詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ぼくの好きなものは
すべて君のポケットにつっこんだ
君は受け取らなかったから
君はまっすぐに
遠く、モノクロの
景色を見つめてる
有刺鉄線の向こう側で
灰色の地平線を眺めてる
まばたきすら、しないまま
掠れた声でなんど呼びかけても、
君はポケットの中を見なかった
こっそりと、割れた現実を入れたのに
僕は君の首に巻きついた
錆びた鎖を外そうとした
息をしないまま、君は
「とらなくていいよ」と言った
ばらばらになってしまう前に
はやく、ぼくを殺して
雨が止んだら君はいなくなるだろう
有刺鉄線にからむ
灰色の雨
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正しくよごれた
美しいブラウス
退廃した闇、美しい窓辺
何もかも狂っていることが
純粋なことにさえ感じた
君を犯すものたちが
列をなし、終焉を唄う
いつものように
神聖な儀式は、明け方を待つ
赤い鳥が帰るころ
無限にまわる歯車から抜け出せたら
その時は、君の手をとり
透明で
神聖な、
あの鐘を鳴らしにいく
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日差しから溶け出す
快晴の中の氷
いっそのこと
僕に残して
一生消えない傷を
僕に 残して
一生癒えない傷を
柔らかな白い爪を
冷たい心臓深くに突き刺して
あたたかな血潮は
あなたを 癒すだろう
痛みをともなう
傷跡がほしい
この罪が
時に侵食されないように
この罪を
永遠のものにするために
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それは、一種の破壊音のような
それは、秘密の暗号 難解で 愉快な
退廃した都市に降りそそぐ 静かな稲妻
あなたは、いとも簡単に 私の砂時計を止めてしまう
そして
イタズラに、気まぐれに
なんどもひっくり返す
研ぎ澄まされた 瞳の 澄んだ輝き
自由も、神様も、悪魔も、天使も
たちどころに笑い転げる
気の利いたあなたのジョークに
心地よい銀の鈴の声
あなたの 声
なにやらぶつぶつ 文句を言っている
懐かしいような メロディーまでつけて
なんと、 ここまでが単なるー
あなたのイビキだったとは!
深い 、喜びの数だけ
冷たい痛みが訪れる
一生のうち 僅かなひとときにしか 出逢えない感情にさえ
その裏側にピタッと張り付く 代償
穏やかな午後の クローバー達でさえ、残酷な代償を求めてる
あなたはその代償を
まるで 缶コーヒーでも買うみたいに払う
生まれたての 稚魚みたいに
あどけない 無防備な眼差しのまま
本棚にびっしり積もる 埃の意味さえ
あなたの心では明快な童謡くらいにしか 映らない
あなたはその代償に
自分の薬指さえも すんなり 渡してしまう
相手が誰かも 確かめず
痛いよ って
涙を流しながら
でもー 次の瞬間には
傷が治ったら また来るよって 微笑みながら
それは、一種の破壊音のような
それは、秘密の暗号 難解で 愉快な
退廃した都市に降りそそぐ 乳白色の稲妻
あなたはイタズラに 私の砂時計を止めてしまう
純真に 研ぎ澄まされた 黒い瞳の三日月は
あなたの微笑みの
決まり切った形
鳥肌が立つほど 真っ直ぐ
視線をそらせないほど 正確に
年月を
幾つ重ねても
滑稽なほどに 意味はなく
真実をさらりと携えて
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見る
見つめる
あなたを
見つめる
狭い 四角の 天井
もれた 息
髪を揺らす
鼓動と同じリズムで
波打つ 首すじ
とても とても
かすかに
見る そっと
見つめる
あなたを
ただ そのままに
許された 永い、一瞬に
少しだけ濡れた 瞳
まつげ
まばたき 、 光
見つめる
見て いる
見て いる
私の身体に備わった
二つの 黒い 眼
窓硝子が 光を 招く
青い空の はるか遠くの雲
