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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[603] うたの掟
詩人:千波 一也 [投票][編集]


わたしは 生みの親だもの

おまえが憎いわけは ない

けれども わたしは 手を貸さない


さぁ

潔く 心地良く

羽ばたいて ゆけ



誤解も あるだろう

嫌悪も あるだろう

けれども ときに 融合がある

誰かの鍵穴 に

ぴたり と はまることがある



おまえ が

ひとり で

おまえだけの ちから で

そっと開かれる扉が きっと ある



わたしは 此処で

じっと 耳を傾けていよう

おまえが 迎え入れられる瞬間に

じっと 耳を傾けていよう




わたしは 生みの親だもの

おまえが憎いわけは ない

けれども わたしは 手を貸さない



2006/09/09 (Sat)

[602] 淡い味だね
詩人:千波 一也 [投票][編集]


君は変わったね


同じことを君が言い出す前に

キスをしよう


全てが始まったあの日を眺めながら

全ての終わりを語る唇を

塞いでしまおう


傾く船にはもはや 救いの手立てが無くて

僕はただ

僕だけを救っていたよ

何が望みだったのだろうね



映画のあとにはいつも

君を強く抱き締めて

ドリンクの氷は

音も無く溶けていた



胸によみがえる響きは一つも無いよ


吸いかけのタバコが

鋭い無音で灰を落とす

毛布の色が今夜は妙にあたたかい



僕が眠るまでそこに居て

君はおぼろに

そこに居て



冷蔵庫の中身はご自由に

淡い味かも知れないけれど


冷蔵庫の中身は

ご自由に



2006/09/09 (Sat)

[601] 履歴書
詩人:千波 一也 [投票][編集]


幼い日々などというものは

これまでも 

これからも

全く変わりありませんので

特筆いたしません



或るときから

うたに喜ぶようになって

泳法はままならずとも

流れゆく日々

なのです



ことこまかな日付たちの向こうに

そんな潤いを

見出して下さいますか


それもかなわぬ紙切れならば

どうぞ破り捨てて下さい



せめてもの代わり

即興にて

うたを一篇お渡し致しましょう



2006/09/09 (Sat)

[600] ミラーハウスで
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ミラーハウスで求め合わないか

前と

後ろと

右と左と

斜め、っていう曖昧な角度も加えて

つまりはすべて



求め合う姿はすべてに映るさ

求め合うふたりに

すべてを魅せるさ



理性なんていう逃げ道は

僕の腕で塞いであげるから

本能の瞳で

覗いてごらん



揺れて揺られて、なかなか焦点の合わない姿


きっとそれが

愛の答で

求め合うちからの凄まじさの前では

はなはだ無力な存在なのかも知れないね

でも、

だからこそ知っておくべきじゃないか


ミラーハウスで求め合おう



唯一、床には何も映らないけれど


営みの痕が

そこに生まれた時間を

証明してくれるはずさ


物知り顔で

穏やかに

そう、

水鏡の気分で




2006/09/09 (Sat)

[599] 清流
詩人:千波 一也 [投票][編集]


わたしがむやみに数えるものだから

蛍はすべていってしまった


わたしが思い出せるものは

ひとつ ふたつと

美しい光

いつつ むっつと

美しい光

けれどもそこに温もりは生まれない

わたしはきっと

誤ったものに魅せられていたのだろう

蛍はすべていってしまった



あまい水 にがい水

わたしのなかには

静かに

密かに

渓流がある

あまい水 にがい水

天上の月は

おぼれるわたしを

鋭く

照らす



まことの川はすべての水をたぐりよせ

まことの川はすべての水をつつみこむ

蛍はすべて まことの川へ

蛍は

すべて

いってしまった



夏の巡りは

無限の軌跡をたどるが故に

どれもこれもが一度きり

この夏も 

その夏も 

あの夏も


わたしだからこそ 歌える夏があり

わたしだからこそ 

歌えぬ夏がある



わたしの胸の温もりが

正しくうたに解けたとき

許しの川は見えるだろうか


蛍の光をかたわらに


命の光をかたわらに




2006/09/09 (Sat)

[598] 微香性
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四六時中の想いは

必要以上に

君と僕とが不可欠だから

必ず壊れてしまうよ



はぐらかそうって魂胆じゃなくてさ

短命に舌鼓は

哀しいなって思うんだ



ほのかに香る想いをかぎ分けながら

長生きしたい



思うんだ



2006/09/09 (Sat)

[597] 家路
詩人:千波 一也 [投票][編集]


買い物袋から

オレンジが転がったのは単なる偶然で


私の爪の端っこに

香りが甘くなついたのも単なる偶然で



果実が転がり出さぬよう

そろりと立ち上がった頭上に

飛行機雲を見つけたことも

そう、

単なる偶然



あの真っ直ぐな白さを残した人々が

どこへ向かったのかはわからない

でも、

きっと

そこには幸せがあるように思えてならない




オレンジの輪郭は瑞々しいまんまる

単なる偶然は

とても手のひらに優しいかたちをしているのだ



やわらかく匂い立つ、街路樹の横

風は優しく背を撫でる



私の家の待つ方角へ

風は優しく背を撫でる



2006/09/09 (Sat)

[596] ピアニスト
詩人:千波 一也 [投票][編集]


指先なんか不器用でいい


鍵盤が求めるものは

迷いを持たない、その

指先の重み



ねぇ、


清らかな雨の注ぎに

いつまでも耳を傾けていたいの、






おはよう、ごめんね


ありがと、おやすみ



こころの譜面は

優しく時間に溶け込んでゆくの



指先なんか不器用でいい




奏でて

そのまま


2006/09/09 (Sat)

[595] 薄灯りはまもなく消える
詩人:千波 一也 [投票][編集]


紅さし指で

この唇をなぞっておくれ


宵をにぎわす祭りの夜に

提灯ゆらり



光はたぶんに正しいものだけ捕まえる

ほら

燃える可憐な蛾がひとつ



短命ながらも風情をもって

正しいものへと

主人を招き

提灯ゆらり



紅さし指で

この唇をなぞっておくれ



まもなく花火は上がるだろう



大輪の菊は

その肩のために咲くのかも知れない


艶やかな華ほど

摘み取られてしまうのだから

そんなに飾りたてても

菊花が映えるだけ



まもなく花火は上がるだろう



浴衣を脱いで

こちらへ

おいで


2006/09/09 (Sat)

[594] 潤いの庭
詩人:千波 一也 [投票][編集]


遠くの丘の教会の厳かな鐘の音が届く


私は

如雨露(じょうろ)を止めて

目を閉じた



愛の門出のサインであろうか

永き眠りのサインであろうか

私がこの手に掴めるものなど

少しも無い



風の尻尾ですら

永遠に逃がすであろう私の目には

頷くような

花々の揺れ加減



如雨露が一度に いだける水には

限りがあって

如雨露が一度に そそげる水には

限りがあって

それでも

その一度を必要とする花々がある



二本の腕と、十の指

二本の脚と、十の指

数限りある私の身でも

慎ましく守り通せるものは

きっとあるのだと思う



遠くの丘の教会の厳かな鐘の音に

しずく

ひとつぶ



晴れ渡る空の青さが

また一つ

増した気分で

私は如雨露と再び歩いた



2006/09/09 (Sat)
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