詩人:さみだれ | [投票][編集] |
冷たいでしょう?
夜の底ってね
人が生きられないように
厚い氷で覆われているの
だけど私たちは
そんなことには構わずに
さみしい気持ちや
かなしい気持ちを携えて
行こうとするんだよ
決して安心できるところじゃないし
誰にも会えるところでもないのにね
冷たいね
もうずっと
ここに住んでいれば
きっと何も感じなくなるね
そうしたら
さみしい気持ちや
かなしい気持ちも消えて
眠たくなるのかな
私たちは夢のなかで
幸せになれるのかな
「コキュートス」
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人生をやめた
明日なんて言葉や
あなたなんて他人も
深い深い穴に放って
土をかけた
そうすると
今まで耳を突き刺していた木の葉の囁きも
目に痛かった空の青さも
肌を切り裂いた風の冷たさも
みんな失くなった
そして
時間が過ぎることもなく
ただ息をして
そこにいたり
あっちに行ったり
そうやって
死ぬまでの長い長い時間を
感じられずに
僕は
息を終えた
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朝が来た
その家の子供は
太陽に会うために
星を掃いて
月を捨てた
散らかったままの空じゃ
太陽は歩きにくいだろうから
そして窓を開けて
頬杖をついて
もうほとんど閉じてしまった目を
こすりながら
ずっと待っていた
"わたしはあなたにあいたいです"
枕元に用意した手紙は
いつの間にか空の中にいた
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機械が
私の脳を
汚しました
あるひとつの感情
あるひとつの記憶
あるひとつの知性
電波で送られてきたそれらは
1と0になり
私に注がれます
私と異なる媒体は
バージョンアップし
私は
廃品と呼ぶにふさわしい代物です
まっとうな人間は
自己主張を繰り返し
進化していると錯覚します
しかし低スペックの私は
他者を依代に
進化しなければなりません
私の脳を
電気虫が這っています
おそらくそれは
自己主張を餌に
生きているに違いありません
何しろ私は
廃品と呼ぶにふさわしい代物ですので
そういった欠点があっても
不思議はないのです
まっとうな人間は
矛盾こそが人間らしさだと言わんばかりに
その時の電流値によって
言うことが違います
晴天の日に
愛した人を
雨の降る夜に
愛さなくなるのですから
機械が
脳を支配する私は
一途に思い続けなければ
熱暴走を引き起こす恐れがあるので
そういった矛盾は
生まれません
なので私はまっとうな人間とは
程遠い
寂れた媒体なのです
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私はどうして
月影の朧な道を
ふらり
ゆらり
くらり
さ迷っているのだろう
私はどうして
凍りついた空の海を
ふらり
ゆらり
すべり
震えているのだろう
訳のわからない
音が衛生軌道上から
突き刺すように
また撫でるように
半世界の私は
月影の朧な道を
ふらり
ゆらり
のらり
くらり
さ迷っているだろう
街角の私は
何食わぬ顔で
見ている
何食わぬ顔で
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君は流れ星を履いて
空を跳ねる
銀色の三角ぼうし
きらきらとラメが剥がれて
僕はベッドから出られない
君と散歩がしたいのに
月がとても明るくて
夜風に乗って
君は踊るのに
君の影が雲を抱いて
僕のカーテンで眠る
君の影の小さな手をとって
僕の影は眠った
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ある朝
それは目を開けて
白い靄の中に青を見つけた
やがて靄は晴れて
それは途方もない世界を見た
耳に触れる音の風
透き通る川のにおい
草花は話しかけるように揺れて
蝶がそれに答える
そんな途方もない世界
それは全身からわき上がる
何か雲に似たものを感じた
そしてそれは叫んだ
言葉もない
ただの声をそれは発した――
我々人類は
共存に固執する哀れな種だ
世界でひとりきりになったなら
私はどのようにして生きようか
生きていられるだろうか
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夢のような毎日を
君はこれから過ごすんだよ
大きすぎる空を
飛ぶことだって
君には容易いことなんだ
コツはそうだな
忘れないことかな
君を守ってる人を
君に僕がしてあげられるのは
大きすぎる空を
変わらないように
僕を守ってる人を
忘れないように
よかった
生まれてきたんだ
夢のような毎日に
君がたくさん喜ぶように
僕は祈っている
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やがて私は色とりどりの羽を得て
長い長い旅に出るだろう
蝶は気まぐれでもないさ
いつだって不安にかられて
花畑を回り続けるんだ
私は終わることを恐れる
この手が詩を書けなくなる日や
誰かとの決別やらが
しかし永遠というのも同じくらいに恐れる
蝶は喜びだけで飛んじゃいない
その羽は私が思うより
ずっと重いのかもしれない
残念なことに私には羽がない
長い長い旅を
この足で歩かなければならない
いつまでも不安にかられて
この星で生きていくんだ
永遠でもないさ
ただ永遠のような時間が一瞬でもあれば
終わりだって恐くないだろう
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あの一際輝くお星さまが「嘘」だと言うのですから
夕暮れのバスに乗り合わせた私たちの
ありふれた運命とやらもぷつりと切って
本当に「嘘」になってしまうのでしょう
誕生日のロウソクを消すように
ふっ、と
夜の淵に吸い込まれるのです
ある国の宇宙船が
私たちを見下すために
高く高く
飛ぶ鳥のようにも
くじらのようにも見えるそれが
高く高く
私たちを置いてきぼりに
夢?希望?
いいえ
あれは満たされるための旅
私たちに権利なんてないのです
私たちは重力から羽ばたくことはできないのです
赤から青になって
増えたり減ったり
上が下になって
あったりなかったり
お星さま
残忍なお星さま
楽しんでいらっしゃいますか?
お星さま
愉快なお星さま
夕暮れのバスに羽を与えてください
お星さま
綺麗なお星さま
あなたは神様なのでしょうか
そうでなければ