詩人:フィリップ | [投票][編集] |
日曜日になって
目が覚めると
心はまだ
土曜日のままだ
愛を捜して
また二度寝する
月曜日が
来ないようにと
祈りながら
耳を澄ますと微か
目を凝らすと僅か
君の時間が流れている
温度も
感触もないまま
僕の朝が音を立てる
君はまだ
うつ伏せたまま
寝息をたてて
愛を、見ていた
風が吹くような
速度で
日々をめくろう
人として
僕として
生きる時間は
愛曜日
描いていた心が
結ばれるその瞬間
大きな調和と予感の中に
飾らぬ潔さと
満たされぬことの幸せを
僕は知った
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
重なりあった木の葉から
真実は圧倒的な存在として
チラリと姿を見せている
荘厳な世界には
賛美歌も
詩人の声も必要ない
東京には月が出ている
異国という惑星のいたる所で
生の営みが繰り返されている
吹き抜ける風に
シュロの木がなびいている
それ以外の言葉は
まだ僕には浮かばない
生きることを
いつも間延びさせ
今をどこで落っことしてしまったのだろう
洗濯物を増やさぬためのバスローブも
木漏れ日の美しさも
歪み無い飛行機雲も
全ては不具合な
一冊の本と同じだ
真夜中の静寂
波のさざめき
トーテムポール
全ては幻の中で
君に働きかけているのだと
茜の下で彼女は呟いていて
その世界は
セロハンと似ていた
公園のブランコも
街路樹の息吹きも
汚れた空気に
充満している
パンパンに膨れ上がったペットボトルの中にはただ
「AKANE」という名前だけが
音像として残っている
舞台『AKANE』メイン挿入詩
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
春入りをした
窓辺にせり出す
桜の木を潤す
雨の輝き
その中に
まだ僕の知らない何かがある
ラジカセから
音楽が流れ
その瞬間音楽は
音楽ではなくなる
春の調べ
枕下はまだ
悠長な朝のままだ
風が吹いている
子供の声が
その音とハモって聞こえるのは
目に見える世界の営みを
僕がまだ知らないからだ
からっぽのポエット
ユニクロのジャケット
「これはもういらない」って
おとつい一緒になったひとが
タンスにしまっていた
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
電話を切って
まだしばらく二日酔いだった
渋谷のイチマルキュウあたりで
革命とはなんぞや、とか
世界のチョウワがうんぬん、とかやらを聞かされた
だが生憎僕には
あんまり救われる話ではなかったわけで
ただ、あまりにポジティブだった
よどんだ空気を吸いながら
タバコに火をつけている
こっちの空はよどんだままだが
あっちの空は晴れているって
一人で信じているから
口の中でそっと
ピース、と呟く
その瞬間にさえ
僕はニンゲンと
出会い直していた
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
最終前の電車を待って
岡山駅周辺をぶらついてみた
西口はいつの間にか消えていて
角にあったマックも
ここにあったラーメン屋も道連れになっているようだ
自販機の光が
明るくて安心した
でも、自販機の灯りが照らす道は
二人で歩くにはせますぎるので
出逢う事のない君を
ギュッ、としたくなったりして
なんてな
もう二年近く会ってない君は
僕の中で毎日死に
同時に毎日生き返り続けている
世界が廻る
この一秒の瞬間にすら
駅周りを一周して
君の写真を見た
特に理由はない
ただ
あなたの事が、好きで
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
オセアニアの夏を越えて
今また
日本の冬を越そうとしている
ページをめくる僕は詩人で
次の季節まで
チャプター沿いの時間はまだあるから
君に出逢うには
もうしばらくかかる
誰かが僕の声を思い出した頃
あの頃の君の声を
僕は再生している
雨の日を走る
消防車を遠くに聞くように
オセアニアの夏を越えて
オリジナルの詩を呟く
ただ、細い詩片の一行を
吐息に、からませて
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
金曜日に髪を切る
見慣れた人の
見慣れた手が
見慣れた手つきで
僕の髪に触れると
妙に安心する
鏡越しに見た
ヘアスタイルは
幾重に重なった
僕の欲望に取り巻かれている
視覚化された世界の裏に
美容師である彼は
心、というリアルを見ている
そう思うと
さっきまで開いていた口が
何故か大人しくなった
心はいつも
他の誰かを見つめている
好きになる時
恐れる時
羨む時
一つの偶然を紡ぎ
一つの必然として
気持ちは
世界のどこにでも
生まれ続けるのだ
まるで命のように
金曜日に髪を切る
美容師である彼の
繊細な指先が
僕に割引券を渡す
‘view’と名付けられた紙キレの中には
「ありがとうございます」
と書かれていた
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
駅前商店街を歩く
僕らはみんな真っ白い断片で
花びらの舞う空に
人間の温度を感じる
断片が断片のまま
人らしく生き続けられるのも
高梁という空間
大学の近くの坂道で詩の材料を探した
世界は確かに動き続けていた
そして確証があるとかないとか
材料がナンセンスだとか
そんな事はどうでもよかった
僕はただ
そこを歩く一人の大学生であるから
下板張りの建物からは毎日
建物の寿命が風にのって届いてくる
古き物の寿命や
地球温暖化による災害なんかより
個人の死がよっぽど怖い
こんなにも小さな世界でも
今朝の新聞では
知らない誰か、という命が消えていくとう事がわかっているから
スカイウォーカー
僕らはまだ羽根をもっていないから
地に届く足でもって世界へ飛ぶ
自分と関係のないことも
身に吸収して
高梁が遠くなり
もう見えなくなってから
道沿いにドラッグスターを停める
歩いてきたはずの道はもう
想像だけとなって
茜の空へ真っ直ぐ伸びていた
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
つい去年に別れた女の子と
その友達で僕の友人だった女の子が
つい最近
幾千グラムかの命を産んだ
動揺を隠せない頭を働かせて
メールでおめでとう、とだけ言った
これからの月日
僕は
友人たちは
どこまで変わっていくのだろう
人生のどこかで
僕たちは必ず
ひっそりとゴールを迎える
気が遠くなるような歴史のうえに
僕たちは点として存在しているのだ
土曜日は
詩人にとっては恐ろしく退屈で
尚且つ残酷なほど
頭が冴えるのだ
まだ見ぬ命よ
君たちが大人になる時は
世界を知り始めるということは
言葉を失うって事なのさ
君が少しだけ
世界を好きになったころ
僕は飾らない言葉を束にして
希望を持って
会いにいくよ
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
木口さんの細い指が静かに髪をすいていく
ハサミの音と一緒に雨音がつぶやく
穏やかな初夏の空気を運びながら
室内に染み込んだ
パーマ液の臭いが
鼻を揺らす
僕の毛髪一本いっぽんまで
うずきそうな
恋の予感がした
カットしたばかりの自分を鏡の向こうに見つけて
とおく、去っていく雨音をすくって
耳に残す
さっき路地裏で別れたばかりの君を
少しだけ思い出した