詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
幼木は風が嫌いだった。
風は幼木を揺らし不安な気持ちにさせた。
雨と太陽は友達だった。
けれど雨が長居をすると疎ましく思い
時折、太陽のおせっかいに嫌気がさした。
幼木は少しずつ大きくなった。
春のある日、幼木は
葉を揺らす風にふと安らぎを覚えた。
長居をする雨ともおしゃべりを楽しみ
おせっかいな太陽をもやさしく迎え入れていた。
幼木はすっかり大きくなっていた。
そして友と
春にはいずる幸せを分かち
夏には長ずる楽しさを分かち
秋には実る喜びを分かち
冬には慎む尊さを分かちあった。
やがて幼木は老木となり
ある日、根元から折れてばったり倒れた。
雨は涙で清め
太陽は温もりで包み
風は弔いの歌を歌った。
友に見守られて老木は大地に還った。
生まれたばかりの幼木が
その根元で風に揺れていた。