ホーム > 詩人の部屋 > 朱雀の部屋 > 投稿順表示

朱雀の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1] 秋さり来れば・・・
詩人:朱雀 [投票][編集]


旻天に ひらり翔(かけ)らう紅シジミ

野駆けの誘いと辺りで戯(そば)え

彼方に渡る鶸色の海


吹き頻(し)く風に胡盧(ころ)を浚われ

風来坊の桐の一葉(ひとは)が

カサリコソリと撫ぜ行く つま先


黄金(こがね)の光が引く影に

強張るこの身を弛ませて

漫(すず)ろに描く明日の明日


暢楽夢譚の栞がわりに

胸に挟かう早生(わせ)の秋

2008/10/06 (Mon)

[2] 滑歌(ぬめりうた)
詩人:朱雀 [投票][編集]


――三千世界の烏を殺し

      主と朝寝がしてみたい――


寝物語の睦言に

誰がうとたか漫歌(そぞろうた)

熊野の牛王(ごおう)を裏返し

誓紙の徴(しる)す心底を

戯(たわむ)れごとと

笑み曲ぐ君様


郭(くるわ)の網が絡みつく

大門超えた恋所(こいどころ)

現事(うつつごと)と知りながら

八咫(やあた)の烏に願掛けりゃ


扶桑の枝で かあと鳴き

血反吐を吐いて那落に落ちる

破約の責めを鏡に映す


洒落のわからぬ明鴉(あけがらす)

慈鳥と呼ぶか

阿呆烏(あほうがらす)と罵ろか

ほんに苦界は烏兎怱怱(うとそうそう)


誰か烏の雌雄を知らん


※『三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい』は高杉晋作が作った都々逸です。

2008/10/06 (Mon)

[3] 石積み歌
詩人:朱雀 [投票][編集]


四十由旬(ゆじゅん)の向こう岸

渡るに渡れぬ童部(わらわべ)が

賽の河原で石な子拾い

ひとつ積んでは またひとつ

父母(ちちはは)恋しと漬(ひず)ち泣く


仏の功徳を得んがため

粗末な塔(あららぎ)築けども

おどろおどろし獄卒が

歪な塔を打ち壊す


棘(いばら)で血塗れた両の手で

花を手折りて差し出すも

重科を犯した子の罪に

父の涙は火の雨と

母の涙は氷(ひ)となりて   

其の身の底で蟠(わだかま)る


魔風(まかぜ)にカラカラ音を立て

廻り続ける風車

悲し悲しと泣く声を

地蔵菩薩に届け賜(た)も


尚、この詩は『賽の河原地蔵和讚』をモチーフに石積みの歌として書いたものです。

2008/10/06 (Mon)

[4] 狐福(きつねふく)
詩人:朱雀 [投票][編集]


光差し添う 日照雨(そばえ)受け

孕む息吹に 背を伸ばし

明日を手繰りて ときめきを

抱(いだ)く童(わらし)が 虹を吐く


透ける視線は 横豎(おうじゅ)翔け

まだ見ぬ感喜 兆し生み

見継ぐえのこは うらうらと

夢に蕩(つたよ)う 草の原


現未(げんみ)に架かる天弓が

調べ奏でて 七色の

彩り添える萌蘖(ひこばえ)は

彼岸に金の実を結ぶ


穂波の先に懐裡のせ

細鳴(さなり)と揺れる幸魂(さちみたま)

心足る日の面影に

嫁ぐ狐の置き土産 
 

2008/10/06 (Mon)

[5] 悠遠
詩人:朱雀 [投票][編集]


ビョウと突き刺す風越しに

ふと 目に止まる時のうねりが

凄凄とした瞑色に身悶え―――


弥立(いよだ)つ躰と裏腹に

凝らした眸に赫(かがよ)う影は

象牙の塔に姿を変えて

『此処へおいで』と甘言を吐く


喜懼(きく)に揺れる心裡を探り

僅かに遅れた足の運びを

其奴が見過ごす筈はなく・・・

『お前はいつもそうだね』と

侮蔑混じりに ただもう一度

ビョウと響動(とよ)もし掻き消える


其の名は闇の詠うたい

識閾(しきいき)に立つ我を哀れみ

ただ気紛れに姿を見せる

いつか わたしはお前のもとに

辿りつく日が来るのだろうか?

