詩人:蒼月瑛 | [投票][編集] |
僕の記憶がなくなる5秒前
逃げ場なんてあるわけない
迫り来る魔の手に
僕は今何を思うの?
僕の記憶がなくなる4秒前
そこは静寂の中に降り頻る驟雨と空に放たれた閃光の後から飛来する轟音が足された世界
これまで生きてきて僕はよかったよ
たくさんの友に囲まれて、たった一人の女性とも出会うこともできた
俗にいう素晴らしい人生だったよ
後悔なんてない。といったら嘘だけど
でも、それなりに満足している
それが幸せの代償ならそれでもいい。
僕の記憶がなくなる3秒前
それでも彼女に言えてなかったな
「ありがとう」って
でも、僕は死ぬんじゃない。
ただ記憶がなくなるだけ。
その僕と彼女はきっと楽しい生活を営むんだろうなあ
そこに僕が立ち会えないのは残念だけど
・・・アレ?
僕の記憶がなくなる2秒前
僕は記憶がなくなるだけ?
いや、違うだろ。
僕は僕でなくなる
僕は、あの素晴らしい時間を失う
ということは、僕じゃない誰かが
僕の知らない誰かが
何喰わぬ顔で、僕として生きるということ
じゃあ僕は、どこに行く。
なくなるのは記憶だけ
それは蜩の脱け殻か。
僕は死ぬ
僕の記憶がなくなる1秒前
それは僕であって僕ではない。
僕?ぼく?ボク?
じゃあ何が残っていれば、僕なんだ
どれが僕であって、どれが僕ではないんだ?
じゃあ結局僕って誰な…
ボクハダレ?
遅れてやってきた轟音が特別大きく鳴り響いた