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中村真生子の部屋  〜 投稿順表示 〜


[51] いとこの八之助(はのすけ)
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ところで

「葉っぱのフレディ」にはいとこがいました。
(あくまでも自称であるが…)

名前は八之助で森に住んでいました。

黄緑色の春が終わり、深緑の夏も過ぎて

秋になると八之助は黄色くなりました。

ちょうどいとこのフレディが木から離れたころ

八之助も木枯らしに吹かれ

色づいた体を地面の上に横たえました。

八之助が周りを見ると

次郎や三郎や四郎や

たくさんの仲間たちが横たわっていました。

八之助が耳を澄ますと

くすくす笑う声が聞こえてきました。

不思議に思っていると

体がむずむずしてきて

八之助もくすくす笑い出してしまいました。

見ると小さな生き物たちが

ぺろぺろと体をなめているではありませんか。

小さな生き物たちは幸せそうで

八之助はますます愉快になってきました。

気がつくと八之助は小さく小さくなっていました。

そして雨と一緒に土の中へと入り込み

地下水に乗って長い長い旅をしました。

ある日

八之助は広くて明るいところに出ました。

海でした。

八之助はなんだか懐かしい気がしました。

そこに森があったからです。

植物プランクトンたちの海の森でした。

八之助は珪藻と結ばれて森の一部となりました。

つづく。


2012/03/19 (Mon)

[52] 光の精よ
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真東からやってきた

光の精が窓辺に集う。

あるものは踊り

あるものは歌い

さあ、一緒に楽しもうと…。

真東からやってきた

光の精が窓辺で蠢く。

あるものは手をのべ

あるものは語りかけ

さあ、ともに喜ぼうと…。

誘われるように庭に出れば

光の精にくすぐられ

花弁をほころばせたクロッカス。

光の精よ。

その温かかなまなざしで

すべての窓辺を満たしてくれる

光の精よ。

その温かなまざしで

すべての心をほころばせよ。

人々の心に春を招いて…。


2012/03/20 (Tue)

[53] 小鳥と煙突
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小鳥と煙
野にも森に春がやってきた。

小鳥は嬉しくて旅に出た。

空は青く、風は心地よく

小鳥は春を心行くまで楽しんだ。

すると大きな煙突があり

煙にむせて小鳥は苦しくなった。

小鳥は煙突に聞いた。

「どうして煙を吐いているのですか。

こんなに空が青いのに。

こんなに風が気持ちいいのに。」

煙突は答えた。

「私には灰色の空しか見えません。

私には熱風しか感じることができません。

こらえきれない悲しみを

煙と一緒に吐き出しているのです。

こらえきれない憤りを

煙と一緒に吐き出しているのです。」

小鳥はしばらく煙突に佇んだ。

それから再び旅立った。

小鳥にとって煙は

もうさっきまでの煙ではなくなった。

小鳥はほんの少し

もうさっきまでの小鳥ではなくなった。



2012/03/21 (Wed)

[54] Tさんのパイ
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Tさんが焼いて

八等分にされたパイが配られる。

テーブルの上でパイが囁く。

「自らが幸せの源となり

その幸せを分かち合えよ」と。

心してパイを頬張ると

ほどよい甘さで

ほんのりシナモンの香りがした。

Tさんは

いつものように笑っている。

いつものように朗らかに…。

2012/03/23 (Fri)

[55] 春の雨の朝
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芽吹きを迎えた桜が

色づき始めたミモザが

花盛りのクロッカスが

すべてのものが

涙をたたえて佇む雨の朝。

けれど

もう冷たい雨ではなく

柔らかな雨。

その一粒一粒が

幼けない少女の

笑い声のようにころころと

木や花を転がり

あどけない少年の

澄んだ目のようにきらきらと

木や花を彩る。

すべてのものが

涙をたたえて佇む雨の朝。

柔らかな春の雨の朝。




2012/03/23 (Fri)

[56] ある日突然
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その日は

突然やってきた。

3月のある日のこと。

風呂から上がると

強いのどの渇きを覚えた。

いつの頃からか

もうずっとなかった感覚。

体にも春がやってきた。

蛇口をひねって水を飲めば

すーっと体に満ちていき

幸せな気持ちで満たされる。

その喜びは

なにものにも代えがたく。

心にも春がやってきた。



2012/03/24 (Sat)

[57] 遠い記憶
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ここはいつか居た場所。

レコード針のように

記憶を指でなぞってゆくと

ほの暗い翳りの中。

けれど意識は明らかで

そこで何かを夢見てた。

明るい何かを…。

ここはいつか居た場所。

遠い昔にここを出て

もう忘れていた

ほの暗い翳りの中。

けれど意識は明らかで

いつもそこを夢見てた。

明るい思いで…。

ここはいつか居た場所。

深い森のようでもあり

深い海のようでもあり…。


2012/03/25 (Sun)

[58] 1日の始まり
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テーブルの上には

ご飯とみそ汁と幾つかのおかずと

伊予柑のかごと新聞と…。

古い二脚の椅子に

少し古びた二人の人…。

部屋の隅では

ベンジャミンがあくびをするように

枝葉を広げ

東の窓からの淡い光が

ひっそりとした時間を映し出す。

なんでもない1日の始まり。

かけがえのない1日の始まり。

2012/03/26 (Mon)

[59] 日本人
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山を見上げれば
山の上に神が住み
海を眺めれば
海の彼方に浄土あり。
朝に
山の神に手を合わせ
夕べに
海の浄土に手を合わせ…。
たどりついた東の果てで
神に祈り
仏に祈り
縁を結んで
いつくも試練を乗り越え
脈々と続いてきた
私たちのいのち。



2012/03/27 (Tue)

[60] 草花の力
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慌ただしさの中で庭に佇めば

静かに時を重ねてきた

草木の芽吹き。

「何を慌てているの?」と

囁きかける。

忙しさの中で庭に佇めば

ゆっくりと時を重ねてきた

花のほころび。

「何が忙しいの?」と

つぶやきかける。

問われて自らに問えば

すとんと自らに落ちていく。



ジュリアン〈サクラソウ科〉

2012/03/28 (Wed)
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