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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[644] アトリエ・スロウ
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砂時計という名の幽閉を

描くべき色彩に

迷い、

指先一つで 幾度も 幾度も

ながれを

もてあそんで

みた




日没とは

未完の代名詞であることを

証すべき 旅路の

方位を委ねる羅針盤に

相応しい台座の高さを

思案しながら

黎明の刻を

むかえて

みた




架け橋としての虹

いや、

龍神と見紛う走り



主題無くして泉は溢れる

或いは真逆か

にわか雨にあらわれた

二つの顔を 思い出せる限り

ならべて

みた



ここはアトリエ・スロウ


時の

許しも

拒みもない




ここは

アトリエ・スロウ




2006/09/09 (Sat)

[643] 霧雨
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絹のような 抗いがたい量感に

涙さえも濡れてゆく



霧とよぶには 重たく

雨とよぶには 軽く

そこはかとなく

命名を拒むような

その 結界に包まれて

記憶の軸も同様に

遠退いてゆく




かよわい諸手の支える傘に

凌げるちからは ある筈もなく

涙一つもまもれぬ瞳に

頼れる軒は 映る筈もない



潤いは

どこか足枷に似ている

傾けた耳を入り口に

時は駆け抜けて

それゆえ寄る辺は

なおさら

遥か



しばらく

このまま囚われていようか、と

曇天の道筋を探る

吐息もろとも 攫(さら)われてゆく


しずかな

しずかな

潮騒に



2006/09/09 (Sat)

[642] 占星術
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矢継ぎ早に

新月は降り注ぎ

縫い針がまたひとつ

遠雷に濡れている



吟醸の名を濁さぬ盆は

薬指だけの浸りに あかるい焔を映し

無言の岸辺を満たすのは

衣擦れの波

鈴なりの






風の旋律が過ぎるとき

水の揺らぎは紋様となり

瞳の数だけ姿見は

その透明度を

ただ 募らせてゆく

かくして

碑文は護られる




もみじの錦は 不易の標

こおれる大河の 螺旋の枕

ぬかるむ土に 栄枯の砦

眠れる貝は 星夜の 縮図



四季を奏でる歯車に

刻字は彫りを深くして

その痕跡の石のかけらは

種へと宿り

路傍の随所に

繚乱す




2006/09/09 (Sat)

[641] 桜残照
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しずくのことは

一輪、

二輪、と数えあげたく

青空ならば頷いてくれるだろうか と

躍らせた髪



真昼の月の通い路と

銀色乗せた浅瀬の流れは

中空で いま

十字を結ぶ



かたちを選ばなければ

不可視とは無縁なはざまで

祈りは

こんなに美しい




氷と雪との深い眠りを

妨げぬ色で鳥たちは啼き

氷と雪との深い眠りに

障らぬ色で獣は駈けてゆく




鮮やかな言の葉に

慎ましい光を添えながら

滅びを見据えて

あまたに 芽のほころぶ季節


ひらく、

ゆれる、

かおる、

謳歌の舞台の

そのはじまりは

いずれの花の彩りか



七色含んで割れそうなしずくは

いずれの花に

零れるか




2006/09/09 (Sat)

[640] ゴールド・ラッシュ
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僕のからだの内燃機関は

なにを動力にして

ここまで

走らせ続けてきたのだろう



西日はいつも眩しいね

僕の手が掘り出したいものの

手がかりを

きっと

西日は知っている



得たものは数知れないけれど

失ったものこそ数知れない

僕は本当に

指折り数えられないんだ

そんなときでさえ

僕のからだの内燃機関は

休むことをしない

汗が

汗だけが

感触を確かに

伝い落ちてゆくんだ




空をゆく生きものの名は 鳥だと聞いた

海をゆく生きものの名は 魚だと聞いた

それならば 僕の名は

どこに生きているのだろう

そして

誰がそのことを語ってくれるのだろう



僕の疑問はどこまで許されて

僕の疑問はどこまで解決されてゆくの か


ただ確かなことは

西日の眩しいことであって

そんな日々を

僕は幾つも知っているということ

それだけだ


2006/09/09 (Sat)

