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遥 カズナの部屋  〜 新着順表示 〜


[329] 浮世
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みたいものをみて
みせたいものだけ
みせるがいい

ボウフラがいる
血液で満タンの
頭蓋骨の中に

どこが上で
どこが下か

ききたいものをきいて
かぎたいものたげ
かぐのがいい

ぷくぷく ぷくぷく
体をくねらせ
浮かび上がる
なんの根拠もいりはしない
呼吸が出来る
方角へ

そうして、また
楽になったなら
また
深く深く
沈降していく

「ふれたい」

うつろ うつろ
ゆらり ゆらり
沈降していく

みたいものをさがし
みられたくないまま
みられぬまま

繰り返し
浮かび上がり
また
沈んでいく

ぷくぷく ぷくぷく
ゆらり ゆらり

「どうしてあなたはいつもそうなの」

「なにがだい」

「ぜんぶよ」

2022/03/12 (Sat)

[328] スカイ
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どこを
どう見渡しても
地表の見えない
青い空を飛んでいる
飛行機のような形のものが
いや、両手を左右にしっかりと
ひろげた人か、十字架にも見える
形、その全体を
包帯のような白い布が
ぐるぐる巻きに巻き付けられいる
ところどころ、ほどけた包帯は
ヒラヒラとたなびいている

コップに水を入れて
卵を入れて
電子レンジで数分
茹で卵が出来上がると
考えて
コップを出して覗くと
爆発したみたいに
沸騰した湯と卵が
顔に吹きかかり
火傷した顔面を包帯で
ぐるぐる巻にした事がある
転校して
出席もまだ
していなかった
「誰にも見つけられたくない」
知られる必要を
探してもらうよに現れて
おきながら

公立の大学に合格した
息子の受験番号が
掲載された
合否判定が
ネットで
公開され

このさきの
ゆく先々書くために
机に近づいていく光景と
感情がある
つっぱねられそうな
風を感じながら

あれはまだ
まだ、青い空を
飛んでいる

2022/02/20 (Sun)

[327] 老害
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書いて
想いが
伝わるなんて
信じてしまった
十字架のような
痩せこけようもない
案山子を背負い
見世物小屋を渡り歩く
貧素な心持ちを
隠すように着飾って
時のペダルを
ギコギコこいで
新装開店のビラみたいに
書いて、空高く
バラ撒いてきてやった

そりゃ、若いうちはよかった
そう言うと
そう見られて
見返そうとして
達観を気取ろうとしても
坂道
息が切れしそうになるのは
どうしようもない
くたばるのには
まだ、早いけれど
生き急ぐ気力も失せたなら
どうしたらいい

それでも
書いて 
放り上げるように
バラ撒く

花びらが散る

情けないのは
そんなに
いけないか

ユダではないだろうに

2022/02/05 (Sat)

[326] 夜長
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けれんみなんかしらない
ふくろうは
くろうもないのに
「ホー ホー ホー」
となく
なんとなく
「ホー ホー ホー」
となく
ためいきでは
ないだろうに

やぶさかではない
きりぎりすなんかは
「ギーチョン ギーチョン」
となく
きりもなく なく
「ギーチョン ギーチョン」
となく
やぶから
ぼうに とびはねて

おいてきぼりは
みんな
いやだろうが

「ホー ホー」

「ギーチョン」

2022/01/23 (Sun)

[325] 帰路
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焼き芋を入れた
紙袋を抱え
夕暮れ時
家路を歩く

仕事初め
仲の悪い会社の同僚が
脳腫瘍だと言う事で欠勤していた
なんでも構わないから
「いなくなってしまえば良いのに」
と、常日頃、思っていた

あまりにも風が冷たくて
マウンテンパーカーのフードを被る
こんな寒さも
同僚が味わったであろう
痛みと不安はとでは
比較にもならないだろう

いつの頃から
人の不幸を願うように
なってしまったのか
いや、案外、小学生の頃から
いじめっ子の事を
そんなふうに考えていた

温かい紙袋と匂いに
気を取られると
もっと幼かった頃の記憶が蘇る
拾った仔犬を
もといた場所にかえしてくるようにと
母親に叱られ
姉に連れられ
泣きながら
近所の人のいない廃墟に
そのぬくもりを
置いて帰った
翌日、訪れると
もう、どこにもいなかった

同僚は内地から来ていて
故郷を捨てるように
この土地で嫁を貰い
移り住んでいた
「帰りたい」と
思ったこともあったのか

捨ててきたものを
取り返したい程の
耐え難い痛みがあったとしても
帰れる場所とひきかえに
ぬくもりを置いて
去れない勇気は
俺にはない

同僚の療養はきっと長くなる
人手が足りなくなる分
明日からは忙しさも
さらに増していくだろう

仔犬にしても、同僚にしても
それは俺ではなかった

もうすぐ家に着く

2022/01/25 (Tue)

