
まだ
出会わない
温もりや優しさが
先で待つかも知れないならば
なんと幸福なことだろう
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すれ違う言葉に
疲れてしまうことが
疲れ、の原因
ひとの心を気遣うはずが
我が身がもっとも大切だから
我が身のつぎに
うまく他人を愛せないか、と
右往左往で今日が行く
冬将軍は厳しくて
疲れたわたしを
心底冷やす
だけど、ね
もれなくわたしを
忘れずわたしを
冷ますなら
ある意味、紳士じゃないかしら
必要のない春はない
必要のない秋もない
ならば冬とて同じこと
寒さにうらみを言いながら
寒さに弱音を吐きながら
わたしを見捨てぬ将軍さまに
感謝をするのも
悪くない
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生きる、
ただひとつ、でも
ただひとり、でも
わたしを生きた、
命のために
わたしと生きた、
命のために
わたしに生きた、
命のために
過ちかも知れなくても
愚かかも知れなくても
生きる、
残されたものならば、
残すべきものならば、
生きる、
どこにも至らぬ心でも
なんにも至らぬ体でも
いつか、どこかへ
いつか、なにかへ
愛をつなぐ
命でありたい、
夢をつなぐ
命でありたい、
ただひとつ、でも
ただひとり、でも
生きる、
まっすぐ、に
かたくな、に
ふらふら、に
くたくた、に
生きた、と
だれにも語れるように
生きる。
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言い訳じみた黄昏には
別れを告げましょう
もう
何回も躊躇ったなら
後悔は十分だから
恐れるものなど
なにも無い
やさしい歌が嫌いです
今も、嫌いです
傷つきやすい柔肌を
滑らかになぞって
過ぎるだけなら
なにも無いのと
同じこと
透明に
なりきれないわたしには
痛々しい歌のほうが
馴染みやすい
夢は
きっと叶わぬものでしょう
けれど
気づかぬうちに
叶える夢もあるでしょう
夢の形は
程よく定まらないがため
あれやこれや、と
荒野を渡る
風になる
誰かに言葉を告げるなら
偽らぬよう、
本心を
他人であろうと
自分自身であろうと
うわべの一時の麗しさに
魅入られてしまわぬよう
置き去りにした昨日を
迎えに駈けましょう
時を
重ねすぎては
咎めが不透明に増してしまうから
少しでも早く
我に返りましょう
背き続けた
近しい場所がある人を
友と呼んでもいいですか
そこから繋がる明日のために
わたしは生きて
笑います
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言葉は
わたしに降りてこない
わたしを選んで
降りたりしない
だから
わたしは
降りしきる
言葉がわたしを拒んでも
言葉がわたしを拭っても
一途な
まよいに
わたしは降りる
わたしに降りる
ものなど無くても
触れることだけ
願い続けて
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あながち
間違いでもなさそうな
傾斜みち
おおきく
眼を閉じたまま
ひとつ、ひとつ、を
よく噛み砕いたら
背中に負うのは
真っ赤な約束
瓜二つ、
みたい
かつての路地は
いまでも路地で
見かける顔が
違うだけ
かつての迷子は
いまでも迷子で
怯える理由が
違うだけ
咲かない春の
まんなかで
魚は巡る
綺麗になりたい
言葉の祭りの
うら・おもて
一輪だけが
こしらえる、のは
交互にかなしい
群れの花
だれの指にも帰らずに
だれの指をも香らせる
まばゆい影の
一輪の
花
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夜明けに向かい
風は吹いているか
夜の
深淵に向かい
風は吹いてはいまいか
晴天に向かい
蒼穹に向かい
風は吹いているか
雨雲に向かい
霹靂に向かい
風は吹いてはいまいか
希望に向かい
風は吹いているか
絶望に向かい
風は吹いてはいまいか
ひとの
背中を押すために
風は吹いているか
ひとの
耳を迷わすために
風は吹いてはいまいか
風を
生み出す彼方へ向かい
風は吹いているか
風を
かき消す彼方へ向かい
風は吹いてはいまいか
未来へ向かい
風は吹いているか
言葉へ向かい
風は吹いてはいまいか