[639] 冷たい雪の降る夜に
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冷たい雪の降る夜に

わたしのからだは凍えてゆくから

わたしのからだは

小さくなる

わたしはわたしを抱き締める



冷たい雪の降る夜に

わたしのことを

わたしのほかに

包んでくれた誰かのことが懐かしい



あたたかさには

種類など無いのかもしれない

それほどまでに

わたしは小さく

わたしはよわく

仕方のない命であるのかもしれない



冷たい雪の降る夜に

凍りつくわけでもなく

果てゆくわけでもなく

わたしのなかに

確かに宿るあたたかさを

わたしは

見つける



わたしをここに

成り立たせている

かけがえのない守りを

そっと

知る


2006/09/09 (Sat)

[638] 壁画
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頬を追い越してゆく風と

手招きをするような

まばゆい光

目指すべき方角は一つだと信じて疑わず

出口へと向かって

足を運んでいたつもりだった



不思議だね

振り返ることは敗北ではないのに

不思議だね

約束事のようにいつも

背中では

沈黙が守られていた

穏やかな温度でいつも

沈黙が守られていた



遙か前方でまばゆい光は

そこに向かう視線を容易にすり抜けて

歩みの後方で

やわらかに溶けてゆく

そう、

優しく広く後方で

溢れている光の在ることを

誰もが容易に忘れてしまうのだ

どこへと向かって

足を運んでいたのだったか



振り返る道の両脇にそびえる壁には

無造作に

絵図が浮かび上がる

胸に溢れる懐かしさは

記憶のなかに透けてゆく約束の

一つ一つに名前をつけて

少しずつその肩に

味方を増やしてゆくのだ



はじまりはいつも

浮遊をしたがるから

意味を忘れるその前に

記しておこう



足を休ませながら

優しい名前を



2006/09/09 (Sat)

[637] 彫刻家の夜
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嘘つきだった君を剥がしてあげよう



昼間のシャツは

白すぎたんじゃないか

夕飯のサラダは

潔すぎたんじゃないか


嘘つきだった君を剥がしてあげよう




すべてを明け渡して

はだかになった姿は

眼球の奥に 銀を灯す

ふたり

急ぎ足で溺れてゆく



健気な暮らしは 嘘か 真か

ひとつ、剥ぐ

今宵の素振りは 夢か 現か

ふたつ、剥ぐ



うそぶく事も 見抜けぬ事も 等しく罪

わからぬ事も もとめる事も 等しく罪

ふたりの背後に業火が揺らめく



女は

像として剥がれておちて

男は

原始の森の獣のように

炎の不思議に汗にまみれて

知らず知らず 身を削る



漆黒の夜は

星々を常に新しく輝かせるのだ


まるで

芸術家の面持ちで



2006/09/09 (Sat)

[636] 天高く
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雲ひとつなく秋晴れの空


父の運転で越えていた峠も

いまならば

自分の運転で越えられる

アクセルの踏み加減でスピードを調節

ブレーキなんか踏まない

でも

思いの外カーブは厳しいから

苦笑いで

ブレーキを踏む



雲ひとつない秋晴れの空は

限りが無さそうで

どこを見つめていれば良いのか

不安になってしまう




いつか空に手が届く

そう信じていた日々

伸ばした腕の指先は雲に触れる

そう信じていた日々



タバコの煙を逃がすために

開けていた窓の隙間から

冷たい風が入り始めたのは

午後三時

十月の夕刻は始まりが早い


西日の眩しさに

顔をしかめながら握るハンドルは

西行き

まだまだ旅の途中



太陽の光を街灯が受け継ぐ頃に

天高く

星々は光を放つだろう


雲ひとつない秋晴れに

天高く

星々は命を燃やすだろう



2006/09/09 (Sat)

[635] 霜月
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星々の明るさが際立ちます

夜気がひんやりと

澄み渡るらしく

星々の明るさが際立ちます


されど

星々はつねに燃えているのであって

なんの労苦もなく輝くものなど

在りはしないのであって

寒さに震える季節なればこそ

灯りが目につくようになった

そういうからくりでは

ございませんか

そら、

月を取り巻く薄雲が

煙に見えたりしませんか



道のしるべは 今いずこ

あなたのおもむく理由をお尋ねします

道のしるべは 今いずこ

あなたの帰り急ぐ理由をお尋ねします



夜通し鳴いていた虫のかげは 

消え果てて

道のほとりには霜の白

或いは

灰の白さかも知れません

誰がたやすく

それを

否められるでしょう



霜の白

灰の白

夜道に見上げる星々の明るさに

口を開けば

吐息も

白く



間もなく花が咲くでしょう

その身を熱へと かえしゆく

真白き花が

咲くでしょう



2006/09/09 (Sat)
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