詩人:波瑠樹 | [投票][編集] |
平日の深夜だというのに
酷く寝付けない夜だ
考えてみたら
感情や言葉なんてものは
もはや溢れ返っていて
僕なりの、僕だけの
オンリーワンなど
最初から存在しないのかも
しれない‥
僕が人を愛する時
僕が傷みを背負う時
僕が喜びに震える時
僕が何かを伝えたい時‥
それはすでに
誰かが知っているもので、
僕はその誰かと同じ色の
鼓動を感じているだけ
なのかもしれない‥
それでも僕は
掲げてしまうのだ
誰かと同じ
誰とも違う
その両方の想いを混ぜ合わせて
これでもか、という程に
愛しい自分の存在を‥
自分の中の揺るぎない
オンリーワンの魂を
遥か高く、遥か遠く
この世界中に響かせたいと
願うんだ。
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交差点で
立ち止まる癖は
見上げた空が
高く広く
感じるから…
君がいつも
見ていたものは
他の誰かの
希望じゃなく
君だけが知ってる
君だけの光
僕の心じゃ
見えないけど
僕はそれが
好きだったよ…。
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薄暗い雨の日の公園
男が一人立っている
黒いスーツに黒い傘を手にしたその男は、
じっと前を見つめて何かを待っているようだ。
しばらくして娘が一人やってきて、男に何かを手渡し去って行った
娘もまた、黒いワンピースに黒い傘をさしていた。
娘が去った後、男は渡された何かを握り締めて泣いているようだった
雨足は次第に強まり、
やがて男の姿は夜の闇に見えなくなっていった。
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風邪を引いた君の額に手をあて、
君の寝顔を傍で見ながら思う…
君の悲しみを和らげる薬があればいい…
君の涙を笑顔に変える薬があればいい…と
君の心の処方箋
それが僕であればいいのに…と
心からそう願うんだ…
僅かに目を覚ました君は
額にあてた僕の手にそっと触れて
小さく微笑んだ…
君の全てを代わってあげたくて、
僕は君にキスをした…
何もかも僕に移していいんだよ…
こんなにも君を、愛しているんだ…。
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音もなく
雪溶け水は流れ落ち、
僕の元へと訪れる君が
春を知らせる事だろう…
田園脇を駆ける風の歌…
それに応えるかの様な
制服達の笑い声…
僕と君が出逢い
そして巣立った、
あの古びた校舎を思い出す…
冬の終わりの君と僕、
永く刻んだ時を抱き
柔らかな陽を浴びて…
新しい二人を迎え結びゆく…。
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その朝、天候はあいにくの雨だった…
彼女は、重い気持ちで空港へと向かった。
学生時代からの「親友」が、転勤先の東京で結婚するという報せをよこしてきたのだ。
「親友」の結婚という出来事は、彼女にとって大きな区切りとなるものだった
なぜなら彼女は、長年ずっと「彼」に想いを寄せていたからだ…
搭乗手続きを済ませ、機内へと乗り込む頃には
雨足は更に強まっていた
行き場のない切なさを感じながら、窓に叩きつける雨を眺め
離陸の時を待った…
機体が滑走路へと入り、エンジン音を高める
一気に加速する圧力に、僅かな緊張を覚えたが
次の瞬間、それは清々しい躍動感へと変わった…
ふわっと浮いたかと思うと、どんどん高度を上げていく
あっという間に雨雲の中へと入り、窓の外は霧中の様に白く遮られた
さっきまで叩きつけていた雨も、下方へと遠ざかり
彼女の胸は、この先の光景へと抱く期待で溢れていた…
数分後、雨雲を突き抜けた機体は、眩しい太陽の光に照らされた…
まるで雪原を走るかの様に、真っ白な雲の絨毯の上を駆ける…
太陽は一回り大きく見え、窓から射し込む光は
熱さを感じる程だった
遥か彼方には、水平線の様な青空が横に美しいラインを引いていた…
なんて綺麗なんだろう…と、その光景に目を細めながら
心を支配していた何かが、解放され遠ざかっていくのを彼女は感じていた…
約一時間の後、機体は着陸体制へと入り、
高度を下げながら、また雨雲の霧へと包まれていく…
そして再び、窓の外には激しい雨が戻っていたが
彼女は、不思議と穏やかな気持ちでその雨を見つめていた…。
羽田に着き、到着ロビーに出ると
明日に式を控えた「彼」が迎えに来ていた
屈託のない笑顔が、ほんの一瞬彼女の胸を痛めたが
それもすぐに笑顔に変える事が出来た…
久しぶりに見た「親友」の笑顔は、守るべき愛を見付けた充実感と幸せに溢れ
それは、ついさっき見たばかりの雲の上の太陽の眩しさに似ていた
彼女はずっと言えずにいた祝福の言葉を、ようやく彼に伝えると
心からの握手を交わした
空港の外は相変わらずの雨だったが、二人が見せたそれぞれの笑顔は
その先に生まれる虹の様に煌めいていた…。
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僕と彼女の積み木遊びは
一風変わっていて、
そこにはルールがある
積み木を積むのは、彼女一人の役割
完成するまで僕は手を出せない
彼女は喜怒哀楽の様々な積み木を
巧みに積み上げ、
一番頂上には「愛」の飾りを乗せる
完成したそれを見る度、
どこかクリスマスツリーに似ていると
僕は常々感じていた…
彼女が満足気に完成させたそれを
一気に壊すのが僕の役割だ
一番上の愛を払い、
両手で抱き締める様にして崩す
ガラガラガラガラと激しい音を立て
四方八方に欠片が転がって止まる…
彼女は、
その欠片を眺めるのが好きらしい
僕に壊されるのが好きらしい
だが、最後の積み木遊びは違った
彼女は積み終わった瞬間
自らの手で壊したのだ
「愛」さえ乗せる事なく
完成させた最後のそれを
激しく、叩きつける様にして
壊したのだ…
積み木遊びはもうお終い
そう言って笑いながら、
彼女は去って行った…
最後に乗せなかった「愛」を
僕の手にそっと握らせ、
彼女は去って行った…。