詩人:緋文字 | [投票][編集] |
月の先
腰掛けて
はらはらホロホロ
弾きながら唄った
あのこの片足の靴
いつも
ぷらぷら
落っことしてしまいそう
月が満ちると
向こう側へ
必ず隠れてしまうのね
今宵三日月
つるんと降りてきて
また先っちょに
うまくとまった
ぷらぷら
あの靴が
もしも脱げ落ち
受け取ったのが
もしもこの手
だったとしたら
気まずそうな顔とか
するんだろか
思い過ごしね
抜け落ちそうな靴で
ぷらぷら
呑気そうな
リズムをとって
奏でるあなたの
まるで合わない 脈動が届いた
はらはらホロホロ
それでも
聴いていたいから
あのこの
華奢な足には
似合わない
あの靴
落ちたら
拾い上げる くらいなら
できるのかもしれない
おこがましいね
呑気そうなあのこ
いつも緊張していて
キッと上げられた顎は
下を向くことはない
見えない指先はきっと
キュッと曲げられてる
絶対に
落とさない
決めてるんだろうね
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ついていた
何時みても
同じ場所
数え唄必要とせず
その為に
生まれてきたかのよう
迎えは来るのか、
見える場所から声をかけた
口許緩められず
伏せた睫毛も上げてこない
ふと
取り上げたくなった
その子の周りを
つく音だけが
責めるように響くから
そんなものが
鞠が無ければいい
外さなければ
一点をつき続ければ
そんなことを
信じているのか
鞠は戻る その子の手に
吸い寄せられるよう
かなしくなる
その音に
遮りたくなる
衝動が間違いだと
音が止まない
何も聞こうとしない
聞きたくない
意思で投げられる前に
止めて いいのだろうか
よくはなかった
それは上手につく
鞠で喜ぶ子など
消えてしまった時代に
術がないかのように興した 錯誤な遊戯
冷ややかな顔した子
熱気だけ立ち込めて
通り過ぎる者も
解らぬくせに
焦躁の汗だけは垂らす
解らぬなりに
並んでついたなら
止めて、と見遣るだろうか
その子の待つもの現れたとして
その音は止むだろうか
その鞠が
どれだけ今まで
その子に
必要とされただろうか
その子が
瞳の奥まで覗かせたとして
その瞬間を見逃さず
判る者として
いれるだろうか
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心あるものが
心ないことをいう
心ないものが
心あることをいう
心ない者が
心ある様なことを言う
心ある者が
心ない振りをして言う
それとの違い
気付かずに
気付けずに
気付いていたよ、と
言い切れるほど
私は届け 返せていますか
そうであれ、と
願うのではなく
深く伸びてきた腕
掴んで放さず
いてくれるのは
反射で除けてしまわぬよう
静かに
あの時 触れられたおかげ
繋がる助詞ひとつにも
気持ちの丈は表れて
繋げる意味は
探らずとも
探る相手の解答合わせ
探る間は
仮定でしかない過程に
正解を出すのは誰で
その役目
押し付けたい相手は誰で
その言葉
そこに置いてくれた意味
絶えず考え
ずっと持ち続けて
繋げる意味は意識下に潜み
そうであれ、と
思うだけでは
足りる活路は見出だせないから
今日も明日も
一寸二寸と
繋がるための尺に繋げて
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足りない 足りない
言っていれば
不公平なくらい
その先は拡がるみたいだった
小さいものから拾い集めて
やっとのこと
いっぱい満たしたそれを見て
その手から叩き落とす奴というのは
確かにいるのだと思った
全部落としてしまったじゃないの
私は持っている
まだ持っている
そして 優しさに
他者から言い換えられただけの傲慢に
否定しながら安堵する
それを知る自分を罵りながら
それでもまた
安息の半日を過ごす
満ち足りた中
奥の奥の
髄の私が
足りないと渇望するからこうやって
まだ在る事ができるのだろう
あなたはもう戻らない
許してきたのではなく
その実 諦め続けてきた
私はまだ ここにいるというのに
あの人の傍で
不公平な話
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一本の木だけが
垣根の前に立つ
あの場所を
知らせておこう
或る人が持っていた
その中の一つ
断りをいれておこう
許してもらえるよう
貴方が触れること
赦してくれるだろう
感興催すほどではないから
見落とさないよう
伝えた通りに
そうその意気を以て
きちんと歩いて
其処まで 来て
見えてきたら
近付く前の一呼吸
想い出して
一切のものから断つ様に
纏ったものも少しの間
脱ぎ捨てて みて
生まれた月にまた生まれ
分かち合えたりした時から
移り変わりゆく時は
恵みの雨にもなって
雨ざらし 惨めとは
繋がらなくなって
いつまでも
凍みたままの気分 思い上がりの
靴下を履いた少女も消えた
次に落とす予定のもので
成らせた実
あまり沢山の実はつけれないから
