詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
いつの頃からか
仕事柄
普通の絆創膏では
直ぐに剥がれ落ちてしまうから
指先に痛みを感じたなら
テーピングをしている
作業の只中
絆創膏よりタフでも
薄汚れて
ヨレヨレのテーピングをした
指先を
よくよく眺めてみると
ゴツゴツとした
もう石鹸で洗おうが
どうしようが
爪から指紋の隅々にまでに
黒い煤の汚れが染み込んだ
右掌くんと、左掌くんは
断崖みたいに荒れすさみ
擦り切れそうな痛みを
和らげるためだけに
テーピングをしてやっているが
ついでに右掌の親指先生様は
ばね指で
もう手術するしかない
そう言えばと言えば
そうなのだが
「痛み」を
ただの「痛み」と
まだ感じとれるのは
不幸ではきっとない
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蓋のある漆黒の
グランドピアノの弦を
こそばゆらせるように
黒い猫の尻尾が
弦を撫でている
見上げると
ステンドグラスが
爛漫と輝き
人の自責を拾おうと
手をさしのべている
蓋の中から
そっと、降り立った黒い猫は
鉄の釘のような匂いの
まるで女の性を摺り付けるように
ピアノの足を撫で
じっくりと固唾を呑むような
わがままさで
私の足に辿り着く
いいよ
私の膝の上に
お乗り
きっと優しく
撫でてやろう
私も私の性を
擦り付けるように
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真っ白なパレットに
白い絵具をチューブから捻り出す
筆洗いに筆を浸し
どうにも気持の良い気持ちが
気持ち良く水面に広がり
頭の先より
真っ白だらげな心地が雲よりも
理由のような衝動となって
広がって行く
とりはいない
これは
航海なのか後悔なのか
旅だけが、ありのままにつづく
「あてどない」か
そんな事はない
行く先はある、行く先しかない
間違いなく
なんにもならない
ためらいも、容赦も寛容さもない
ごく普通
まっ白いを
愛しているを、愛してはいる
画紙もいらない
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朝
たまに、なのだが
だいたい8時頃に
車を大通りへ、乗り入れようとすると
ちょうどすぐ左の路地から
オバーが日傘をさして
メガネをかけた
中学生くらいの女の子と
寄り添うように
歩いて、出てくる
出勤時間を最近
遅らせたせいか
よく見かけるようになった
度々、観察していたのだが
どうやら、少女は
視力が弱いようで
こちらの車の前を
横断歩道で
二人が横切る時には
オバーは右手で彼女の左手を抱えるように
手をひいて
そうして道路を渡って行く
どうしてなのかは分らないが
二人を見かけた日は
元気づけられて
なにかしら楽になって
その日を一日を安らかに
始められる
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釣りへ行けない日は
ビールの空き缶が
一つ、また一つ
テーブルの上に
広がっついく
今頃は
荒れた海の波が
コンクリートの堤防の上を洗いしだき
サラサラと川のように
繰り返し、繰り返し打ち寄せ
何もかもがリセットされている
ブルース・リーの映画を観た
彼は
ひときわ大きな波のようだった
スターウォーズのヨウダみたいに
悟ったように話し
あまりにも
映画を体現していて
雄弁だった
過ぎ去って行った
荒波の
なんと勇ましく
猛々しいことか
「Be Water,My Friend」
二日酔いにならない程度に
しておこう
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最近、事のほか通っている
釣り場がある
通い詰めて
分かってくるのだけれど
なんと言うか
いきがいがある
教えられる
少しずつ少しずつ
朝日と夕日
風向きや波の高さ
海底の地形や砂地
釣れる魚と釣れない魚
常連さん達の人となりやら
自然に自然と
自分のどうしようもなさやら
他人のどうしようもなさ
海のしかたのなさ
空のあてどなさ
従う他にない
ありのままを
ようが無ければ
毎週末でも通いたい
だから、なんだと言うわけでも
ないのだけれど
いきたくなる
詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
あさはかな
願い事なのだが
いつか
いつかたんまりと
サヨリが釣れたなら
あいつんちの
玄関のドアノブにでも
買い物袋に氷と一緒に
それを入れて
ぶら下げて
何食わぬ顔して
帰れたらいい
そうして帰ったなら
サヨリの刺し身にビールで
一杯やりたい