詩人:はちざえもん | [投票][得票][編集] |
時々ありもしない不安に襲われることがある。
それは歳に似つかない、空想めいた陳腐な不安。
この頃、体調が良い。季節は少しずつ色褪せてきている。
でもそれに逆行するように街は段々と鮮やかに飾りつき始めて、
幸せそうな顔が二つ並んで歩いていくのを僕は少し離れてみている。
君を待つ時間は少しも苦にならない。
おそらくそれは想像が期待のほうにしか顔を向けていないからで、
こんな瞬間にも、僕は自身の心境の変化に戸惑う。
考えなきゃならない課題など、心を病みそうなほど思い悩んだ人類の愚かしさなど、
いつの間にかどこか押し込めていてしまっていて、
青い空さえ歪んで見えていた以前の僕はここにはない。
でも最近、ありもしない不安に襲われることがある。
それは今までの自分にはおおよそ似つかない幼稚な不安。
幸せがすぎて全て嘘に見えてしまう。
満ち足り過ぎて現実が嘘に見えてしまう。
全てが僕の想像なんじゃないかなんて、そんな愚かな想像。
とうとう頭に焼きが回って現実と想像の区別がつかなくなったんじゃないかなんて妄想。
でも、あながち間違っちゃいない。これはある種の虚像。
感覚を麻痺させたのはおそらく君の存在。
いや、これだけは間違いなく、君の存在。
君が僕に向ける笑顔が僕の思考を停止させて、
ただ無駄に心臓の活動を促す。
それは僕には寧ろ恐怖であって、
それ以上に僕を掻き立てる原動力でもある。
僕はひたすらに君の笑顔を享受して、
でも僕は君に何を与えることが出来るだろう?
いっそこの張りぼての体、全て本当に嘘だったならばと、
本当に下らない事を考える。
でもそれを一方的な愚などとは思わなくなったこの頃は、
やはり君に麻酔をかけられている証拠だね。
着飾った街を並んで歩いていく。
幸せが過ぎて何もかもが嘘臭く思えてくる。
きっと僕は君の本音が知りたい。
それはきっとあまりに単純な衝動。
君が笑顔以外の返答を有していない事なんてわかっているくせに、
僕は衝動を押さえようとしない愚かしさ。
「考えすぎよ。」と君が笑う。
今の僕にはそれで良いと思うんだ。
今の僕にはきっとそれで十分なんだ。