詩人:たかし ふゆ | [投票][編集] |
空が澄んでいるのに
もやもやとしている不思議さ
清澄な空気を鼻腔いっぱいに含んで
突き抜ける、秋晴れ
さはやかなれど
干された、かたっぽの靴下
オハイオのマーケット
香る微炭酸、三ツ矢サイダー
不自然に生きていく
自然な僕ら
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早雪の粉雪
巣鴨とがんも
燻らせたシガァレットの煙が
豊島の夜に溶けて行く
歩きながら考える癖をつけて
願ったら何かが叶うとか
願えど願えど叶わないものとか
この世に蔓延る
いっさいがっさいを
忘れるために、認識するのだ
消えない会話
世界から零れた、たった一ミリの隙間
ずれた分だけ、世界は新しく廻る
さよならの季節が迫りくる
また来年、再来年、もっともっと遠くても
手を振る
振り続ける
振り向くという奇跡のあとに
じゃあね、ではなく、またね、を
過ぎ行く君よ
さよならだけが、さよならじゃない
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モーニングペーパーを開きながら
ラウンジに揺蕩う
コロンビアの苦い香りが鼻をつつくのを感じている
海の向こうでは亡国者が暗殺され
直ぐ近くでは吉祥寺が自由が丘に迫られ
目の前では、冬が眼をこすりながら横たわっている
気配はいつもゆっくりと浸透する
たとえば
鳥の鳴き声のトーンだとか
ゲストハウスに集う外国人旅行者だとか
ただ
いまだ姿も輪郭もハッキリと見えない
世界が塗り変わっていく時は
香りだけがする
満員電車の車窓
17才
ユウコさんの前髪
揺れ、少しずつ変容するものを
指先の感触だけで感じている
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掠れた冬の匂いがまとわりつく
その理由を探しているうちに
知らない場所へと来てしまった
誰のためでもない
何のためでもない
したたかで
たおやかな偶然
その理由を思い出せない
瞳は閉じているのに
世界が見える
文字と言葉の羅列が海になる
それに飲まれる
レッスン
溺れかけたように呼吸がずれるのは
世界が一ミリ
俺を受け入れたからだ
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背負わされた責任を運命と呼ぶ人と
立ち塞がる世界との間で
揺れていたあの頃
ゆらり
くゆる煙草の不確かな煙と、コーヒーの確かな温度
宛のない目的を目掛けて走り続ける
実体の無い願いの旗を掲げて
何度も、何度も
空中遊泳のように
現実よりも
夢を見る方が難しい事を知らない
そんな時間だけが愛おしい、という不思議さ
産み落とされた僕らに伝えられることを
今、生きている僕らに奏でられる言葉を
道に迷ってきたことも、何かを見落としてきたことも、目的なく明日を眺めるだけの日々の言い訳にはにはならない
家族や友達を想うことは、同じ場所に留まって、歩き出すことを躊躇う理由にはならない
「ハングリーデイズ」
古い靴を脱ぎ捨てる勇気を
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透明な時間は二十代までにしか与えられていないのに、エントロピーは何処までも膨脹していく不思議さ
はたして、時間とは一体何なのか?
物語の膨張
心の膨張
言葉の膨張
色々なものが膨脹していく中で、俺は何処の誰と、どれくらいの人間と繋がっていけるのか
人間だけが、膨張を続けない
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五月が終わる前に
終わらせておきたいことを整理しようと
生暖かい街へ出る
トーキョー
灯りの無い路
脇に寄せられていた猫の死骸
迷惑メール
矢継早
目に入ってくる定まらない気持ちたち
瞬く星の
何百年も前の光への恍惚
ベイルート
今ここに居ない人達の
日本に居ない無数の人達の
同じものへの眼差し
あられもない生と死が
国という違いだけで突き付けられる
はたして平等とは
実体の無い正義と願いが渦巻く
嘘が救う世界と無縁でいられる僕らの
在らざる善
生きているということを
あらゆる夜の中に見る
僕の眼
整理できずに破り捨てた「ラヴアンドピース」の詩片
よろけそうになる
風の音の喧しさ
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しまい込んでいたシャツの柄を久しぶりに見て
秋が来たと認識する
同時に、何かが終わったということも
時計の針が一人で進んでいく
俺は、新しい物語を作らねばならない
何も無いところから何かが産まれてくるのは不思議だ
ひとつ前の電車に乗り遅れたことでさえ
「芸術だ!」などと思えてくる
どうしたら理解されながら生きていく事が出来るのか
理解される事は難しい
信用される事は難しい
そのための努力の仕方が、わからない
コミュニティ
コンバイン
コンバージ
暗闇のなかを、手探りで進むのだ
秋になると、輪郭のない何かが爆発しそうになる
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金曜日に髪を切りに行った
山崎さんの指が相変わらずしなやかで
僕の髪も相変わらずへたり癖で
世界は変わらない
と思ったのに
道すがら、交差点でお地蔵さんを見掛けて、まじまじと見る
果たして、こんな顔立ちだっただろうか
エントロピーが拡がり続けていくように
世界はアップデートを加速し続ける
別れたとき、元カノが「他の人の彼女になったよ」、とメールしてきていて
付き合いだした頃の温度と、その時の温度とを天秤に意味もなくかけた
夕暮れの時計台
伸びていく給水塔の影
風に舞いながら
空を漂ういくつもの折り紙たち
秒針の音だけが響いて
怒りもせず、悲しくもなく
僕は歩き出す
ただ、何かの終わりだけを実感しながら
見えない涙や傷を抱えながら
僕らは生きている
切り落とされる髪の毛のように
伸びきって、いつかそれらが身体から離れていくまで
煙草の煙がくゆる自室
切れかけのトイレットペーパー
机の上の、書きかけの文字