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甘味亭 真朱麻呂の部屋


[1138] こればかりは
詩人:甘味亭 真朱麻呂 [投票][編集]


小さな丸い世界の中に閉じこめられたまま
僕はいつか息絶える
悪ふざけもできない歳になって
どんどん暮らしは豊かになっていく
その中で自分だけが
衰えていく
誰もが同じように
衰えていく
そんな風にずっと繋がって
それぞれの光を放ちながら
世界は生まれ変わる
新しく
ハイテクに
便利に
僕が消えた後でも
止まらずに世界は回る
そして進む 進むよ
次から次へと
新しいものが増えて
古いものは消え去ってく
大切な気持ちも
僕の中でなくなってしまうのかな

時間は流れてく
世界は変わってく
もう
どうにでもなれ
僕は もう
その頃には もう
生きてはいないから
目にすることも
ふれることさえ
できないんだよ
もう
僕は生まれ変われはしないんだよ
もう
いないんだよ
雨が降る駅にも
夕方の土手にも
よく通った路地にも
スーパーの駐車場にも
いないんだよ
ただ古い寿命の中に
病院の死亡診断書の片隅に小さく名前だけ残されて
いつの日か古くなって
いつの日かボロボロに色あせて…

永遠のない世界で
限りある世界で
僕は約束された死の前に屈しながら
どうにもできずに終わっていく忠実に運命のままに消えていく
いつの日か
絶対に確実に過去の誰もがそうであったように
僕もいつか
いつの日か…
回り続ける
世界で僕は 目を閉じる白くなる鼓動しなくなる
今手を当てて生きていることを幸せに思っても
あぁ こればかりは。

2007/05/20 (Sun)

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