詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
昼下がりの海水は
まだ少しつめたくて
その
指先につたわる感覚が
はじめてのことに
思えてしまう、
いつもいつも
腕を
すべってにげる潮風は
いつか、と同じ
はじめての
笑顔
目を細め
波音のなか
それを追うけれど
けっして追いつけないから
はじめまして、と
やさしい嘘が
風に乗る
おぼえたものから
忘れていくのに
いつでも波は
うつくしい
海辺には
幾億幾千の物語が住んでいて
しおりのような、
細い足音に
目覚めるのだろう
砂とよく似た
ページを開いて
眠らない
かけらがそっと陽になじむころ、
ちゃいろの表紙は
古くなる
知らず知らず、に
少しだけ