詩人:フィリップ | [投票][編集] |
新宿の夜を
地下鉄で走る
車内は静寂であり
喧騒ですらあり
ただ
僕には余りに広い
隣に座った老紳士が広げた新聞を
横目でチラリと見てみた
一面記事になっていたのは
ある殺人事件の事
遠い国の事でも
昼時のドラマでもない
今僕がいる場所からほんの数ミリ
角度がズレた地図上の街での話
そういう事に
僕は戦慄を覚えた
パンパンとした僕の心を
汽笛がつつく
山手線
辿り着いたホームの空気は
パンパンに膨れ上がったペットボトルのような重さを
冷たさと共に
僕になすりつけた
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高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
神ではなく
人間が創った森
永き年月を経た
木々を殺して
創り直した森
人間の生命など
こんなにも短いというのに
街の喧騒が
いつもと同じなのは良いことだと思った
平凡な日常は
平凡なまま
それぞれのドラマを作ろうとしている
街路樹の梢が
今朝の間に三ミリ
明日へと伸びた
誰も気付かないような時間の中で
世界はゆっくり
確実に再生しているようだ
愛し合うもののために
生まれてくるもののために
僕たちはこの世界を遺していかなければならない
例え血が流れていても
例え灰色の空だとしても
かつて僕らは
この世界を受け取ったのだ
夕暮れにたたえた賛美歌のように
妖しく
美しくなければ
世界を託す意味がない
動き続けるこの惑星で
僕たちは互いに誓い合い
ぶつかり合い
愛し合って生きている
いつか
遠い未来で
今日のこの日も
静かに暮れ行く世界ならば
僕はまた
空を見上げるのだろう
高層ビル群の森を
渡り鳥が飛ぶ
どこか遠くで
朝を告げる目覚まし時計が鳴っている
今日また
誰かが世界を受け取ったのだ
朝焼けにたたえた賛美歌のように
妖しく
ただ揺れながら
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若木が樹齢を増していくように
いつの間にか
僕たちは大人になっていく
振り向いた先に
水平線
その果てを知るということは
世界を知るということは
言葉を失うってことなのさ
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地下鉄の座席で
ヘッドフォンを付けると
隣のおばさんに怒られた
外した時
内部の金属が
カチャリと鳴った
ホームに座ってる
老人の背中が
世界を支えている
曲がりきった腰は
人間という存在の重さを示唆するような感じで
斜め数十度で止まっていた
階段を上るその速度で
空は僕に近付いてくる
不公平な天秤が
僕と老人をかける
人間の重みを知らない僕に傾くなんて
そんなのって、あるかよ
空の蒼さ
海の蒼さ
人間の脆さ
今にも崩れそうな精神の果てで
世界は均等を保っている
危ぶまれる空間の中で
それは
蒼という名前を持つ
帰宅して
パスタを茹でて
ラジオをつけて
風を吸い込む
今日までこうして生きてきた僕と
蒼さを増す空
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take,C
この道は
いつか来た道だ
記憶の中に仄かに残るかけらは
微風と同じ速度で
妙に心地よかった
take,C
その地では
命はとても古い
セコイアの太木よりも
或いはしま模様の地層よりも
穏やかに年月を経たものとして
誰にでも尊重されているのだ
country,road
take,C
あの道を越えて
故郷へと帰ろう
下がり猫を追って
夕暮れに交わした
Good-bye…。
ギターを抱えて呟いた
Iwant,be,a,goodman…。
take,C
ラジオを聴いて思い出す、あの街の匂い
country,road
country,road
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二半の単車で
遠出をした
高砂の街並みにすさぶ風は
少し強めながら
僕には妙に心地よかった
つい最近まで元気だった知人が亡くなったのは
つい最近のことだ
手のひらほどになった知人を見て
僕はただ手を合わせるだけだった
生きているだけの僕たちは
死んだ人に何を伝えられるだろう
風の感触
喜びと悲しみに満ちた感情
その中で
両者に共通するのは心身に伝う痛みだけだ
傾き始めた空はまだ風に揺られたまま
僕の髪を撫でる
絵になるような枠の中で
僕は生きていることの実感だけ
風と一緒に握りしめた
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木口さんの細い指が静かに髪をすいていく
ハサミの音と一緒に雨音がつぶやく
穏やかな初夏の空気を運びながら
室内に染み込んだ
パーマ液の臭いが
鼻を揺らす
僕の毛髪一本いっぽんまで
うずきそうな
恋の予感がした
カットしたばかりの自分を鏡の向こうに見つけて
とおく、去っていく雨音をすくって
耳に残す
さっき路地裏で別れたばかりの君を
少しだけ思い出した
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つい去年に別れた女の子と
その友達で僕の友人だった女の子が
つい最近
幾千グラムかの命を産んだ
動揺を隠せない頭を働かせて
メールでおめでとう、とだけ言った
これからの月日
僕は
友人たちは
どこまで変わっていくのだろう
人生のどこかで
僕たちは必ず
ひっそりとゴールを迎える
気が遠くなるような歴史のうえに
僕たちは点として存在しているのだ
土曜日は
詩人にとっては恐ろしく退屈で
尚且つ残酷なほど
頭が冴えるのだ
まだ見ぬ命よ
君たちが大人になる時は
世界を知り始めるということは
言葉を失うって事なのさ
君が少しだけ
世界を好きになったころ
僕は飾らない言葉を束にして
希望を持って
会いにいくよ
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駅前商店街を歩く
僕らはみんな真っ白い断片で
花びらの舞う空に
人間の温度を感じる
断片が断片のまま
人らしく生き続けられるのも
高梁という空間
大学の近くの坂道で詩の材料を探した
世界は確かに動き続けていた
そして確証があるとかないとか
材料がナンセンスだとか
そんな事はどうでもよかった
僕はただ
そこを歩く一人の大学生であるから
下板張りの建物からは毎日
建物の寿命が風にのって届いてくる
古き物の寿命や
地球温暖化による災害なんかより
個人の死がよっぽど怖い
こんなにも小さな世界でも
今朝の新聞では
知らない誰か、という命が消えていくとう事がわかっているから
スカイウォーカー
僕らはまだ羽根をもっていないから
地に届く足でもって世界へ飛ぶ
自分と関係のないことも
身に吸収して
高梁が遠くなり
もう見えなくなってから
道沿いにドラッグスターを停める
歩いてきたはずの道はもう
想像だけとなって
茜の空へ真っ直ぐ伸びていた