[324] おもいやり
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不注意もきっとあって
仕事柄だとしても
何本もの指が
絆創膏だらけだ

忙しさに追われ
爪先は真っ黒で
萎びてきた絆創膏の上から
さらに絆創膏をしてやるから
寒くて乾燥する時期には
他の指もささくれて
見せられたものではない

指によく怪我をする人間は
周囲の人を傷つけるたちがあると
聞いた事がある

迷信でもない、と思う

家に帰れば
育てているはずの
小さな観葉植物が
大きく育たないよに
伸びてきた葉は
切ってやっている

葉を切り落とす時
心の中の何処が
わずかに軋む
それでも
絆創膏を新しく
取り替える事くらいしか
やれることはない

2021/12/30 (Thu)

[323] 心象風景
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夕映に
翼をひろげ
背中を向ける
白い鳥の
片翼の先が
コリドーのように
どこまでも続いていて
光の加減で
淡い紫陽花色にも
羽毛がさんざめき
振り返りもせず
ただそこにある

そのことの意味合いを
知ろうともせず
我慢してるわけでもなく
ひたすらなぞるように
歩み続けている
こんな静寂が
そんなにいやでもない

けれど
嫉妬だけはあって
例えば
点描画の黄色い一つの点や
トライアングルのただ一度の響き
なんかにだ

優れた画材や楽器があっても
要はその使い手なら
紙面に文字を
這いつくばらせたままに
しているのは
私自身に他ならない

できることなら

翼のいらない
消えない流れ星を
したためてみたい
夜空を見上げた
瞳に映る
東の地平線から
西の水平線にまで
満天を横切る
またとない
閑寂な一筋を

天の川のせせらぎのたもと
繊細な白磁器のような
指先を握りしめ
自分の鼓動とは違う
魂の高鳴りを抱き
星々のはざまをぬうように
繰り返し、繰り返し
ターンしながら舞踏会を踊る
よどみない
旅路の残像を
焼きちらしながら

そんな
まんべんなく
精錬された
命の切っ先の
あらわな感触の創意を
紙面へ穿ち続ける

エンドロールの終わりまで
名もなく
過ぎ去ろうとも

「なにを書いているの」
「詩さ」
「そう」







2022/02/11 (Fri)

[322] 北風
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深々と
深々と
首もとのマフラーに
鼻先を押し当てて
胸いっぱいに
吸い込んだ
冷たい空気を
耳にも聴こえながら
しっかりと
吐き出すと
いくらかでも
暖かな吐息が
首もとにまでに
広がって

このさき
どうにもならない
わけでもないような
どうにかなるような
そんな僅かな期待が
やっと
感じとれた

2021/12/19 (Sun)

[321] とどのつまり
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たいしたことのない
たいしたことのない
たいしたことのない
つよがりを
たいしたことのように
たいしたこともなく
たいしてよくも
書けてきた

惨めさが
私の敷布団
情けなさが
私の枕
せめて
慎ましさの掛ふとんに
肩までくるまり

恥ずかしさ
恥ずかしさが
恥ずかしさだけが
この私の脳内から
我慢のならない
しょんべんみたいな
自虐的な勢いで

吹き出され

情けなさの
恥知らずのままでもよいから
まっさらな
まっさらだった
あの頃に
すがりつかないように

どこへも
とどこうりなく
うしろめたさもなく
わだかまりも承知で

寝小便を
書きちらす


2021/11/21 (Sun)

[320] STONE
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満月の
手配りで
鍵を落とし

石膏の
肌足しに感触が残る
右周りに坂を登っている

あたりには
何も見えはしない

どこからか
遠く
マリンバの音が
していて

たとたどしいような
忘れがたいような
とりもどしようもない
気持ちになっていった

途中の断崖に
魚の目をした
トドが四頭いて
中でも一番デカイのが
ゆさゆさ動いて
こちらの方へ
向かって来ても
逃げ場は
登るしかなく

あるといい
しっかりとした
綱引き等に使われる
綱が
頂きまで
のびている

きっと
しゃにむに
たぐり寄せたなら
たどり着いた
頂きからは
高所から見える
下りが
努力してきたぶん
大変そうに

そう言えば
鍵は
どれほど
そんなに大切だったのか
どうなのか
「お願いだから振り返る、ふりをして」
「そうしないと、どうなるの」
「月のような、ひとつ石になるの」

2021/11/14 (Sun)
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