詩人:さみだれ | [投票][編集] |
薄明かりの中に
不確かな影二つ
ひとつは毛布の中に
ひとつはそばに寄り添い
静かな時間の背中に
身を預けていました
”僕は有限です
だからあなたのそばには
ずっといられません”
”大丈夫です
私があなたのそばにいます
だから
ずっと一緒にいようね”
薄明かりの中に
不確かな影二つ
ひとつは毛布の中に
ひとつはそばに寄り添い
静かな時間の背中で
手を握っていました
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ああ
僕の涙が
月に帰っていく
きらきら
夜空に散って
一本の道に
君がそれを辿ると言うなら
僕は嬉しくて背中を押すだろう
ああ
けれど違うんだ
君を送り出すのではなく
涙をふいて
話したい
こんな夜がなくたって
君が嬉しくなる道を
僕は一緒に辿りたい
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茜色の目
幻を捉えて
背に負う言葉
拙く伝う
君の傍ら
拙くたゆたう
手を過ぎる
面影の影
幻を離さず
耳に沁みる間
拙く詰める
君の傍ら
拙くたゆたう
心に寄り添う
幻を思う
君の夢
君の夜に
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星の目を覗きましょう
あなたが無垢であるうちに
うんと遠くを目指しましょう
あなたが希望を持つ限り
月の峠を越えましょう
あなたが歩む強さを知り
下り坂を駆けましょう
あなたが喜ぶ幸せを知り
火星の海を泳ぎましょう
あなたが呼吸を得るために
木星の雲を払いましょう
あなたが自分を恥じぬように
土星の輪にまじりましょう
あなたが他人を怖れぬように
さらに遠くを目指しましょう
あなたが輝く
その星の背へ
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声が聞こえていました
枕元で囁くそれは
次第に遠くなり
いつまにか聞こえなくなりました
その頃には
夢で夜を見ることも
愛おしいと思うことも
すっかりなくなり
ただ一日の終わりを目指し
生きていました
(私は素晴らしい人間とはほど遠い
ただの野良犬です
嫌なものから逃げて
好きな人に媚びる
ただの野良犬です
この遠吠えは
人間だった頃を思いだし
懐かしさに震えた喉が
夜の闇に引っ張られて生まれたものです
もしも
私の声が夢の途中に聞こえたなら
聞こえないふりをしてください)
気持ちは向いているけれど
心は到達しているけれど
魂はそばに寄り添うけれど
声だけが聞こえません
枕元で囁くような
眠りの詩を
読んでください
一日の終わりに
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ガラスの靴がないわ
誰が隠したの
彼から唯一もらった
大事な宝物
夕べ下駄箱の中に
確かにいれたわ
今日の朝には消えて
ずっと探した
けれどガラスの靴はないわ
誰かが隠したの
彼に知られる前に
見付けておかなきゃ
私は彼が好きよ
彼も私が好き
夕べ確かに言ったわ
"幸せにする"と
ガラスの靴がないわ
誰が隠したの
妬むなら妬むがいいさ
大事な宝物
机の下 引き出し カーテンの裏
全部見たけどどうも
ここにはないわ
今もガラスの靴はないわ
誰も知らないと言う
彼に気づかれる前に
見付けておかなきゃ
私を好きでいるうちに
見付けておかなきゃ
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彼はぜんまい仕掛け
ブリキの真似事
音が軋んでも彼女は
油をささない
よくできたカラクリは
長く動いてる
だから僕もきっと
よくできてる
彼女は猫の被り物
自由に生きてる
声をあげたら彼は
餌を与える
とても賢い動物は
長く生きてる
だから私もきっと
長生きできるの
目が覚めたら嫌だ
僕は人間じゃない
よくできたカラクリだ
私は猫でいたい
目が覚めたら最後
二度と戻れない
人間じゃ嫌だ
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白き月影の
微笑みにも似て
焼けた空を思い
胸を押さえる
あなたの心
まだ願い
ひとりではないね、と
その手をとる
触れる陽光の
微睡みにも似て
さんざめく春の始まり
音が止む
あなたの心
やがてほつれて
幸せになろう、と
たまに思える
その単純さが
魂の片隅にあり
あなたを支えている
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そぼ降る雨の
涙にも似て
無垢な心に染み入る
その水玉が許せない
あなたの心
いよいよ斑に
一色がいいの、と
自ら染まる
春の世の
望みかそけく
混濁の心に聞き入る
その本質がかき消され
あなたの心
不安に囚われ
知らなければよかった、と
慟哭する
その愚かさが
魂の一柱となり
あなたを成している
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自分がわからないよね
自分を見ていないものね
他人からも逃げて
一人になってから
”僕が神様だ”
そう言って泣くのね
可哀想ね
だって差し出されるはずだった手が
ないんだもの
助けてほしかった心が
死んでいくんだもの
都合の悪いことは聞かないで
人間でいましょうよ
悲しみより先に伸ばす手こそ
人間の優しさでしょう
妬み蔑み羨む心を
悪いと思わないで
立派な人間になりたいね
神様なんかより
ずっと優しい
この手があるからね