一つ限りにしておいて
渡すあてがある、
其の人も言っていた
親指の爪 届く前から
包むその香りは
よく眠れる と
貴方が言った 私の匂い
現れた果肉は
目眩がした と
おどけてくれた 私の姿
口に含んだら
あの時の様に
味わい 尽くして
毎年必ず 実をつけるけど
そう沢山は実らないから
毎年 ひとつ
食べに 来て
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一瞬の重なりも
永遠に変える事ができた
伝える必要がないのは
あなたがもう
それを知っているから
感じ取れないような
そんな人なら
私は最初から愛さなかった
何度も最後の愛を始めるほど
尊いものを愚弄するつもりはないから
一度だけでも出逢えたら
それは私の中の誇り
誇らしく思う私を
あなたもきっと
誇らしく思ってくれるでしょう
そして互いに自分が少し
価値のある人間になれたと
生きていく自信に繋がるのでしょう
『神様の悪戯なのですよ』
存在する者のみしか信じないから
悪戯をされるというのでしょうかね
そんなものに付き合う暇がないと振る舞うから
その存在を見せつけにくるとでもいうのでしょうかね
それでもちっとも構わないのは
あなたをそれ以上に
崇めている私がいるからでしょうね
永遠の愛を持つ者は
自分の中に棲まう
瞬きながら消えない時を
知っている
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しかたない
しかたない
忌み嫌って過ごした言葉
しかたない
仕方ない
遣わないよう努めた言葉
ひとりひとりそれぞれに
取り合う手は持っていて
同じ場所には立てなくて
そして今
遣ってしまう
仕方が無い
布団に顔を押し付けて
気持ちも一緒に押し付けていた
あのチビの方がもっと残酷
そこにも愛は
あったというのに
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派手な音を立てた
とても気に入りだったから
そう、割ったのは故意だった
もう行けない場所でしか
手に入らないと聞いていて
復元不可能
ただの破片になった
棄ててしまうには
一片一片 面を増し
輝きつぶさに魅せつける
捨てきれないこと
手にした時から暗示した
棚の上に残されている
蔦模様キレイな化粧箱
いつかこの破片で
細工施しテーブル造り
あなたと一緒にお茶でも飲もうか
掻き集めて箱の中
埃を掃えば
どこか装飾過美な箱
鮮やかに映り
触れない限りの
それは元通りを粧う
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なんとなく
歩いて帰りたい日がある
気持ちよく晴れた一日が
作り出せないモーブで終わろうとする時だったり
ヘッドライトが照らす
一斉に転がり滑る乾いた雪を見た時だったり
今夜は傘が要るか要らないかの小雨模様
途中少し足を止め
閉じた瞼へ湿気を含んだ冷たい空気をあてて
ゆっくりと目を開ける
どこかの家の常緑低木
夏隣に食べる為の黄色い果実を
早熟に成らせていて
あのコが一緒なら
突然もぎ取り
私に手渡しそうな気がした
どうしているだろな
気をとられ
ブーツの踵が高すぎた事を思い出し
心配すると心配するかもしれないから
考えるのはやめようと思った
彼女はスルドイ
街灯が
濡れた流線型の金属へ
塗装の上からも
ぬめりを帯びた 色と光りを与えている
先程エンジンが切られたのか
その下には二匹のまだ若そうな猫
あの場所で
後どれくらいの暖をとれるのだろう
今夜はそこに落ち着くのか
また求めて移るのか
疲れて眠るまで
思い巡らすうちに
家に着き
鍵を探り 取り出す
どこだったろう
今日、失ったように感じた自分の一部
少しは取り戻せたような気分で ドアを閉める
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重い、
カラカラ
パタパタ
せわしない音
続けば何時しか
それも子守唄に
こういうものには
いくらでも応じた
此処が何処だか
気付かせたのは
誰の許で行われたのか
あろうことかの談笑
ずっと遠くの方から
聞こえていると思っていた
それはほんの直ぐ足元で
うとましい
申し訳程度の
薄い肌布団
通して伝わった
おそらく膝の辺り
無造作に無遠慮に
置かれた
何か
また
掠れ声 ひとつ あげ
掻けない眉根
よせたところで
誰かの
一際高くなった笑い声で
誰にも
気付かれない
目交ぜの覚えなく
視線は天井に固定
スッと入ってくるなり
見過ごされたそれを取りあげ
詫びるような笑み寄越し
椅子に腰掛けた人の手にあったのは
団扇だった
感じる重さなんて
勝手なものかな
きっと
その時だから感じた
たぶん
どうでもいい 重さだった
詫びる必要などない
なのに
間に合わなくてゴメンって 顔だった
でも、だから
その人を尊べて
後日また
テーブルの上にでも置くように
誰かがポンと忘れた雑誌
それには
重さは感じなかった