| 詩人:さみだれ | [投票][編集] |
銀の梯子で
月へと上っていく
さみしがりの彼女が
背を向けて上っていく
海は凪いで鳥も鳴かず
地平には人影もなく
真っ白な月の後ろに
彼女が隠れるまで
私には何ができる
どんな言葉が届く
ここにあるのはわずか
月までは持っていけない
さみしがりの彼女は
きっと知っていたんだ
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消費期限の切れた
幕の内弁当膝において
神様に慈悲深く祈り
鳥たちに分けながらたいらげた
それはもう千年前の
未熟な僕たちの御先祖で
今もまだ根付いてる
ご飯の上の赤い丸が
ただそれだけ残せたら十分だ
センソウもヘイワもいらないぜ
偉人も大層な歴史も
進んだ文明もいらないぜ
僕にはお母さんがいる
お父さんも妹もいるんだ
星の数ほどの幸せは
ひとつとしてほしくはない
バカでかい太陽ほどの
嬉しさがあればいい
塩素混じりの水を飲んで
ため息をつきながら歩き出す
前にはなにもないくせに
ないからどこにでも行けたんだ
それはもう千年前の
春先の午後で
今もまだ根付いてる
二本足の僕らがいる
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いつか誰も彼も
嫌わずにいられるときが
あったとしたら
ずっと素敵だと覚えているだろう
僕はいつもいつの日も
嫌うことを嫌うだろう
いつか誰も彼も
死なないでいられるときが
くるとしたら
きっと幸せを忘れているだろう
僕は今日も昨日のことも
空の色ですら愛おしい
三日月がころころ笑う
僕の心を見透かしたの
そんなところにいないで
ゆっくり夜明けまで話そうよ
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あと数百回生まれ変わって
あの垂れ桜を見に行こう
あと数百回生まれ変わって
あの夜のことを打ち明けよう
あと数百回生まれ変わっては
止めどなく涙も流れてこよう
あと数百回生まれ変わっても
損なわぬ思いを携えよう
悲しいけど 一回きりの
最終回の前に君の心に
穏やかな春の日差しが見えて
眩しそうに目を細めて笑う
あと数万回生まれ変わって
あの海へバスを乗り継いで行こう
あと数万回生まれ変わっても
君の心に留めておいてほしい
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私の人生を狂おしく愛する
病的な過去の亡霊たちと
タップを合わせ軽く踊れば
この脳は完成された人間のそれとなる
夜の湿り気のあるにおい
悠長に煌めく星ぼし
タンポポの綿毛が丘をすべる
永劫の檻の中
そんな風に世界は在ると思うの
春に魅了された太陽がわななく
キチガイたちの背中
「それがあなたを愛せない理由」
幾千万の人生を平然と愛する
理解に自惚れた観客たちと
手をとり微笑み合う日があれば
この脳は普及した人間のそれとなる
「人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!!」
壁から染み出てくるもの
複雑に交差した線の間
主張する余白
これは誰のための言葉なのか
喉や心を潰しても
あなたを愛する言葉はでない
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君にあげる
花の種
子犬の足跡
君にあげる
誰かの願い
希望その他諸々
君にあげるよ
星の一粒
それを覆う闇
君にあげられる
思われた名
示す航路を
君は受け継いだ
この山の葉の一枚(ひとひら)
海の一滴を
いつかあげよう
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三日月が胸に抱く
ふるさとの面影は 淡く
水彩画のタッチによく似ていた
私は真っ黒いジャケットを着て
君の歩く道をなぞる
金木犀の公園へ行き
ベンチに腰掛け
遠い星に望んでみる
帰りたい
君がこんなにも痩せて
背中を丸めて眠る姿が
私には遠く
現実味がない
私の浮遊した心を 君は掬いとり
この星へ帰しているのだろう
自分のことなんて気にもしないふりをして
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君は希望
心が大気に掴まった
その象徴が君で
君があるために
私は生きている
なんてか細い繋がり
ふと力を抜けば死んでしまいそう
そんなもの
あの日の
美しい黄金の秋も
そんな風に生きたのだろうか
君は希望
目の前で僕の手をとり
不確かな未来を淡々と読み上げる
しかし僕は天性の天の邪鬼で
君の語る姿の
後ろにある光景を
不鮮明に捉えられた
視覚を鼻で笑い
そして君に怒られる
それほどの幸せを
死と呼ばなければならないなら
あの日の
一等星の輝きまでも
むなしく思えてくるのだから
君は希望
そう呼ぶにふさわしい
君は希望
私があるために
君は生きている
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私の言葉が届くところで
あなたがうつらうつら呆けている
それが嬉しいと思いたいな
私の手が届くところで
あなたがテレビを眺めている
それが当然だと思いたいな
あなたの声が霞ゆくまで
私は詩を書くのでしょう
あなたの涙が降りしきる間
私は言葉を探すのでしょう
空が青いのと同じように
あなたの背が見えたなら
私は世界など二の次に
あなたの詩を書くのでしょう
安っぽいメモ帳に
思いの丈をぶつけた夜に
私は神様を許せなくなったんだ
星が流れるのと同じように
あなたの影が過るから
私は神様など二の次に
あなたをただ信じている
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慎ましやかに戸を叩く
恋の色香に庭は嬉しく
つゆとなった夜風を落とす
町はだんだん熱を帯びて
僕と君の頬を染め
歩けば風見鶏が振り返り
止まれば猫が覗き見る
塀の上から神様のごと
それは今日
二人のためばかりでなく
世界が毅然と回っているから
濃紺の道を鳴らす
豊かな音に誰か嬉しく
それが僕であるならば
君もそうであってほしい
「夏鳥」