| 詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
次男が
釣り場で
ウンコを漏らしてしまい
公衆トイレで
履いていた下着とジーンズを
洗う
今日は
風が強すぎて
波も落ち着かなかった
誰かがトイレに入って来ないか
そうしたら、不快じゃないか
そんな事より、空は晴れている
釣り場の近くに
トイレも無いのに
誘った私が
悪いのだ
「ごめんなさい」
いや、それよりも
もっと
ちゃんと釣らして
やりたかった
もう昼過ぎ
帰りにパン屋で
「食べた事がない」
と言うので
デザートも買った
きっと、ほろ苦い
二人だけの
想い出になるだろう
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思い描いていた釣り場の
理想があった
足場がしっかりした防波堤で
竿を出したかった
テトラポットからでは
怖いから、やりたくなかった
車を
海に向かって
どんと、後ろ向きで駐車して
それで、ハッチバックのドアを
開けっ放し
そこへ腰掛けて
竿を出したかった
そこそこ魚影もあって
家からそうも遠くなく
他に釣り人もまばらな
そんな場所
そして
少し歩けばの範囲で
大物も狙えそうな
そんな釣り場
やっと、見つけたよ
今日は初めて
羽根つき餃子を焼いて
家族にふるまう事も出来た
嬉しいよ
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骨に
僅かに肉が
こびりついている
死んでしまった
理由は
食べられた
もうすぐ臭くなる
一昨日、切り傷にした
バンドエイドを剥がしとると
白くふやけた指先は
まだ、鈍く痛みもあり
乾いてもいない傷口は
かまってやる
余裕もないと
視線すら感じる
卑屈さがある
「もう、いいよ」
なんて
言うじゃあなかった
誰が食べてしまったか
なんて
どうでもよくはないけれど
どうでもよくならないと
どうにもならなくなって
しまうから
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集合住宅は
敷地の壁ずたいに続く排水が
突き当る壁に開く排水溝へ
流れる込む仕組みなのだが
最近は雨が
降らなかったからか
その排水溝が
猫の家族の住処になっていた
駐車場で
車から降り立つと
まるで塹壕からのように
仔猫の頭が、ひょっこりと覗いて
こちらの様子を
覗っている
飛び出した幾匹かが
じゃれ合いはじめ
立ちすくむ
仔猫や仔犬を見て
自然と触れようとして
近づいて
もう触れてしまっていたのは
いつまでの頃だったのか
分かりきった事は
どうしていつも
この内にとどまらず
気がつくとすり抜けて
こちらを
見つめてくれるのか
夜空からは
雨が
降りはじめていた
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プラスチックやら
ビニールやらのゴミが
まだ
あまり無くて
ささいなものなら
どこへでも
投げ捨てられた頃
港で見上げると
圧迫感さえ感じる
客船が出港する
「ボーーーーーー」っと
汽笛が轟き
幾つもの色鮮やかな
紙テープが
空を背してたなびき
岸との狭間に
満開の
色とりどりの想いを
細長く撒き散らす
要らなくなったから
離れていくわけではない
握り締めた
紙テープの両端を
互いに
一度でもいい
血みどろの
殴り合いの喧嘩でも
やってみるべき
だったのかも
しれない
ちぎれて
捨てさるしか
無いくらいなら
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あの空の星の瞬きに
ときめくとか
話す僕に
もっと
もっとちゃんとしろ
と君は胸ぐらを掴む
いやだいやだ
もっともっと
だらしなくしたい
ふらちに遊びまわりたい
詩のかくしんの
周辺は
あまりに
不穏でいたたまれない
その縁には
おびただしい
巡礼者の死体が
転がっている
そんな嘘が
書きたくなる
到底、僕にはできない
だって外では
あんなに
ほら
遥か幾億光年の彼方から
たどり着いた
星々のさんざめきが
美しいじゃないか
こんな
稚拙な文章を数百年、数千年、数億年
反芻する読み方もあっていい
貧弱な
読解を慈しむ
無限に他愛もない
先々も
きっとあって
いい
そっと
しておいて
おくれ
もう少し
空を
眺めていたいんだ
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仕事終わりには
よく
雲を眺める
この
世界の光景は
物質に光があたったとき
それぞれの特有の性質で
反射できる光の色が
そのものの色彩になる
夕暮れの雲は
白桃のようにも
それとも
グレーに近い紫陽花か
立ち止まって
空ばかり
眺めていると
通りすがりや
近所の誰かから
変わり者のように
見られているだろう
いや
なんでこんなにも壮厳で
どんな画家でも表現出来ない
ましてや文字になんて
しようもない
全天に描かれた
揺れ動く光と絵の具
色彩のプラネタリウムを
無視していられるのか
みんな
何を見ている
だとしても
どうして
俺は
いつもこうも
喧嘩腰なのか
きっと
被害妄想
なのだろう
夕映えの空
その美しさが
誰しもに
伝わっていないなんて
馬鹿げている
そんなわけはない
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車に
レジャー椅子を
放り込んで
とにかく
出かける
どこでもいい
息苦しい
会社には
昨晩から痛みだした
親知らずの抜歯の為だと
口腔外科へ行くのだと
大嘘ぶっこいて
有給取った
いや
本当は抜いた
痛みで一睡も
していない
抜いた昼さがりから
ほっぺたが
こぶとり爺さんみたいに
どんどんと
膨れあがっていく
いや
なんでもいい
とにかく
会社に行きたくなかった
その夜には麻酔が切れて
しこたま痛かったが
それまでの夕暮
海岸にレジャー椅子
同僚が仕事しているまっ最中に
最低さ
俺は最高だと思った
最低が
最高だったんだ
俺は
最高に
しょうもない
最低を楽しんだ
痛み止めを
もう
飲んでもいいだろ
嘘つきでも
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生活の為だとしても
仕事で指の爪が黒く
薄汚れているのは
快くはない
たまに
会社の若い女性の事務員が
どこかからの差入れを
皆に配るのだが
深爪に切り込まれた爪先に
それでも真っ黒い
爪垢のような汚れが染み付いていて
指先を差し出して
受け取る事が
どうにも恥ずかしい
なので、いつも
「ありがとうございます。いりません」
と断る
嫁には受け取らない方が失礼だと言われ
るが
嫌なものは嫌だ
いろんな思いが頭をよぎる
馬鹿が治る薬が開発されたなら
真っ先に被検者に
志願したい
蔑まれるのは
嫌だ
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車で
朝の出勤途中
次男を学校近くで
降ろしたやさき
次男はドアを閉めながら
「あれは、生きものなのか」と
話しが途切れた
何の事なのか
車を発進させると
すぐに気がついた
仔猫が車道の中央に
横たわっていたのだ
十数秒程の光景
尻尾が
不自然に立ちながら
痙攣していたのであろう
震えていた
通りすがりながら
それを見下し
私しは見た
口からは血が吐き出され
その時の私の表情は
きっと
誰のどんな期待にも
こたえられない
次男は
勉強がとにかく苦手で
と言うよりも
ゲーム以外に関心が持てない性格で
長男は
いたって勉強に集中できる性格で
弟が勉強が出来ない分を
補ってくれる程
いやそんな訳はない
理由で彼らを
縛ってはいけない
けれど
理由は彼らを
おめこぼししたりは
してくれない
私のせいにされたくない
私は
そうじゃなくて
仔猫はただただ
道の向こう側へ
行きたかった
それだけなのだ