詩人:さみだれ | [投票][編集] |
本当に愛しているのなら
信じることなんて苦ではないだろう
あなたが僕を信じるように
僕もまたあなたを信じている
声を荒げて喧嘩したって
信じあっているのだから
別れたいなんて思うこと自体おかしいんだよ
本当に愛しているのなら
僕はおかしい
愛についてこういう考え方しかできない
君たちの感性には程遠い
理想に過ぎないのだろうけど
空の上から有害な電波が発信され
僕はいよいよおかしくなった
愛するものが見えなくなったんだ
そこにいるはずなのに
見つめることも話しかけることもできないなんて!
本当に愛しているから
信じることなんて大した問題じゃないんだ
本当に愛しているから
頭がおかしくなろうと構わないんだ
本当に愛しているから!
詩人:さみだれ | [投票][編集] |
そして誰もいなくなった街に
月世界の神は降り立った
切り裂かれた民主主義のテーマ
愛を叫んだレコード
それをひとつひとつ撫でる手は
冷たく氷のようだった
オフィスビルには電話がいくつかあったが
どれも繋がる様子はなかった
街路樹は乾ききって
触れてしまえば簡単に折れるんじゃないかと不安にさせた
ショッピングモールにはかつての賑わいはなく
食料はみな駄目になっていた
民家は窓が割られていて
机は転がりベッドは骨組みだけになっていた
月世界の神は
公園のベンチに座った
そこにいたであろう恋人たち、老人、サラリーマン、子供
温もりは夜風に吹かれたように
跡形もなく消えて冷えきっていた
目の前にはボールがあり
そして遊具がある
無数のビラと足跡
そして血のついた靴下がある
月世界の神は
地球は美しいものだと信じていた
だが美しいものというのは
ひどく汚らわしいものがあって初めて見えるものだと知った
月世界の神は
一瞬真昼のように明るく輝きを放ち
それから姿を消した
そして二度と来ることはなかった
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詩に対し真摯でありたい
朧なる月の周りを包む傘
私は目に見えるものすべて
詩に登場させたい
ただ愛を訴えるだけでなく
あなたの素晴らしさを私は讃えたい
技巧に戸惑いながらも
向かうべき場所は見誤らない
いかなるときも
私は詩に対し真摯でありたい
時計塔の針が待ち人を困らせる
私はありえない世界を空想し
詩に登場させたい
ただ情に流されるだけでなく
あなたの表現を私は讃えたい
詩に対し真摯であれ
魂のその奥深く
目を光らせたその歌を
詩と呼ばせてくれ
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まほろばの夜にて
月は映えるがヴェールの奥に
うす濁る光を携え
そは野犬となりて街にのさばる
まほろばの夜とて
風は四肢を切りつけ去り行く
ガラス越しに手を伸ばせど
そは醜いパペット
そは戯謔の極み!
──
寝台に横たわり
夜想にふけるか
色青く
声さざめく
星に願うか
うちゆする
窓辺の花を
口にするのを
恐れた花を
仄かに香る
甘く淑やかに
けれど強やかに
夜想にふけるも
寝るには足りない
声さざめく
星に願うか
うちゆする
窓辺の花よ
清くあれ!
