詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
まだまだ冷たい春風のなか
緑は空を探しはじめる
それがやがては
海のように満ちてゆくのを
なぜだかわたしは知っていて
そのことが
解く必要のない不可思議であることも
なぜだかわたしは
知っている
咲いたばかりの
小花をそっと摘み取って
陽射しの匂いか
風の匂いか
はっきりしないけれど
受けとめやすい懐かしいものを
気まぐれに嗅いでみる
わたしの指の匂いが混ざり
それはもう純粋ではないけれど
春風のなかに身を置くと
揺れるものすべてが
味方におもえて
ますますわたしは
気まぐれになる
ゆっくり立ち上がる頭上の空は
灰の色味を捨てている途中
それは
さながら
新しく燃えるための準備のようで
わたしは
わたしの恥ずべき饒舌に
さよならをしようと
空を聴く
侮蔑や
ねたみや
ののしる言葉を
こころ静かに
確かめながら
ちいさな緑に憩うしずくは
その身にかなう分だけを
映している
かしこい呼吸はそうやって
耳を
すませば
すぐそばにある
すぐそばで
無数に
降る
天気予報が
あしたは雨だと告げていた
きょうのわたしの足跡が
きれいに運ばれる絵を
鳥の背中に
わたしは
乗せて
微笑みかたを
思い出す
終わらないものへの歓びを
惜しまないわたしで在りたい
それはかならず
傷つき続けるけれど
雨が
きれいに
洗い流してくれるから
願いごとはいつも
優しい匂いに
満ちている
満ちて
いける
緑の海のはじまりのなか
わたしを知らない言葉をおもう
わたしが知らない言葉ではなく
わたしを知らない
言葉をおもう
雨の向こうへ
つながるように