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浜崎 智幸の部屋  〜 投稿順表示 〜


[90] 【時津】
詩人:浜崎 智幸 [投票][編集]


今も忘れない爽やかな彩り
僕の好きだった伸びやかな光

君が忘れたら季節は置き去りで
切り取られたまま埋もれてしまうだろう

 僕はここで生まれたわけじゃなくて
 はがゆくてもどかしい愛しかなくて

夕暮れには夕暮れ色
雨降るなら雨の色に 
染まることしかできず


確かめたくても時は戻せないし
記憶にノンブル打つこともできない

 僕はここに住んでるわけじゃなくて
 柔らかく臆病な愛さえなくて

夜明けにはコバルト色
海騒げばさかな色に 
染まるだけでもいいか
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2024/06/21 (Fri)

[91] 【ナメクジ・スケルツォ】
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伝令を走らせろ
すべての仲間を呼べ
人類が滅ぶのを
見届けてやる
ためにだ

 祖先の祀(まつ)りを
 忘れたせいだ

長生きをしたいなら
行儀よくすることだ
異教徒の入れ知恵に
耳を貸さない
覚悟で


墓碑銘を彫り直せ
死者に名誉を返せ
不可逆の存在を
忘れてしまう
ためにだ

 梵語のspellを
 忘れたせいだ

因縁が怖いなら
信念を持つことだ
泥仕合するまえに
死に化粧する
覚悟で
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spell・・・呪文という意味もある。
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2024/06/25 (Tue)

[92] 【ここにないもの】
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雨だれが庭を打つ
意味のない日曜日

自転車が濡れるから
買い物に出られない

 歌は資源にならない
 心は痩せてゆく

ここに神はいない
敵もいないけれど

ここに君はいない
時間を戻しても

ここに君はいない


読み飽きたはずの本
それなのに手に取った

猫たちは会いにくる
感情のない味方

 樹々は試薬にならない
 焦りがつのるだけ

ここに祝福はない
焦土は遠いけど

ここに惻隠(そくいん)はない
救いは未定義だ

ここに惻隠はない

────
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2024/07/04 (Thu)

[93] ──弔辞───
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深妙院華生日芳信女。

あなたは私のたったひとつの自慢でした。

────
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2024/07/07 (Sun)

[94] 【闇の果てへ】
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泣き濡れた町を
出れば逃れられる

行き先も知らず
飛ばせ 闇の果てへ

アクセルを踏み
悲しみこらえ
逃げる逃げるセリカ

養鶏場の前のカーブで
猫をはねたけれど

咎める人もいないのね


未練だけ残し
砂を噛んだタイヤ

反射して襲う
デリニェータの光

追いかけないで
あなたとわたし
今日で終わりだから

暴力さえも沈黙さえも
追いつけない彼方

取り戻せないあの影絵

泣き濡れた町を出ても
泣くと思う

行く先も違う自由な人でさえ

平成〇〇年の誕生日まで有効──

わたしの免許では
追いつけない彼方
追いつけない明日
追いつけない

あなた

────
デリニェータ・・・ガードレールやトンネルの側壁にある小型の反射板
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2024/07/09 (Tue)

[95] 【コン・ソルディーノ】
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弦(いと)に滑らす指を見ていた
風になろうと弦は泣いてた

光の庭で都会を忘れ
無邪気な心取り戻そうか

コン・ソルディーノ
君の声は小さすぎるよ
少し硬いし

コン・ソルディーノ
君は音楽


青いドレスを褒めてみようか
それとも細い脚にしようか

画家も詩人も出番がないよ
君は君だし 今は今だし

コン・ソルディーノ
君の声はかき消されるよ
少し痛いし

コン・ソルディーノ
君は音楽
──────
──────
コン・ソルディーノ・・・弱音器をつけて

2024/07/15 (Mon)

[96] 【和楽団地】
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夢の入口だね
あなたの住む町は
過ぎた日の優しさを思い出す午後

そして笑い声が
光とたわむれる
悲しみが遠ざかる そして温もり

──人が学べることは
あまりに少ないけど
──人が愛せるものは
数えきれないほどに

この町のあちこちにあるよ
和楽団地


愛を試すものは
いつでも多いけど
永遠の約束も信じられるね

弱気になるときも
未熟を恥じる日も
あなたを思い出せば
うまくいくはず

──僕が歌えることは
あまりに少ないけど
──歌いたくなるものは
数えきれないほどに

この町のあちこちにあるよ
和楽団地

──────────
長崎県西彼杵郡長与町
──────────

2024/07/16 (Tue)

[97] 【若菜川】
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峠を下れば左手の谷間に
流れも清らな小川が見えるはず

半農半漁の小さな世界まで
ゆらゆら流れる小さな川のうた

若菜川よ 若菜川よ
誰のために行く

僕もいつか川を伝い
あの人の里へ

若菜川は 若菜川は
浅い春のいろ

そして今日も
あの人とは会えないよと

告げた


許されるものなら僕も川になって
夢見たあの人を焦がれて流れたい

若葉の光を反射してただよい
小さな憂いを集めた川のうた

若菜川よ 若菜川よ
好きな人を得よ

僕もいつか川になって
あの人の許へ

若菜川は 若菜川は
僕を待たず往く

そして今日は
このあたりで引き返せと

告げた

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2024/07/27 (Sat)

[98] 【片淵】
詩人:浜崎 智幸 [投票][編集]


経済学部のあたりは
風が真夏を連れてくる

学生通りを渡って
私の窓に吹き寄せる

不安な心のまま
この町に来ないでね

ためらう言葉なんて
定義不能だから

わかってくれるなら
帰去来(帰りなん、いざ)片淵へ

わかってくれるなら


済生会の門からは
悩みのない空が見える

杖がわりの乳母車で
年寄りたちが闊歩する

彼女を想いながら
この町に来ないでね

未知数の愛なんて
二律背反だから

わかってくれたなら
歸去來(かえりなん、いざ)片渕へ

わかってくれたなら
────
────
経済学部・・・長崎大学経済学部
済生会(さいせいかい)・・・総合病院の名前
────
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2024/08/01 (Thu)

[99] 【恒星の記録】
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帰らない時なら
私はいらない
死んだ記憶なら

帰れ恋人なら
淋しい私に
声を分けてくれ
昔のように

選ばないで
私はかなり希薄

飾らないで
あなたはきっと微弱

東雲(しののめ)の時まで
起きて 観てるから

星たちの空を記録してほしい


慈悲深い心で
門を叩くなら
閂(かんぬき)をはずし

裸身を温める
恋人を迎え
差別(しゃべつ)に親しむ
悲しみの部屋

咎(とが)めないで
私はかなり希薄

阿(おも)ねないで
あなたはきっと微弱

暁のときまで
正気でいるから

星たちの空を記録してほしい
──────
──────
差別(仏教用語)・・・あらゆるものがあるがままに存在し、その価値を認めあっている状態。
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2024/08/19 (Mon)
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