詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
草木のゆれる
その方角に
わたしはときを聴いている
これまでを悔い
これからを問い
わたしは巧みに
たじろいでいる
雲のちぎれる
その方角に
わたしはことばを呼んでいる
形になるのも
形にならぬも
すべて等しく
祝福したくて
、されたくて
潮騒のけむる
その方角に
わたしはひとを嗅いでいる
愛したことも
憎んだことも
ことばを離れ
波間に燃える
刹那のつみあがる
その方角に
わたしはわたしを生み落とす
救い、といえば
聞こえの良い
つくろい、
拾い、を
さまよいながら
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はてしなく
広がるものは
絶望、に他ならないから
おねがい、天馬
そのたてがみに
一度でも揺らせて
ぼくの
名を
命中しがたい
銀の矛先
大鷲の
視線
おしなべて
這うものたちは
そらからいたみを聴いている
ねえ、天馬
涙の
起源の
うなばらへ
ぼくを運んでくれないか
月の
花弁を
引き裂く爪が
ふしぎと今夜も
温かいから
許して、天馬
口にしては
ならない言葉を
こぼしてしまったこと
どうか、
身代わりに
照らされていて
どうか、
きれいにないていて
黄金が
ゆたかに朽ちるとき
それは、はじまり
物語の
孤独
きらきら、と
寂しい風に
こころを
砕いて
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青空から
おそわった言葉を
思い出せずにいる横顔を
やわらかく演じたら、
気まぐれな風たちの向こうに
緑はあふれて、
揺れている
たいようを
描きつづけることが
いつかの日々の念願でした
ふゆの
寡黙な花びらだけが
そんな欠片に
詳しいのです
かなしい種子は
髪の先まで植えられていて
季節をめぐるたび、
ゆたかに水辺が
広がっていく
そうして辞書は
無口になった
せせらぎみたいな
汽笛を聴いています、
今日も
かけがえのないすべてに
心が溺れてしまわぬように
待つ、ということを
試しています
今日も、
ひと通りのわがままは
日なたでぬくぬく育つから、
眠ってしまっても
大丈夫
素顔でいるなら、
大丈夫
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夜、は
首筋からこぼれ落ちて
かすかに甘い蜜のにおいを
隠している
命令に逆らいたい鳥たちが
もうじきそれに気づくだろう
囲いはすでに
万全なのだ
風がかくまう絨毯のうえで
猛毒は騒ぎもせずに
涙している
おのれの涙と
夜のしずくが
とけ合うように画策している
炎はその背に
氷の縁を負っている
ゆらゆら揺れて、
せめてもの
高熱で
飛び入りたがる者たちを
必死で睨みつけながら
夜、は
ちいさなものほど守れない
歯車が
明白であることだけが
やすらぎと信じて
巨大なものたちが
永遠じみて、
いく
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あまりにも
咲き過ぎているから、と
たんぽぽを抜く
紫いろの可愛い花や
可憐にしろい小花の群れは
そのままにして
たんぽぽを抜く
たんぽぽは
花、という肩書きを剥がされて
そこらの日陰に無造作に
雑草として捨てられる
なにごとも
度を過ぎてはいけないことだから
たんぽぽ抜きは仕方ない
控えめで
めずらしい花たちが
捨てられづらいのも仕方ない
わたしの日々も
まったく同じようにして
仕方ないことばかりの
くり返し
積もりゆくたんぽぽの為になど
わたしはひとつも嘆かない
まぶしい陽射しと
にじみ出る汗との不快さに
負けじと黙々
励むだけ
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鎖につながれたまま
ぼくは海へと落とされた
からだが腐敗していくよりも
錆びついてしまうような、
そんな気配が恐ろしくて
頑なに
ぼくは目を見開いて
泳ぎ去る魚のひれなんかを
数え続けた
果たして
なんの意味があるだろうって
うたがいながら、
数え続けた
この海の
広さについて
きっと誰もが知らなくて
だから誰もが
おののいて
毎夜
ひっそり
懐かしむ
鳥たちと
