詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
するり抜けていく
木綿のような
後味遺らぬ肌ざわり
逆に気持ち悪い
飛ぶ鳥が濁す寒さ
内側から冷えてくる
何か
ぶつけてやりたくなって
使用済みのティッシュ
丸めて投げた
紙一重で届かない
ブラジルは遠い
一度くらい振り返れ
足早に去る猿
肩が軽い
みぞれの辛苦
背負って行った
遠足帰りの物悲しさで
口笛知らずに
ひらひらすたすた
ひゅるひゅると
帰らない路を急ぐ
上塗りし過ぎて
チョモランマ
頂上からでも
もう見えないな
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
赤い眼をした
白い男
実験ネズミと
呼ばれていたよ
赤い眼をした
白い男
僕の目を見て
笑っていた
白い肌に
白い髪に
白い身体に
白い精神
笑うと
白い歯がチラリ
奥の方には
暗い赤が
実験ネズミと
呼ばれていたよ
どんな性格
どんな行動をして
声はどうなの
それぞれが
それぞれに
それぞれの
実験をして
その反応を
知りたがる
学者の好みで
色をつけられても
文句も言わずに
笑っていたよ
僕の目を見て
笑っていた
流れる血の色
暗い赤か
僕と一緒か
それならなんで
実験ネズミと
呼ばれていたよ
赤い眼をして
僕を見てた
それは
架空のお話で
あなたには
関係のない話で
赤い眼をした
白い男
実験ネズミと
呼ばれていたよ
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
隣の部屋から音がする
なんだか無性に気になって
壁が邪魔だな
どうしようかな
小さく穴を開けてみた
が
何が何だか
よく見えない
シャッシャッシャッ
カッカッカッ
パッパッパッ
シャシャシャシャシャ
何かをしているような音
耳について離れない
シャッシャッシャッ
カッカッカッ
パッパッパッ
シャシャシャシャシャ
もうやめてくれ
沢山だ
声に出して喚いたら
どんなに楽になれるだろう
閉じた目
再び開いてみると
壁の先の目とあった
僕より数倍大きな顔で
そいつは言ったよ
コンニチハ
あっ音がしない
サヨウナラ
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
パーパーラッタラ吹いた
夕焼け揺れた
パーパーラッタラ弾いた
子牛が消えた
パーパーラッタラ鳴いた
お腹が空いた
パーパーラッタラ描いた
笑って眠った
パーパーラッタラ済んだ
後は任せた
パーパーラッタラ泣いた
もうおしまいだ
パーパーラッタラ
パーパーラッタラ
踊った踊った
パーパーラッタラ踊った
あの子が帰った
ふるさとのおはなし
ふざけたおうた
くすりがきれた
パーパーラッタラ
パーパーラッタラ
パーパーラッタラ
ラーラーラー
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
何度誤って
何度謝らずに
座って下を向いたろう
隙を見て
逃げ出そうとしたろう
一番下の引き出し
上から次々と
新しい失敗を重ねるから
忘れてしまうんだ
ふとした時に
何か別の物を
探している時に
奥の方
掴んだもの
さっと手を引いて
バタンと
引き出しを閉じた
見られてないかと
周囲を確認
ほっと息を吐く
心の中から殴られる
貴女ならなんと言う
なんとなく分かる
理解らないけど
一生きっと
こんなんだから
こんなんだって
こんなんじゃあ
ダメだけど
ダメだけど
ダメだけど
否定されるであろう
真実をすべて
肯定して開き直る
誰かの傷口が開いたり
閉じなかったり
何人殺したとか
簡単に殺すって言う
疲れたって言う
死にたくなると
息を殺す
この声が
喉が
喉の奥の
心の奥の
もっと奥の方になんて
そんな幻想はないよ
でもきっと
また歌う
なんて顔で
ムカつくツラで
媚びてるような
嘘で化粧して
男じゃなかったんだ
歌うな
そんなんで歌うな
そう言われても
誰も聴きたくない
そう言われても
黙れ
そう泣かれても
やっぱり
無理して
口を閉じて
開いた傷口が弾き語る
そんな良いもんか
語るな
歌ってる
歌ってる
他人への声援を
勘違いして
愛を
間違えて
歌ってしまう
唄を
唄じゃないから
それでも
歌う
バカみたいな
本当にバカな
泣いた涙に価値もない
もう歌うなって
見てるこっちが
それでも
俺は僕は
ぼくは歌ってる
去れ
消えた方が良い
此処でもう歌うな
目の前で歌うな
歌う
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
コンニチハ
コンニチハ
音よりも
気持ち速めに変化する
人の群れ
新世界から
コンニチハ
はるか昔から
きみが居て
これから先に
出会うとしても
コンニチハ
コンニチハ
世界が変わり
人間が替わる
コンニチハ
コンニチハ
サヨウナラ
サヨウナラ
光より
気持ち遅めに訪れる
旅の気配
旧世界から
サヨウナラ
未来にぼくが
居なくても
もう戻らない
別れでも
サヨウナラ
サヨウナラ
世界が変わり
