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minの部屋


[8] 白昼ランドスケープ
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飴色の柱に、反射して
アーケードから
白い太陽。
舗先に並ぶは赤いケトル、と
母の裾を握る双子の眼差し。
暴力的なかげろうの揺らぎに
金字押し看板が霞む。
マンホールの点、点、
三毛猫が生真面目に
踏み鳴らす

青銅の、道しるべ



「嘘の吐けない男になんか、三行半よ、ミクダリハン」
と古風で進歩的な意見を彼女は受話器越しに、はき捨てた。おそらく、オープンテラスの珈琲と煙草にまじえて。
「悪い人じゃないけどさ、アンタの手に負える相手じゃなかったのよ、ほら、新しい男なら紹介するから、」
この場合、悪い人、というのはなにかしら、と返したら、何か言ったような気がしたけれど、しばらくして電話が、切れた。

緋色の爪先と往来の喧騒――



双子のだんまりを
見つめながら
うわの空、
柱の隙間に青く
ぼんやりと浮かぶ。
ふいに君が、繋いだ単語に
三半器官を
握りしめられて、
フラッシュの白。
おもわず閉じた
瞼の薄い痙攣、
立ち止まった途端
首筋を伝う汗が転がり、
蝉時雨を逆さまに映す。

濃緑の影に輪唱、クレシェンド



電話の淡い光が消え、隣で寝息をたてる君を、見つめる。汗の滲む額に口づけて、買い物に行きましょう、と起こそう。前から狙っていたケトルがあるのよ、と。きっと君は、まるで私が居ること自体が誤算だという顔をして、起き上がるだろう。

待っていて、の一言が、今日欲しいだけ――



ぴたり、鳴り止む
青銅のレリィフが
ゆるいカーブを描いて、
西の方向へ
白い太陽を誘う。
開いた目に
三毛猫が横切る、と同時
飴色の柱に、
反響する、蝉時雨。
舗先からは
赤いケトル、と
双子の眼差しが
居なくなっていた。

全てに満足した私は、ようやく夏を始める

2007/03/16 (Fri)

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