詩人:フィリップ | [投票][編集] |
自動車の排気ガスが噴いた
アコースティックギターを弾くしなる指がピタリと止んだ
若葉がひっそりと年老いていくように
かみさますら
知る事のない間に
アルベール
お前はたった一回だけ夢を見た
その間に僕は
何万回も夢を見ている
轍と刺し違えて
僕が死ねばよかった
そうしたら
もっと豊かな夢を見られただろうに
友よ
河を超えた先では
元気にしているか
星は出ているか
天気は淀んではいないか
この詩を謳っている
東海岸の夜の空は
こんなにも瞬いているというのに
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
知らない言葉を知る度に、大人になったフリをした
そうして僕は
本当に大人になっていった
アネモネの花弁に付いた朝の一片だけが、まごうこと無き現実だと知って
そういえば、と過去へ
片足のさきっぽだけを浸してみる
思ったより様々な重みの中で生きていたようで驚いた
二十一年という年月は案外重い
知らない誰かに半人前扱いされたとして
それは何の脈絡もない事を教えてくれたのが
明日って存在だった
生きているうちに
僕らはどれだけの朝を超えるのだろう
新橋駅の改札で
知らない国の大使館で
まだ見ぬ君とベッドの中で
僕らは様々な希望を越えてゆく
今日も明日も明後日も
夜のような日常が僕らに付けた痣を
夜明けが、打ち払っている
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
親指の動きが
次第にあなたを描いてきたので
そろそろ
また逢いたくなってきている
完成した器を求めて
さ迷ったあげくに
待っていたのが
幸せというものなのかどうか、曖昧
どうかして、寄り道のように
好きになった
つまらない恋だというのに
おっさんに睨まれた
というより
僕はその時、世界から睨まれた気がしていた
三十にもなるというのに
そう、何かが言った
無数の瞳が、僕を見ている
手首に残った傷が
初めて、ズキンと痛んだ
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
フラれた瞬間
ぼくの世界が転がって崩れた
昨夜
それで
あなたをまた
好きになった
あなたの吐息を下さい
エレベーターの中で呟いた
そしたら
足下ががくんと揺れて
気持ちがまた確かになった
幸せを願っています
幸せになって下さい
そうして僕を
幸せにして下さい
横切っていく、気持ちのループ
無意識の彼方で
記憶の便りで以って
見つめ続けていたい
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
新大久保駅の沿線は何だか
同じビルばかりが並んでいるようだった
降りもしない雨を待って傘を広げている未亡人や
散歩に誘われた小道でキスをするカップルも
そこらじゅうに転がっている小石と同じくらいの密度を持っていた
電車が速度を落とす一瞬に垣間見る
ねじくれた軌跡
遠い異国の詩人は運命論を咏い
横で寝ているサラリーマンは起きぬけを飾っている
駆け抜けていく景色の中で
無力な僕はただ
流されていくだけだ
アイドリップ
アテンダンス
ア ゴールデンウィークタイムズ
どうでもいいことばかり口ずさんで
どうでもいいことばかり夢見ている
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
煙草に、上手く火が着かない年だと思った
カチカチとライターを遊ばせて
焦げすぎたくらいでやっと煙が出る
心はきっと吸いたいのに
からだはきっと吸いたくないのだ
エクセレン
君は言ったよね
私たちはきっと痛んでいる
悲鳴をあげている
生まれた時から人は叩かれ打ちのめされて病んでいる
だから死ぬべきか
生きるべきか
いつも悩んでいる
それで死んだ後になって
やっぱり生きたくなって
叶わなくて
土になっていくんだよって
なら
取り残された僕らは一体どこへ行けばいいのか
岡山の詩人も
鎌倉の学生も
東京のアイドル声優も
仙台のトランペッターも
無責任な生の答えを一人孤独に探している
僕らはこれから
今日一日をかけて
何を失っていくのだろう
つまらない日常を
かなぐり捨てる事も出来なくて
生きていく為に
嫌々ありのままを受け入れるフリをして
死にたいなんて
時々思ったりして
そのくせ
こうやって君の事を思い出したりして
そうやって
ちっぽけだけど一度しかない人生を
苦しみながら
生きてく
生きてく
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
皐月の中頃にて
高速バスの一番前の右側座席に座って
君の街へと行く
ぶっきらぼうに過ぎていく景色の中で
麗らかな陽射しが見据えている方向にある目的地は
もはやこの世のものではない
遠い遠いアンダーグラウンド
ともすれば消えてしまいそうな心の内で
必死に想いのハケを抱くと
ひょっとしたら
遠い遠い異国の情緒に似たものを
この世の果ての世界で
見つけられそうな気がしたりして
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
グラスの中でもって
僕は
ぐるぐると掻き交ぜられた
甘酸っぱい酸味も
生き抜く事の辛さすらも
この一杯の中で
全て消えていくから
コーヒーショップで働いていた女性が
隣の席に座ってきた
辞めた理由なんか
どうだっていいんだ
僕が聞きたいのは
どうして隣に座ってきたかだ
言葉はいらない
だから、今日のところは
飲みにこないか
君に乾杯
キューカンバーソーダ
想いも、また今度
だから、今日のところは
飲みにいこうか
君の乾杯
僕のメロンリキュールのグラスに
詩人:フィリップ | [投票][編集] |
四角い封筒の中に閉じ込められた魂が
僕のものだと気付くのには
少し時間がかかった
それは、最近誰かを好きになったからのような気がする
声優の人を好きになった
一度だけ顔を見た事があって
その時は普通に感じていたのに
今では何だか
彼女の魂ごと美しい
それが、好きって事かどうかはわからないけど
心はいつも光と同じ色をしている
その合間に揺れる
ブルーは時折美しくて、悲しい
好きになったから、ブルーだ
だから、ブルーって色が
今は何となく誇らしかったりして