2008/10/07 (Tue)

[6] 樊籠
詩人:朱雀 [投票][編集]


寂寞(じゃくまく)の枢(とぼそ)で 

縮こまった躯(むくろ)を抱(いだ)く

哀れなるかな その姿は

卑しき傍生(ぼうしょう)なり


痩せた輪郭を坤輿(こんよ)にさらし

転げた鞄の口から渺然(びょうぜん)と宙が洩れ

惜陰の間もなく やがて辺りを埋め尽くすのは

茫漠たる無窮

広漠たる静寂(しじま)

渺茫たる孤独


喪明の羊飼いは無明の闇をさ迷い

生死長夜の夢に溺るる

疇昔(ちゅうせき)に紛れた風袋から

無常の風は吹き止まず

雲霓(うんげい)の望みは泡影(ほうよう)と成れど

合浦(ごうほ)の玉には成れはせぬ

2008/10/07 (Tue)

[7] 竹想花伝
詩人:朱雀 [投票][編集]


翠(すい)の竹生(たかふ)に月夜影

稲穂に似たる紫は 二目と見れぬ稀有な花

最期の時を飾らんと今を盛りと咲き満つる


風も無き夜に竹葉(たかは)が騒ぎ 月花に浮ぶ舞姿 

『汝 仕舞のこの際(きわ)に何を覓(ま)ぎて此処に立つ』

葉音の影の問声(といごえ)に

答(いら)え代わりの移舞(うつりまい)

虚仮(こけ)の一心 仕似(しに)せるほどに

透影(すきかげ)の中で孛(ひろこ)へり


和魂(にきたま)宿らせ女(おな)となり

鬼を宿らせ鬼魅(きみ)となる

神に 修羅に 狂人(たぶれびと)にも成り変り

舞いて 舞いて 花を知り 

偏(ひとえ)に舞いて 花を失(う)し

やがて誠の花と成る


枯れ逝く時分に見継ぐ幽玄

遺す種子(たなご)に遺念を委ね

有心を払い無心に還る

尽未来際(じんみらいさい)嵩を増し

長(たけ)を長じて 花伝となりぬ


2008/10/09 (Thu)

[8] 水遊(みずあそび)
詩人:朱雀 [投票][編集]


逃げ水

恋水

こほり水

胸に刃(やいば)を突き立てて

赤い血潮を ざんざと流し

寄瓮(るべ)に零れた深情け


今宵の月は殊更 真白(ましろ)

ただ水底に さ揺らいで

憂(うい)にまみれた この手では

また懊悩(おうのう)を

掬(きく)すまで ・・・


逃げ水

恋水

貰い水

刃(やいば)の先に花が散り

赤丹の秀(ほ)にも紛う面(おもて)を

彼(か)の様 綺麗と言ひてむや

2008/10/09 (Thu)

[9] 金魚鉢
詩人:朱雀 [投票][編集]


赤いおととが ひらひらと

右に左に身をくねり

赤いおべべは誰のため

水に弾けて凛と舞う


するりと冷たい玻璃(はり)のなか

くるりと廻って裏返し

泡(あぶく)がひとぉつ空の海


丸く歪な現当(げんとう)が

さても道理をわきまえて

丸く歪な目に映える


赤いおととが ひらひらと

恰も伎賊(きぞ)より舞い戻る

2008/10/09 (Thu)

[10] 戯け話
詩人:朱雀 [投票][編集]

爽(さや)けし小山の風樹の頂(いただき)

風見のカラスが見遣る先 

光りほのめく草の原

ひとり ほとほと歩きます


しばし進めば分かれ道

九尾の狐が取り澄まし

物知り顔で尋ねます


『愚か者なら右の道

虚(うつ)け者ならその左

ぬしは孰(いず)れを選り取るや?』


別に当てなど無いゆえに

気の向くままに右左

ここで頭を搾るなど

ゆめ更更に思わねど

気色ばむ目に煽られて

ついぞ歩みを進めた拍子 


―― 旋毛曲(つむじまがり)は

いずれ どのみち立ち戻る ――


乾いた笑いに掻き消され

もと居た小山の草の蔭 

夢に夢見る

逢魔が時の夕惑(ゆうまどい)

2008/10/09 (Thu)
34件中 (1-10) [ 1 2 3 4
- 詩人の部屋 -