詩人:フィリップ | [投票][編集] |
二半の単車で
遠出をした
高砂の街並みにすさぶ風は
少し強めながら
僕には妙に心地よかった
つい最近まで元気だった知人が亡くなったのは
つい最近のことだ
手のひらほどになった知人を見て
僕はただ手を合わせるだけだった
生きているだけの僕たちは
死んだ人に何を伝えられるだろう
風の感触
喜びと悲しみに満ちた感情
その中で
両者に共通するのは心身に伝う痛みだけだ
傾き始めた空はまだ風に揺られたまま
僕の髪を撫でる
絵になるような枠の中で
僕は生きていることの実感だけ
風と一緒に握りしめた
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take,C
この道は
いつか来た道だ
記憶の中に仄かに残るかけらは
微風と同じ速度で
妙に心地よかった
take,C
その地では
命はとても古い
セコイアの太木よりも
或いはしま模様の地層よりも
穏やかに年月を経たものとして
誰にでも尊重されているのだ
country,road
take,C
あの道を越えて
故郷へと帰ろう
下がり猫を追って
夕暮れに交わした
Good-bye…。
ギターを抱えて呟いた
Iwant,be,a,goodman…。
take,C
ラジオを聴いて思い出す、あの街の匂い
country,road
country,road
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地下鉄の座席で
ヘッドフォンを付けると
隣のおばさんに怒られた
外した時
内部の金属が
カチャリと鳴った
ホームに座ってる
老人の背中が
世界を支えている
曲がりきった腰は
人間という存在の重さを示唆するような感じで
斜め数十度で止まっていた
階段を上るその速度で
空は僕に近付いてくる
不公平な天秤が
僕と老人をかける
人間の重みを知らない僕に傾くなんて
そんなのって、あるかよ
空の蒼さ
海の蒼さ
人間の脆さ
今にも崩れそうな精神の果てで
世界は均等を保っている
危ぶまれる空間の中で
それは
蒼という名前を持つ
帰宅して
パスタを茹でて
ラジオをつけて
風を吸い込む
今日までこうして生きてきた僕と
蒼さを増す空
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若木が樹齢を増していくように
いつの間にか
僕たちは大人になっていく
振り向いた先に
水平線
その果てを知るということは
世界を知るということは
言葉を失うってことなのさ
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高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
神ではなく
人間が創った森
永き年月を経た
木々を殺して
創り直した森
人間の生命など
こんなにも短いというのに
街の喧騒が
いつもと同じなのは良いことだと思った
平凡な日常は
平凡なまま
それぞれのドラマを作ろうとしている
街路樹の梢が
今朝の間に三ミリ
明日へと伸びた
誰も気付かないような時間の中で
世界はゆっくり
確実に再生しているようだ
愛し合うもののために
生まれてくるもののために
僕たちはこの世界を遺していかなければならない
例え血が流れていても
例え灰色の空だとしても
かつて僕らは
この世界を受け取ったのだ
夕暮れにたたえた賛美歌のように
妖しく
美しくなければ
世界を託す意味がない
動き続けるこの惑星で
僕たちは互いに誓い合い
ぶつかり合い
愛し合って生きている
いつか
遠い未来で
今日のこの日も
静かに暮れ行く世界ならば
僕はまた
空を見上げるのだろう
高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
どこか遠くで
朝を告げる目覚まし時計が鳴っている
今日また
誰かが世界を受け取ったのだ
朝焼けにたたえた賛美歌のように
妖しく
ただ揺れながら
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新宿の夜を
地下鉄で走る
車内は静寂であり
喧騒ですらあり
ただ
僕には余りに広い
隣に座った老紳士が広げた新聞を
横目でチラリと見てみた
一面記事になっていたのは
ある殺人事件の事
遠い国の事でも
昼時のドラマでもない
今僕がいる場所からほんの数ミリ
角度がズレた地図上の街での話
そういう事に
僕は戦慄を覚えた
パンパンとした僕の心を
汽笛がつつく
山手線
辿り着いたホームの空気は
パンパンに膨れ上がったペットボトルのような重さを
冷たさと共に
僕になすりつけた
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ジプシーが
ニューデリー駅のホームで手を差し出してきた
通じる言葉などなくても
僕にはそれが何を意味するのかわかった
溢れる情報社会で
様々な言葉を
覚えなければならない世界だというのに
この国の人たちの手は美しい
空にすら
彼らの指はとうに届いている
差し出すことしか出来ないが
僕たちの指より
遥かに真っ直ぐ伸びきっている
二等列車は危ないからと
青年が声をかけてきた
時刻は既に遅く
あたりは暗闇
世界が寝付く瞬間だというのに
彼らは眠らない
あらゆる手段で
必死に今日を生き抜くために
眠らないのだ
暑さが増してくる
しかし夜は更けていく
地平線のような長さを帯びた夜は
何も感じない程
静寂に浸っている
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ユニチカ通りの前を原付で走る
瞬きする瞬間
その速度は
商店街のイルミネーションとほぼ同じなようで
さよならの意味は
初夏の風に流した
口に広がる夏の酸味
夕風サイダー
たった一人分変化する世界は
数ミリズレて
なんか、眩しい
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通りの向こう側に
風を感じた
温度無きこの空間の中で
それは鮮明過ぎて
思わず僕は
立ち止まっていた
スペイン坂の辺りでエンジンを吹かす音と
焼きたてのパンの香りが
空気を掻き鳴らし
ゆっくりと伸びる影に沿って
風は西陽に照らされていた
生まれ変わる意味も
生まれ直す理由も
全て知っている
涙の味さえ
世界にとっては味覚でしかないというのに
一体この気持ちは何なのだろう
夜明け前の新宿を歩く
時は既に満ち足りている
体に感じる僅かな風圧の中で
今また
一つの詩が生まれ始めた