詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
演台に
原稿用紙を広げ
子どもたちは声の限りに叫ぶ
「笑顔の
あふれる町にしませんか」
「あなたの近くに
寂しがっている人や
弱っている人はいませんか」
「みんなで
助け合っていきませんか」
「世界には
飢えに苦しむ人たちがいるのです
地雷におびえる人が
いるのです」
世の中や
身のまわりについての
疑問や意見を
子どもたちは
訴える
「ゴミの
ポイ捨てをやめませんか」
「絶滅の危機に瀕している
動植物を守りましょう」
「ぼくの両親は
毎日忙しそうに働いています
不況だから、仕方がないそうです」
「愛する、って
どういう意味ですか
日常でよく聞くけれど
わたしにはよくわかりません」
子どもの原稿の出来映えに
聴衆は拍手を送り
審査員は順位を
決める
だがしかし
このようなことどもを
子どもに語らせて良いのか
子どもには
もっと
明るい言葉を
語らせてやるべきではないのか
「ぼくの、わたしの、
主張コンクール」
ステージ上では
いままさに
表彰式が
執り行われて
楯やら
賞状やらを
子どもは受け取っていく
頑張ったことは確かだが
努力したのは確かだが
その
何度読んだかわからない
ぼろぼろの原稿用紙を見るほどに
子どもの
ひたむきさの
向かう方向が
違っているように
思えてならなくて
子どもの宝、は
なんだろう
子どもに
与えたいもの、は
なんだろう
たぶんに
無邪気で
精いっぱいに
くだらないあこがれを
走っていく
そんな
いつかの自分を
思い返しながら
会場の
みごとな印字の横断幕を
じっと見ていた
じっと
見ていた