詩人:理恵 | [投票][編集] |
西日の差し込むカフェのすみ
一人の客が出ていった
もうあとは厨房から聞こえる
食器のぶつかる音だけ
私は最初から一人だった
あの人も一人だった
ただ、肩の痛みが
本の世界に入ることを許さないから
私はあの人を見送っただけ
これがコロナ禍か、と感傷に浸るふりしても
私は一人だった
最初から一人だった
この世に生を受けたとき
誰と繋がっていたか思い出せない
光の沈むカフェの中は
不自然なほど落ち着いていた
2021.8.25.
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もしも明日が来ないなら
毛布に身体いっぱいくるまって
じっとその時を待つだろう
先週の休日も
先々週の休日も
この重たい身体を引きずって
やらねばならぬことを成さなかったように
あれもこれもと描きつつ
ただ毛布にくるまっているだろう
どうせ今日までだからだなんて
わざわざ疲れることしなくたってと
じっと岩のように丸まって
もしも明日が来ないなら
0時ちょうどに毎日がなくなるのなら
23時には目をつむり
知らぬうちに消えるように
眠りへと落ちていくだろう
やっと終わる安堵に浸りながら
消えぬようにと祈る人たちだけ
残ればいいのにと願いつつ
眠りへと落ちていくだろう
もしも一つだけ成すのなら
あなたへ手紙を書くだろう
いつかまた会うかもしれないと
思いながら生きてきて
それが絵空事だと知ったとしても
きっと私は書くだろう
空のあなたへ宛てた手紙を
こんな時ですら思い出す
太陽のあなたへ宛てた手紙を
2021.12.23.
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はらりと一つ、雪が落ちる
つららは下に下にと伸びていく
鋭く尖る冷たい刃は
透明な光を帯びたまま
私の知らない合間に
世界は動く
蠢いている
未知の敵に翻弄されて
いつの間にか消えた境界線にも
私たちは気づかない
こんな時ばっかり
こんな時ばっかり
優しさなのかもわからない
厳しさなのかもわからない
今までの綺麗事の浅はかさだけが露呈して
真実は濁りを増していく
五回変化する魔王より
現実はいくらだって変化する
そのうちただの文字だったのが
言葉を紡ぎ星座になり
私たちに迫ってくる
と、学者は言う
私たちはきっとまだ
迷い続ける
この声を枯らして
その涙が涸れるまで
2022.1.27.
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から風に晒されたる木の枝先は
幾度巡れば満足せん
寒かる河の畔には
褪せぬる青の蕾ありける
徒然にあなたに逢ひたる春の日は
とうの昔になりぬのに
美しからぬ我が珠の
色の一つになりにける
三日ほどの前の河の畔には
まだ咲かぬかと急かせども
今日になればわずかなる
花の変化にも驚きぬ
それも時の流れやらん
あたたけくなりぬ風のごとく
花は鮮やかになるにつれ
内のあなたもさやかになりぬ
私には冬を越える理も
持ち合わせぬと言ひたれども
幾度も回るは折節のゆえ
天つ空にも移りゆく
睦まじく寄るも花弁のごとし
儚く別るるも花弁のごとし
あはれなるあなたの心の内にこそ
穏やかなる春の風吹けば
いかに嬉しからんと思う夜ぞ
我が振袖が濡れるとも
花が咲くたび思い耽け
花が散るまで思い耽く
そうして珠の色づくからは
幾度もあなたに思い帰らん
2022.3.29.
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私の手には傷がある
幼い頃、高いところから落ちた時のもの
君の笑顔は知っている
大きく開いた目とか、
楽しそうに笑う顔とか
その向こうの黒いもの
ふっと誰かが腕を上げ
私はさっと身をすくめる
ただ、あの本を取りたかっただけなのに
それが君の残したもの
2022.7.3.
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私のなかに宇宙がある
私の知らない宇宙がたくさん
あの星の人は知らない
何しゃべってるかわからない
あの星の人は怒ってる
でもなぜかはわからない
私のなかに宇宙がある
私の知らない宇宙がたくさん
私は銀河系は知っている
でもその全ては知らない
銀河系の横にもう一つ宇宙がある
あの宇宙のなかに何があるのか
それは知らない
私のなかに宇宙がある
私の知らない宇宙がたくさん
私はほんの砂粒しか知らない
だけどきっとあの人は知っている
いくつもの闇に宇宙が渦巻いて
そして未知の形を象っていく
わたしの知らない宇宙がある
宇宙のなかに宇宙がたくさん
2022/8/22
詩人:理恵 | [投票][編集] |
居酒屋・おどりば
いつもの駅の前
煌々と電気がついている
中華料理・幸幸
一見居酒屋と区別はつかなくて
でもきっとお客さんはわかってる
喫茶・ポール
コインランドリー・ひまわり
スナック・清美
は連なっていて
ポールは営業時間外
ひまわりはまだまだやってます
清美はやっているのかいないのか
いつも気になるけれど
清美の生死に興味はない
真っ暗なビルを二つ過ぎて
突然眩しすぎる交差点
あ、あともう少し
寝るためのお部屋が待っている
2022.10.7.
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1年生になったら
1年生になったら
友達100人もできないな
うちのクラス、30人しかいないから
全校児童は200人
2年生は同じようなもの
だけどやっぱり30人
3年生のお兄ちゃんお姉ちゃんには
さすがに甘えたいかも
6年生のお兄さんお姉さんには
めいっぱい頼っちゃおう
ってやってたら
やっぱり100人できないな
富士山は登りたくない
登るのとっても大変なんだって
昨日も50歳の男の人が亡くなったって
校庭のサッカーの方が
きっと楽しいよ
お母さんのおにぎりは
幼稚園のお弁当でまいにち食べたから
給食のラーメンが食べたいな
給食のラーメンはおいしいんだって
お兄ちゃんが言っていたんだって
ともくんが言っていた
ともくんと同じ小学校で良かったな
一人だったら不安だったもの
たかくんとひとしくんも
同じだって言ってた気がする
あ、そっか
もう友達いたんだった
2022.10.7.
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今日も何もできなかった
明日は何もやりたくない
ただ輝いている人を眺めて
自分の惨めさを思い知った
綺麗事を並べた歌に耳を傾けて
現実逃避をして
布団に潜り
明日が来ないことを祈ってる
何のために生きてるんだろう
こんな人生ないほうがよかった
と、思いながら
喉にナイフを突き立てることはないと
信じている
だって私は惨めだから
目も瞑らず
ただうずくまる
今日と明日の境界線
2022.11.29.