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どるとるの部屋


[7395] 蝉しぐれ
詩人:どるとる [投票][編集]


ラズベリー色の 空の向こう
金網を よじ登る夜中
プールに忍び込んで
君は 得意そうに笑った

水のない水槽には塩素のにおいがまだ少し残っていた
擦れたタイルに 夏を見た

真夏のうだるような陽射しは 消えて
少しだけ うすら寒い夏の夜のこと

君の唇の柔らかさとほろ苦さを知った
少しだけ大人になったつもりの少年

炎天直下を 逃げ回り 日陰に
逃げ込む アフタヌーン
ふれた指先 手放し運転で駆け抜けた畦道

下心だけで 満たされていた
拾ったエロ本 湿った肌に 雨の洗礼
あわてて 屋根の下に 避難したよ

雨宿り 午後6時 濡れた制服に欲情
息をするたび 香る甘い果物の匂い

「雨、やみそうにないね」なんて言うから
意地悪く 僕は傘を忘れた君をおちょくる

あの日の万華鏡のような
日々の中にあった 光は今ではもう
二度とは手に入らない幻
揺れるかげろう
誰もいない 下駄箱
カンカン照りの 校庭
あの頃世界には自分を偽る嘘などいらなかった

そしてまた 僕はあの日に 帰る
思い出した 記憶をたどりながら
おぼろげな記憶を 手繰り寄せる 夢の中

真夏のうだるような陽射しは 消えて
少しだけ うすら寒い夏の夜のこと

君の唇の柔らかさとほろ苦さを知った
少しだけ大人になったつもりの少年

雨宿り 午後6時 濡れた制服に欲情
息をするたび 香る甘い果物の匂い

「雨、やみそうにないね」なんて言うから
意地悪く 僕は傘を忘れた君をおちょくる

それはきっと君がくれた愛のせいだ
なんて 言葉を 伝えそびれた僕は迷子
いつまでも あの畦道をさまよう蝉しぐれ。

2016/02/18 (Thu)

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