詩人:そほと | [投票][編集] |
ヘッドライトの光の中
犬が地べたに寝そべっている
コンポからはマンボ・ナンバー・ファイブ
ヤツの目の閉じ方が
憎らしいのか
羨ましいのか
これからサウナ状態の部屋に
帰ろうという俺としては
両方だろう
アスファルトを外れ
地べたというところが
さすがじゃないか
俺もほっぺたを地べたにくっ付けて
太古の子守唄に眠りたいものだ
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食べ終えた苺ジャムの空き瓶に
苺農家の日に焼けたおばちゃんが居た
いっつも一生懸命で
いっつもいっつも真剣で
ふっと見せる笑顔がうらやましいから
どこか日当たりの良い所に置いて
キラキラさせようかな
詩人:そほと | [投票][編集] |
侘しい一人暮らしを
アパートごと揺らしているのは
木枯らし
こんな夜はマーマレードの夜なのです
昔々母の作ってくれた
単純に夏みかんの皮を砂糖で煮ただけの
甘酸っぱくてにがいマーマレードの夜の中で
千切れた恋の糸が
ひらひらするのです
詩人:そほと | [投票][編集] |
ここまで冬がやって来た
ヒュルヒュルと口笛を吹く
貴方は偉大な音楽家
黒いマントを広げ
私の頭を抑え付け
ミルクを冷たい雪に変え
パンを硬い石にした
憂鬱と云うテーマを与え
空腹と寒さと言う名の
二本のタクトを操り
病的な和音を創り出す
さらには
クルクルと踊りながら
人間の凍り付いた黒い血を
黒い器に集めて廻る
実に見事なワルツだ
私にもひとつ教えて頂けまいか
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記憶の中の糸トンボ
目の奥の方に有る草の匂いが
額の裏側に
糸トンボ
蘇らせる
壊さぬよう
逃げられぬよう
幼くって
力加減の怪しい私
息を
全身を
緊張させる
あの
糸トンボの輝きが
幻ならば
せめて
透明な水晶体
取り戻したいと
願う
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よりによって
よりによって一本の茎を
二人のかたつむりが渡っていた
二人は出会い頭に飛び出した目玉を
くねくねと絡ませた後
上と下に分かれて
何事も無く離合は完了した
後には
てらてらと光る粘液質の作り笑いが
音を立てそうな勢いで
乾いてゆく
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きんかんの皮だけ食べるふしぎ
お薬だよって食べさせてくれるお婆ちゃんは
ときどき きらい
なんにも言わずに食べさせてくれるおかあさんは
ずぅ〜〜っと すき
ぶきっちょに中実までかじって
きゅ〜〜っとしかめた顔のぼくを
うれしそうに見ているおかあさんは
なんだか ふしぎ
甘くって おいしくって にがくって お薬で
きんかんの皮だけ食べる ふしぎ