あの雲より はるか遠く
目の前に 限りなく
あなたが
近くに 側に
もっと
見つめる 見つめる
見つめる
冷たく 高く かがやく 星
暖かい 漆黒の 宇宙
生まれはじめた ものたち
見つめる 見つめる
あなたを
かすかに揺れる 肩
呼吸、 喉
手のひらの、奥の 心臓
見つめる
記憶するためでも 確かめるためでも、
いっさいなく
教えられた 訳でも なく
見つめる
見る
何かを 埋めるように
本当に そっと
大切に 詰めるように
唯 見つめる
永遠と一瞬 が 喧嘩もしないで
あなたの向こうで ゆれる
見つめる
見つめる
ゆれる
伸ばした腕 爪の先
あなたの涙に
微笑みに
近く 深く 届く
一番 奥の あたたかい、場所
見つめつづける
触れるより やさしく
抱くより 熱く
終わらない音楽の
銀色の 音色みたいに
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最後の一言
助けてって言えないのは
助けてくれなかったとき、僕は世界を破壊してしまうから
助けてって叫びが無視された時
僕は自分自身を、破壊するだろうから
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
僕が欲しいのは、いっこだ
いっこのものが、欲しい
君はいつも十個も二十個もねだるね
いっこくらいダメでもなんとかなるね
なかなか気楽で良さそうだ
僕は弱い
いっこが手に入らなければ負け
でも僕は世界一
勇気がある
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
がんばらなくても、いいよ
笑わなくて、いいよ
泣いても、いいよ
泣けなくっても、いいよ
色んなこと焦らないで、いいよ
そのまんまで、いいよ
落ち込んでも、いいよ
失敗しても、いいよ
何も変わらなくて、いいよ
怖がっても、いいよ
うまく話せなくて、いいよ
具合が良くなったら、また
あなたの話を 聴かせてね
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
世界中の薬局から
山のように包帯と薬を買ってくる
もし君が手首を切るなら
世界一の音楽家をよんで、世界一美しくて楽しい旋律を聞かせる
終わることなく君のそばで、今日あったことや、見た景色のことを
永遠に話し続ける
二度と嫌なこと、思い出す時間が訪れないように
君が、また
氷のように冷たい闇に襲われそうになったら
僕の熱い腕で 力の限り抱きしめるから
君が咳き込んでも、嫌がっても
もう
離してやることはできないさ
もしまた、君が自分を傷つけるなら
君が二度とナイフに触れなくて良いように
自衛隊を総動員して、日本中から刃物を失くしてしまおう
君がもし もし
また
手首を切ったら
僕は
君の手首を 力一杯握りしめる
真っ赤な 傷口の上から
直接
包帯も巻かずに
君の手首の骨が折れそうなほど
この炎のように熱い
熱い てのひらで
何時間も握りづづける
君が眠ってしまうまで
君の血も、悲しみも、もう
一滴だって、流れないように
君が 二度と この悲しい傷跡を
見ることがないように
君の代わりに、傷が
治って行くのを見つめ続ける
僕も、みんなも、空も、鳥も、月も、太陽も、悲しくて
あまりに悲しくて
泣くことしかできない
悲しいこと 嫌なこと
君の中からなくしてしまうため
空はどこまでも宇宙につながって
悲しみを大気圏外に見送るよ
太陽は精一杯照って 闇を包んで 無くそうとしているよ
鳥は、歌のうまい子も下手な子も、みんな精一杯 君に歌を届けるよ
月は、暗闇で二度と君が、怖さに潰されないように
出来るだけ、オレンジに明るく光って
君が寝てしまうまで、暗闇と闘うよ
僕はなんにも特技がないけど
世界中の包帯と、薬と、君の涙をふくハンカチを山盛り担いで
ずっと変な顔をしてそばにいる(君が吹き出すかもしれないから)
君のしたいこと、一緒に考えよう
君の好きなものの、話をしよう
もちろん悲しい傷が、治るまで ずっと
君の
赤い手首を握りしめたまま