鳥たちの空へと
あこがれを抱いて
つまずきながら
その都度
こっそり
海を嗅ぐ
もう、
あまりに塩辛すぎる
言葉をたくさん散らかしながら
帰りようもない
海を嗅ぐ
ひと月も経てば
おそらくぼくは打ち上がるだろう
鎖につながれたがる、少年の眼前に
予定どおりに
着くだろう
ぼくはそのとき
なんと名乗ろうか
名乗らずとも、きっと
少年たちは呼ぶだろうけれど
不自由すぎる
慣れた手つきで
少年たちは呼ぶだろうけれど
ぼくは
考えている
昔よりは
だいぶ軽くなった感じで
海藻みたいに
考えている
かたわらに
恋人を縛りつけて
友だちも縛りつけて
優しく、
ていねいに、きつく、
優しさの方角を見失いながら
優しく、と
言葉に
出して
海底の、
海底の、
ずっと浅瀬に
ぼくはいる
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目をとじて
しずかにとじて
名前を思い出しなさい
あなたが
その目をあけたとき
そこにいてほしいひとの
名前を思い出しなさい
それが出来たら
独りぼっちはもう終わり
微笑むもよし
はにかむもよし
甘えてみるのもよし
その目に映る
いとしいひとと
やさしく、
やさしくなりなさい
疲れた、だなんて
まあだだよ
しあわせ蒔くなら
もういいよ
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ありの行列は
時間の砂をせっせと運んでゆくような
そんな気がして、わたし
のどが渇きました
真っ白、とは言い難いミルクを
すっと飲み干せば
胸の時計は
狂いはじめます、やわらかに
聞くに堪えなかった波音のこと
きれいに捨てて欲しかった手紙のこと
笑うよりほかになかった星の夜のこと
甘すぎて厭わしかった果実のこと
風に揺れる葉は言葉を持っていて
わたしはそれを許すのが不得意で
身代わりに解き放ちます
髪や背や指を
思い出はいつか
上手に整列をしてくれるのでしょうか
いまはまだ
号令の言葉も見つからないけれど
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
他人の不手際には
腹を立てることが多くって
他人のちいさな喜びを
目ざとく値踏みすることが多々あって
このままだと
病気になってしまいそうです、わたし
昔から
甘い物には目がなくて
今日は何を食べようかな、って
そんなことばかり真剣に考えてます
もちろんニュースも見ますけれども
関心事は
この肩幅にすっぽり収まるものだけに
やがて統一されるのでした
つかのまの涼風が
わたしだけのものになれば良いのに
つかれた感じの景色はすべて
生まれ変われたら素敵なのに
誰かに優しくするってことは
わたしも同じようにして欲しい、ということの
裏返し
よほど理不尽な運命を生きてきたのなら
そんな理屈は通じないけれど
みんなたいがい
凡人です
毒、といえば
蜘蛛とかヘビとか林檎とか
安易な言葉でお答えできますが、なにか問題でも?
理想、といえば
マイホームとか相思相愛とか贅沢三昧とか
問題なくお答えできますが、なにか間違っていますか?
わたし、
長生きしてみようと思うんです
なぜなら
死にたくないからです
なぜなら
長生きしてみようと思ったからです
ろくな生き方ってどんなものでしょう
ろくな死に方ってどんなものでしょう
なんとなく、
わかるような気がしていますが
なんとなく、確信はなくて
かしこい感じで
溜め息なんぞ
ついてみます
窓の向こうに
同じポーズであくびする
野良猫ちゃんを目で追いながら
愚痴っています
わたしはきょうも。
わたしには、
長生きなんてできるのかしら
わたしにも、
願いをかなえる権利がほしい
絶対、
欲しいっっ!
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地図には載らない
明日がある
けれど
地図に記された明日もある
わたしは出来れば
前者で在りたい
扉も光も約束も
とうに誰もが知っている
それなのに
弱さも嘘もやさしさも
ついぞ誰もが知らずじまい
わたしの国は
わたしたちの国は
小気味よく地図に記されてみせる
そこを辿れば迷えるように
小気味よく
載っている
だからわたしは明日を知らない
呼ぶことだけは叶うと信じて
わたしはひとつも
明日を知らない