人間が替わる
サヨウナラ
サヨウナラ
コンニチハ
コンニチハ
新世界から
コンニチハ
これから始まる
ここから始まる
きみ達の世界が
ようこそ
ぼく達の世界へ
コンニチハ
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
種がない
この辺りに埋めたのに
種がない
見つからない
種がない 種がない
この辺りに埋めたのに
見つからない
しばらく待っても
芽は出ない
掘り回しても
見つからない
種がない
種がない
この辺りに埋めたのに
種がない
見つからない
種がない 種がない
僕の種がない
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
半紙に落とした半生
押え付ける文鎮
散らない記憶
あの日の失敗
ハミングバードを
奏でるように
悔いの残らない
告白をしたかったのに
廊下の向こう側
友達に支えられ
泣きながら歩く
君の姿を
見ながら止まる
チャイムが鳴って
いつも通り
教室に吸われた
この前テレビで
確か観たよな
一晩推敲して
実行したプラン
脚本は既にあって
演じたのは
別の誰かだと
今更気付いた
始まらなかったのに
今も終わらない
必死になって
拭っても
消えない
過ち
を
繰り返し
繰り広げられる物語
そして例の場面
二人の行方を追っては
あの日の光景
思い出し
再考する
現実は
巻き戻せない
やり直せない
幾ら演っても
停止してる
進まないのは
当たり前
気付いてんだろ
いい加減にしろ
二番煎じの
三文芝居は
虚構じゃない
完全なオリジナル
画面の外に居ても
誰にも見られていなくても
不細工なお前が主役
分かってるんだろ
君が好きだ
ふざけたことを言う
アイツの演技は
下手過ぎて
なのに二人は
ハッピーエンド
沈黙に更ける密室で
水も取らずに
寝転んでばかり
切れたトカゲの尻尾は
トカゲには再生しない
それでも
頭の中
廻る闘争
色褪せながら
どこに行く
僕から抜け出た
塊が
ぺらぺらと
中空を彷徨う
部屋の扉も窓も
鍵が閉まっている
仕方がないと
空に戻る
すっきりしたくて
発射した
笑いながら君は
その場を去った
静まり返る空間
思いの丈を
出し尽くせずに
取り残された
引き金を引いたら
撃たれたのは自分自身
慣れないセリフを
使うもんだから
倒れてしまうんだ
蝉の幼虫の真似をして
うずくまる
が
成長はしない
そのまんまで
余生を送る
素晴らしい世界を
執りながら
ペース配分も
考えずに走り
たった一度の
試練に破れ
面白くないと
人生を擱(お)く
お前と云う作品の
見所は
どこにある
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
叩かれて鬼になる
叩き返す
叩かれてまた鬼になる
もう嫌だ
人のままで
みんなと遊びたい
叩かれて鬼になる
叩き返す
叩かれてまた鬼になる
もう嫌だ
鬼のままじゃ
皆と遊べない
叩かれて
叩き返して
叩かれて
笑われて
叩かれて
逃げられて
追って
追って追って
追いつけなくて
笑われて
泣きそうで
帰りたくて
帰れなくて
泣けなくて
逃げられなくて
追いかけて
追われていて
終わりそうで
終わらないで
終わっていて
終わらないで
逃げないで
待って
逃げないで
置いてかないで
一人にしないで
お願いだから
もうやめて
叩かれて鬼になる
叩き返す
叩かれてまた鬼になる
もう嫌だ
鬼のままじゃ
みんなと帰れない
鬼のままじゃ
家にも帰れない
鬼じゃないよね
人じゃないだろ
鬼のままじゃ
帰れない
嫌だ
もう帰る
嫌だ
みんなと遊びたい
嫌だ
もう帰る
一人でもいい
もう帰る
帰れ
帰れ帰れ
早く帰れよ
早く
帰れ
叩かれて鬼になる
叩き返して
叩かれてまた鬼になる
嫌だ
人のままで
皆と帰りたい
叩かれて鬼になる
叩き返せず
鬼のままで
皆と帰れない
詩人:高級スプーン | [投票][編集] |
最近じゃ
誰に何を言われても
笑顔で返すようになり
本音を漏らすのは
君にくらいで
でも
最後にしたのは
いつだったか
ぼんやりと
考えたりもしたけれど
それ以上は
特に
私の事
本当に好きなの
そう訊かれた時だって
僕は
確かにそれは
幸せで
直に肌に感じていた
それでも
素直に喜べなくて
心の内では
疑問がぷつぷつと
浮かぶから
拡がる前に
静かにぷちぷちと
潰していた
それだけ
そんな風だったから
心はいつまでも
貧しいままで
幸せは
冷めて固くなった
肉のように
噛み切れなくて
けれど
吐き出せなくて
口にしてから
大分経つのに
まだ噛んでいた
もう味もしないのに
作りたての笑顔で
嘘を吐くしか
それからは
別れ話を
振られた時でさえ
本音を
言えなくなっていた
午後六時半すぎ
いつものように
ご飯を食べながら
TVを観ていた
くだらな過ぎて
笑ってしまった
いつもと変わらない
明るい日曜日
甘いものが
欲しくなり
冷蔵庫から取り出した
一口チョコ
食べてから数時間
すると
いつの間にか消えていた
跡形もなく消えていた
確かにそれは
幸せで
僕にとっては
幸せで