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理恵の部屋


[130] 四月の便り
詩人:理恵 [投票][編集]



桜の花びらがはらりと落ちた
ぷかり、ぷかりと浮かぶのは
狭い川の水面(みなも)の上


こうやって漂って
どのくらいが過ぎただろうか
もう何万もの花弁がひだまりの中
海へ向かっていったというのに
それはまだ、ここに留まったまま


針が壊れたコンパスは
もうとうに捨て去った
新しいコンパスを手に入れても
使い方を忘れてて


ぴゅー、ぴゅーっと音がする
枝から摘まれた花びらを
娘が笛がわりに口元にあて
小さな子どもが人指し指をさし
駆け寄っていく


楽しそうなその声に
もう一度コンパスを眺めてみた


鼓膜の奥で
青い細波の音がする
それはきっと
儚い虚構に過ぎないけれど


不器用に ちぐはぐに
音の鳴る方へ進み出し
一日、二日、三日と重ね


あれから六十四日が経って
それから八十四日を越えて


気がつけば
羅針盤はいつでもここにある
針が見えない夜に
月がキラリと光るなら
それに導かれてみようか


なんて
思えたんだ


だから
わたしの想うあなたも
流れるままに そのままに
思うままに道をゆけ
もう何も
背負うことはないから





2019.11.25

2020/04/12 (Sun)

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