| 詩人:朱雀 | [投票][編集] |
旻天に ひらり翔(かけ)らう紅シジミ
野駆けの誘いと辺りで戯(そば)え
彼方に渡る鶸色の海
吹き頻(し)く風に胡盧(ころ)を浚われ
風来坊の桐の一葉(ひとは)が
カサリコソリと撫ぜ行く つま先
黄金(こがね)の光が引く影に
強張るこの身を弛ませて
漫(すず)ろに描く明日の明日
暢楽夢譚の栞がわりに
胸に挟かう早生(わせ)の秋
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――三千世界の烏を殺し
主と朝寝がしてみたい――
寝物語の睦言に
誰がうとたか漫歌(そぞろうた)
熊野の牛王(ごおう)を裏返し
誓紙の徴(しる)す心底を
戯(たわむ)れごとと
笑み曲ぐ君様
郭(くるわ)の網が絡みつく
大門超えた恋所(こいどころ)
現事(うつつごと)と知りながら
八咫(やあた)の烏に願掛けりゃ
扶桑の枝で かあと鳴き
血反吐を吐いて那落に落ちる
破約の責めを鏡に映す
洒落のわからぬ明鴉(あけがらす)
慈鳥と呼ぶか
阿呆烏(あほうがらす)と罵ろか
ほんに苦界は烏兎怱怱(うとそうそう)
誰か烏の雌雄を知らん
※『三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい』は高杉晋作が作った都々逸です。
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四十由旬(ゆじゅん)の向こう岸
渡るに渡れぬ童部(わらわべ)が
賽の河原で石な子拾い
ひとつ積んでは またひとつ
父母(ちちはは)恋しと漬(ひず)ち泣く
仏の功徳を得んがため
粗末な塔(あららぎ)築けども
おどろおどろし獄卒が
歪な塔を打ち壊す
棘(いばら)で血塗れた両の手で
花を手折りて差し出すも
重科を犯した子の罪に
父の涙は火の雨と
母の涙は氷(ひ)となりて
其の身の底で蟠(わだかま)る
魔風(まかぜ)にカラカラ音を立て
廻り続ける風車
悲し悲しと泣く声を
地蔵菩薩に届け賜(た)も
尚、この詩は『賽の河原地蔵和讚』をモチーフに石積みの歌として書いたものです。
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光差し添う 日照雨(そばえ)受け
孕む息吹に 背を伸ばし
明日を手繰りて ときめきを
抱(いだ)く童(わらし)が 虹を吐く
透ける視線は 横豎(おうじゅ)翔け
まだ見ぬ感喜 兆し生み
見継ぐえのこは うらうらと
夢に蕩(つたよ)う 草の原
現未(げんみ)に架かる天弓が
調べ奏でて 七色の
彩り添える萌蘖(ひこばえ)は
彼岸に金の実を結ぶ
穂波の先に懐裡のせ
細鳴(さなり)と揺れる幸魂(さちみたま)
心足る日の面影に
嫁ぐ狐の置き土産
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ビョウと突き刺す風越しに
ふと 目に止まる時のうねりが
凄凄とした瞑色に身悶え―――
弥立(いよだ)つ躰と裏腹に
凝らした眸に赫(かがよ)う影は
象牙の塔に姿を変えて
『此処へおいで』と甘言を吐く
喜懼(きく)に揺れる心裡を探り
僅かに遅れた足の運びを
其奴が見過ごす筈はなく・・・
『お前はいつもそうだね』と
侮蔑混じりに ただもう一度
ビョウと響動(とよ)もし掻き消える
其の名は闇の詠うたい
識閾(しきいき)に立つ我を哀れみ
ただ気紛れに姿を見せる
いつか わたしはお前のもとに
辿りつく日が来るのだろうか?
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寂寞(じゃくまく)の枢(とぼそ)で
縮こまった躯(むくろ)を抱(いだ)く
哀れなるかな その姿は
卑しき傍生(ぼうしょう)なり
痩せた輪郭を坤輿(こんよ)にさらし
転げた鞄の口から渺然(びょうぜん)と宙が洩れ
惜陰の間もなく やがて辺りを埋め尽くすのは
茫漠たる無窮
広漠たる静寂(しじま)
渺茫たる孤独
喪明の羊飼いは無明の闇をさ迷い
生死長夜の夢に溺るる
疇昔(ちゅうせき)に紛れた風袋から
無常の風は吹き止まず
雲霓(うんげい)の望みは泡影(ほうよう)と成れど
合浦(ごうほ)の玉には成れはせぬ
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翠(すい)の竹生(たかふ)に月夜影
稲穂に似たる紫は 二目と見れぬ稀有な花
最期の時を飾らんと今を盛りと咲き満つる
風も無き夜に竹葉(たかは)が騒ぎ 月花に浮ぶ舞姿
『汝 仕舞のこの際(きわ)に何を覓(ま)ぎて此処に立つ』
葉音の影の問声(といごえ)に
答(いら)え代わりの移舞(うつりまい)
虚仮(こけ)の一心 仕似(しに)せるほどに
透影(すきかげ)の中で孛(ひろこ)へり
和魂(にきたま)宿らせ女(おな)となり
鬼を宿らせ鬼魅(きみ)となる
神に 修羅に 狂人(たぶれびと)にも成り変り
舞いて 舞いて 花を知り
偏(ひとえ)に舞いて 花を失(う)し
やがて誠の花と成る
枯れ逝く時分に見継ぐ幽玄
遺す種子(たなご)に遺念を委ね
有心を払い無心に還る
尽未来際(じんみらいさい)嵩を増し
長(たけ)を長じて 花伝となりぬ
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逃げ水
恋水
こほり水
胸に刃(やいば)を突き立てて
赤い血潮を ざんざと流し
寄瓮(るべ)に零れた深情け
今宵の月は殊更 真白(ましろ)
ただ水底に さ揺らいで
憂(うい)にまみれた この手では
また懊悩(おうのう)を
掬(きく)すまで ・・・
逃げ水
恋水
貰い水
刃(やいば)の先に花が散り
赤丹の秀(ほ)にも紛う面(おもて)を
彼(か)の様 綺麗と言ひてむや
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赤いおととが ひらひらと
右に左に身をくねり
赤いおべべは誰のため
水に弾けて凛と舞う
するりと冷たい玻璃(はり)のなか
くるりと廻って裏返し
泡(あぶく)がひとぉつ空の海
丸く歪な現当(げんとう)が
さても道理をわきまえて
丸く歪な目に映える
赤いおととが ひらひらと
恰も伎賊(きぞ)より舞い戻る
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爽(さや)けし小山の風樹の頂(いただき)
風見のカラスが見遣る先
光りほのめく草の原
ひとり ほとほと歩きます
しばし進めば分かれ道
九尾の狐が取り澄まし
物知り顔で尋ねます
『愚か者なら右の道
虚(うつ)け者ならその左
ぬしは孰(いず)れを選り取るや?』
別に当てなど無いゆえに
気の向くままに右左
ここで頭を搾るなど
ゆめ更更に思わねど
気色ばむ目に煽られて
ついぞ歩みを進めた拍子
―― 旋毛曲(つむじまがり)は
いずれ どのみち立ち戻る ――
乾いた笑いに掻き消され
もと居た小山の草の蔭
夢に夢見る
逢魔が時の夕惑(ゆうまどい)