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剛田奇作の部屋


[151] 放課後の有刺鉄線越え
詩人:剛田奇作 [投票][得票][編集]

片膝で、机の裏の冷たさを感じていたあの頃

人の身勝手さにも

優しさにも

鈍感だった


研ぎ澄まされた自意識を振りかざし

ヒトも自分も

無邪気に傷付けた


校舎の窓から、乾いたグラウンドを眺めていた冬


生きる怖さも
風の冷たさも


知らないまま


雪山の鋭利な輪郭だけを
得意げに見下ろした


窓ガラスにピタリと付けた頬に
感覚はもう無かった


指がアカギレで一本も曲がらなくなってから

ザイルの在りかを考えた


無くした教科書を気にかけたまま


隠れることだけはできた

いつも、息の詰まるほど焦っていた


破戒者なんて最初からいなかったのに


授業中も右手は尖ったくるぶしをひっかいた


自分で
爪の中の傷を見つけられたら


それらの懐かしい居場所が歪みはじめる季節


画鋲を踏み付けたままの足を

気まずそうに隠しながら


じっと
スカートの裾を掴んで立っている私


個人的に、必死に明日へ手を伸ばし続ける私


息が詰まるほど、
焦っていた


息が止まるほど、
美しかった





2009/01/17 (Sat)

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