詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
吸い物の椀を開けると
ふんわり花の香り。
漂わせていたのは
鯛とぜんまいに添えられた
白い小さな花。
柚子の花だという。
水琴窟の音のように
香りが静かに響き渡る。
この時季ならではの
お楽しみだという。
お椀に一つ
白い小さな柚子の花。
楽しみはささやかなほど
心に深くしみわたり…。
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朝は蕾だった
木香薔薇が咲いた。
長く伸びた枝には
今にも開きそうな
まるい蕾がぎっしり。
見つめていれば
早送りした映像のように
花開く様子が見られそうな
そんなうららかな日。
足元では
桔梗が茎を伸ばし
隣の子どもは半袖Tシャツ。
夏がそう遠くないことを知る。
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奥の家の庭で
紅いものが目に入り
近づいてみると
満開の牡丹の花。
引っ越しをされて
もう3か月は経つであろうか。
他の鉢植えは
持って行かれたのに
なぜだか残された牡丹の鉢。
忘れられた庭で
一輪咲く
牡丹もまた美しく。
忘れえぬ恋のように…。
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母の日が近いので
どこか行きたいところはないか
母に聞いてみる。
行きたいところはないけど
ハナミズキが欲しいという。
近くのホームセンターに
ピンクのものが1本だけあったという。
さっそく行ってみると
幸いまだ残っていた。
2メートルほどのものが3,980円。
しかも3割引きになっていた。
地元の作家さんが作った
茶碗と湯呑もプレゼントした。
いつか、姉と
この日のことや母のことを
話すのだろう。
思い出話として…。
母が植えた庭の
ハナミズキの咲く頃に…。
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花の季節にふさわしく
市場の中も花盛り。
目移りしながら歩いていると
一束のバラが目にとまる。
淡いアプリコット色の
フリルのような花弁
そしてそのボリューム。
あまり見たことのない
バラだった。
買って帰って青い瓶に飾る。
というか青い瓶に飾ろうと決めていた。
日に日にゴージャスさを増す
そのバラに
いっとう喜びを感じたのは
名前を知った時だった。
「ラ・カンパネラ」。
たまらなく好きなリストの曲の名。
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悩んで悩んで
耕された心の上に
種をまけ。
新しい種を。
ほんの少し
自分を変えるために。
そしてそれを
愛情をこめて育てよ。
ほんの少し
自分に近づくために。
ほんの少し。
けれど
続けられる種をまけ。
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表通りの混雑を避け
横道に入ってたどり着いた
ギャラリー&カフェ。
美しい友禅染めと
大山の雄大な眺めと
懐かしいフォークソングの弾き語り…。
思いがけず出会った
ゆるりとした時間。
通りの喧騒は遠く及ばず
心の喧騒も解けていく。
今宵の月は
スーパームーン。
引き寄せられたのは
新たな出会い。
そして
そこで生まれた新たな自分。
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トマトとナスとピーマンの苗を
植える手伝いをする。
竹で支柱を立てたり
黒いビニールシートで覆ったりして
下準備をしたところに
水をたっぷり遣りながら
1株ずつていねいに植えていく。
佇んでいるだけでも
汗をかく大地の上で
野菜たちはこれから
日ごとに強くなる陽を浴び続け
風に揺さぶられ
雨に打たれ
時には虫にかじられ
それでもじっと佇み続ける。
自らを励ましながら
自らを癒しながら…。
こんなふうに
ひたすらポジティブに
生きている野菜たちが
食べる人を
元気にしてくれない訳がない。
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5時半に目が覚める。
隣の布団には
小6年生になった姪の娘。
まだ夢の中にいる
彼女が笑い出す。
むふふふ〜と、
この上なく幸せそうに。
朝日の中で花が開くように
夢の中でほころんだ
一輪の笑顔。
こどもの日の朝に
こどもからもらった
この上なく幸せなプレゼント。
胸に飾って
散歩に出かける。
水田ではカエルが鳴き
山藤の葉の上に青トンボ。
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連休が終わり
いつもの生活に戻り
いつものように庭に佇む。
傷んだ葉や
増えすぎたものを取り
咲いた花を愛しく思い
小さな蕾を待ち遠しく思う。
かけがえのない時間が流れていく。
けれど
こうした時間が
永遠に続かないことに気づいている。
ともに住み始めた
ヒバの木ほどにも。
どこでもなく
今、この場所で。
だからこそ
かけがえのない時間。