詩人:フィリップ | [投票][編集] |
知らない国の
博物館に座って
遠い君の夢を見た
懐色のセロハンが醸し出す思い出は
扇風機の風に飛ばされて
眠りこけている
十七世紀の内側に
しゃがみこんで
まだ見ぬ明日を探しに行こう
恋のまにまに
愛を呟いたら
薄くなったシルエットが
何故だか、美しい
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スペースが空いて
いる物も
いらない物も
なくしてしまった
ベランダにせり出すゴムの木にかかる
虹色の雨
その輝きの中に
新しい何かがある
開かない鍵が守ってくれる
たった一つの秩序が音楽とハモる
その瞬間から
旋律が消えていく
目には見えない
あらゆる営みを
プラスチックコップに入ったワインが
非難する
僕の温度が
世界にシンクロした瞬間
僕が世界から去っていく
悠長な朝
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しなるパスタの
艶やかな輝きが
僕の四角い部屋に
丸っこい彩りを添えている
明日の天気予報を
寝ころんだまま
体の中に取り入れながら
雨になるように
祈ってみると
なんだか
君に逢えるようで
ミートソース
ミートボール
アラビアータ
アラビア石油
アルパチーノ
アルデバラン
幾つかの言葉の中に何かを見出そうと
あらゆるパスタを
並べてみるのは
あの日の君が
此処にいるから
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チン、という音と一緒に
僕の朝は始まる
湯気の立ち具合や
カーテンが光を取り巻く
その瞬間に生まれてきた言葉は
いつも、十色
ジャムの甘味が
一リットル半の世界に広がる時
僕は
僕で無くなる
また別の何かへ
「おはよう」
という声は
いつもより少しズレてて
何か、おかしい
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息を吸い込んで
小休憩
手をつないで
深呼吸の用意
生きているって
実感するのは
オーソドックスな
この瞬間で
その温もりは
買いたての缶コーヒーと
多分、同じだ
風のざわめき
不確かな未来
踊場のトーテムポールは
物言わず佇んでいる
生きる事自体が
苦しいとされる
この世界がうらぶれる
コンマ一秒
その苦味の中に
一瞬の甘味がある
生まれたての命の炎が灯す
喜びと、悲しみ
僕が生きてる
この世界の
そういうところだけは
神さまは几帳面にしてあるらしい
いつも
気付かないけれど
世界中の呼吸の中で
生かされているのだ
僕は
僕らは
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生まれたての
白い生命の中に
君と僕と
数種類のハーブ
感じる事など
無いのだけれど
世界は知っている
その、小さな輝き
尊き光を
何一つ、見逃すことなく
朝がくる前に
君の温もりを
冷まさないように
フラスコの中に
ありったけの愛を
保存しよう
刻まれ続ける秒針の中
発酵していく
その温度は
多分
かみさまと同じ
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深海に揺れる
光の中に
ダイブして
太古の恵みを
少しでも、と
漂ってみた
屈折する視界
その角度で
僕の感覚が
音を立てていく
満員電車の轟音と
微かな空白に
シンクロする
音の無い
セレナーデ
同調する僕の指は
風が吹くように
海が凪ぐように
数万フィートの高度で
星を数えている
冷えた爪先は
ただ
明日だけを見ていた
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からっぽで満ちた
僕の声色
生命の神秘の
そのまんまの姿で
海面を凪ぐ海風は
ミッドセンチュリーの
色をしていた
丁寧に愛をして
迷い込んだ
永久の箱舟
シュロの木に降りかかる雨の匂い
その温もりの中に
幾つかの虹色が
うっすらと見えた
僕の魂と融合する
七色の星は
しなやかに
たおやかに
そこにある永遠を
軽く飛躍して
見知らぬ君と
まだ見ぬ僕は
覚えたての言葉を
呟いている
海風が去っていく
その方向
その角度に
悲劇のないバラッドが溶けていく
波高きこの朝
繋いだ手の中に
あどけない君の
飾らない母性を
僕は見つけた
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久々に出た街角で
見たことのないカフェを見つけた
オープンメニュー
オーナー特製
火星コーヒー、と書いていた
次の日
もう一度僕は
街角へ出た
久々の街角
懐かしい、昨日ぶり
火星という文字が
水星に変わっていた
夕方刻
オーナーに会った
僕は
君を知っている
君も
僕を知っている
惑星の果て
銀河を超えて
ブレンドされる
愛の余興
コーヒーカップの中に宇宙
そこに浮かぶ、地球
僕を誘う
愛の香りが
紫色の一番星に
同調する、一瞬
たまプラーザ
アルデンテ
セザンヌ
惑星ブレンド
二人きりのバス停
到着したバスの排気音の中に途切れた
君の声は
「さよなら」の味をしていた
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座る人
立つ人全て
大阪弁で
いつもなら何か
話し掛けるのに
僕は話し掛けなかった
異国の人を見た
肩の辺りから滲み出る情緒
悲しみを帯びた茶色い瞳は
彼が中近東地域の人間だということを
物も言わずに
僕に教えてくれた
この箱は安全に見える
オレンジ色の箱の中の世界は
日本であって
日本でなく
世界であって
世界でない
テロの標的にも
戦争の舞台にも成り得る事のない
ただの、電車
僕は
なんだか無性に
罪を感じた
桜ノ宮
大阪城公園
玉造
桃谷
天王寺
そろそろ
下車駅らしい