──
まほろばの夜にて
人は陰るが月光のごとし
違う御身の胸のうち
そは光を隠し夜にたゆたう
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この拙い詩を
ポケットに仕舞う人がいる
スーパーマーケットの駐車場
落ちたそれは踏みつけられる
シボレーとムーブ
赤子を乗せた乳母車
やがてそよ風が
ふわっと持ち上げ
北風が瞬く間にさらっていく
それは今日かもしれない
いや明日かもしれない
絶望感とは程遠い
微笑み人の眼差し
波長はひとつといわず
そのいくつかを伝う
それはいやらしい
もっとも忌み嫌うべきものにたどり着き
微笑み人を切り刻む
それこそが損なうべき
人間のもっとも損なうべき波長である
踏みにじる不良に
ポケットに仕舞っていた詩を叩きつける
最後の一文に魂の印鑑を押し
その場をあとにした
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(蜃気楼)
それは境界です
こっちは在りし日
向こう側には欲張りな番人がいて
「続き」に立ち入るものを追っ払っています
もちろん嘘は付いてはいけません
嘘は番人に没収され
私物化されてしまいます
そして希望を連れてきたものには
容赦なく槍を突き立てます
向こう側へ行くには
何も持たないことです
こちらでは追憶が日常茶飯事ですが
あちらではそんなものはありません
環境が一変するので最初はさぞ驚かれるでしょう
しかし住めば都と言います
ご安心ください
こちらでの"嫌なこと"などは
あちらにはございません
決してございません
あなたは犬ですね
首輪はこちらでお預かりします
舌を垂らしては行けません
言葉を没収されてしまいますので
それではお気をつけて
(続き)
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誰かに認めてもらいたいと
多くの詩を書いたとしても
それは雨のように
一粒一粒を気にするものはいない
好きだの愛してるだの
あなたは何万回書いただろうか
そうじゃない
もっと楽しませてよ!
共感を求めるあまり
自分らしさを無くす
わざとらしく悲観しては
にたにたと褒美を待つ
いやらしい手
昨日まで流行っていたね
今日からは廃っていくよ
面白いほど目まぐるしく
あなたの詩は過去へと追いやられる
忘れたんだ
それほどまでに凡庸な詩を
私たちは書いているという事実
人は貶されるのを嫌う
奮い立つこともせず
哀れなものだ
向上心なんてものはまやかしだったのだ
そう、これは世界の終わり
私はとけ込まなくてはならない
"騙されてはならない
あれは月からの有害な電波であり
それには何の意味も含まれてはいない"
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俺はもう詩人としては死んでいるのかもしれない
何を書いても何も書いてないような空虚や
何のために書いているのかという迷いすら
だんだんと失われていくのがわかる
幸せという目に見えない魔物や
絶望という溶けきらない食物が
ただ窓の隙間を探しているだけで
そう探しているだけで
誰かを讃えようものなら
言葉は逃げるように去っていくし
何かを諭そうものなら
不完全な言葉が瓶詰めから出てくるし
そうだ
もう言葉は俺を選んじゃくれないんだ
だから俺はもう詩人としては死んでいるのかもしれない
今は墓から出て
土だらけの体を払い
鏡を見て驚いているにすぎない
これからもっと残酷な現実が待っていて
俺は何も持たないまま"生きて"いくんだろう
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誰もいない闇の中で
コトコト
スープが煮たってる
2つの器に注げば
見えない誰かとの晩餐
昨日も夢の中で
人に優しくしていた
見えない誰かとの逢瀬
本当のことは隠しましょう
席を立った影の人
引き止める理由が見当たらなくて
何食わぬ顔でスープを一口
吐き気がして残した
今日は5人殺したよ
想像の中で完全犯罪
そしてロープを首に
5回死を選んだよ
誰もいない闇の中で
目をこらして耳をすます
ひとり分の鼓動があって
ひとり分のスープがあって
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月が微笑むと
太陽はにっこりと
そうして月が寄り添うと
太陽は愛しく擦り寄る
もし月が泣こうものなら
太陽は泣くだろうか
ならば今日から泣くのをやめよう
それから太陽は涙を流さなくなった
夕べ
星々はいつもどおり
それぞれの星座で団欒していた
人は子供を寝かしつけ
ある者は酒を飲んだ
海は心穏やかに
波は次の浜を楽しみに
鳥たちは眠りにつき
幼虫は繭の中に
街灯は気休めに
迷い猫を照らした
ひどくありふれた日だった
月が手を振ると
太陽は大きくもろ手をあげて
今度は太陽が手を振ると
月は寂しげに手を振って
それを見て太陽は寂しいと感じた
もし太陽が怒ろうものなら
月は怒るだろうか
ならば今日から怒るのをやめよう
それから月は声を荒げなくなった