詩人:獏 | [投票][編集] |
寒い風が
鼻先を氷のように冷やして
丸めた背中ごと
包み込むように巻き上げて
凍り付いた思考と
縮こまる身体を
軽々持ち上げて星の瞬く空へ
夜の空気と同じだけ
下がった体温は
冬に溶ける絶対条件
張りつめた夜の冷気に
揺れる星達の一つになって
次第に透けていく身体
凍り付くような冷気こそが
すべて透明に夜空に同化させる
星になって見下ろす
無機質な街頭の列の下を
とぼとぼ
はぐれた一匹の犬が所在無さげに歩いている
そこにぬくもりは残っているか
心の芯まで冷たくなった
透ける瞳は
懐かしむように
流れる雲になって見つめている
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私の心の中には
小さな私が住んでいて
彼女は
悪いことをすると
お日様がみんな見てるよ
と 言う
おばあちゃんに言われた
戒めの言葉で
彼女はそれをアレンジして
事あるごとに私に
繰り返し脅しのように
言い続ける
お日様は恐ろしい
空の目になってしまった
いつもいつも
空の一つの目は
私を追い掛けてきて
それはいい事なのか?
そんな事をしていいのか?
と聞くので
どこにいても
一人でいても
些細な悪口も
悪戯も
封じられてしまった
よくある子供騙しだと
気が付くまで
時間が経ちすぎて
お日様の声は
未だに私を戒め続けるから
白と黒しかない
私の天秤は
白になるため
重りを積むことを
止めようとしない
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怖かったの
とても
駆け付けてくれた
あなたに抱きしめて貰って
それでもしばらくは
目を 閉じるのが 怖かった
さっきまで
私に向かって
振り下ろされてた
キョウキ
目を閉じると思い出してしまうから
逃げ回ってた
緊迫した一秒一秒
目の前に横たわる
崩れたようにヒシャゲタ遺体
周囲の喧騒を
さえぎるように
ゆっくり背中をさするあなたの手
わたしは少しずつ
解放される
震えから
怯えから
恐怖したすべてから
それから
ゆっくり目を閉じるの
目を閉じても
もうあなたしか
見えなくなってきたから
暖かく優しい
あなたの手
見開いたまま
空を見つめてた私は
あなたの温もりに守られた安堵で
ようやく
はらはらと涙した
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無くしてしまった
記憶
雲天の灰色の景色に
産まれたての白い鳥の
ハカナイ産毛みたいに
小さく
ちぎれた
雪が舞う
ゆっくり無軌道の
軌跡を描いて
舞い降りて
少しだけ白く光っては
アスファルトに
家々の屋根に
まだ裸の木々に
触れて 溶けて
たくさん抱えてた
悲しい言葉達を
吸い込んで
流れていった
やわらかな
やさしい
涙になって
ひらひら
途切れる事無く
舞って降り続いて
記憶も降っては溶けて
頭の芯の痛みだけ
残して
消えていった
名残雪
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逝ってしまった
私をおいて
私も追いかけていきたかった
思い出すたび
私の頭の中は
透明になっていくから
そのまま飛ぼうと
思うのだけど
岬から眺める
岩礁は
綺麗過ぎて
おいていけない
若すぎる命を
思い出してしまうんだ
柵に上がって
波の打ち寄せる
遥か下
波に洗われ続ける
岩礁目がけ
飛びたいのに
いつもいつも
飛びたいのに
あなたは来るなと
言う
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秘密や約束事が多すぎて
眠れない
わだかまりやとまどいが多くて
話ができない
毎日 疲れすぎて
顔を見る時間もない
ブラックジョークは口にした次の瞬間から
現実に寄り添いはじめ
歯が浮くような褒め言葉は
空々しさに付き纏われ
どんな言葉もどちらかにしか思えなくなり
しゃべる事そのものが
億劫になっていく
本当に癒せる言葉なんて
どこにあるんだろう
真摯に思いやる言葉とは
どんな風に言えばいいのだろう
口から零れ出す会話
忘れ去ってしまえればどんなに
話すことが楽になるだろう
話したばかりの事も
和やかな笑いとともに
空気に溶けていくなら
人と話すのは
どれだけ楽しい事だろう
毒を含んだ言葉を使わずにいられないのは
クズレタココロのせいだろうか
ありきたりの日常の中
積もっていく小さな悲しみのせいだろうか
毒のない言葉で話せる日が
私に来るのはいつだろう
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丘を登れば
一面の草原
草の葉の隙間から
朝の光が射し込んで
丘陵が黄金色に輝き出した
吹き抜ける風は
陽光と花びらをほころばせ
野花の甘い香りを運んでくる
見渡せば
あちらこちらに飛び交う
小さな無数の蝶々
幻想の風景に
迷い込んだ私は
丘の頂きまで
一息に登る
体いっぱいに朝日を浴びるために
光をあびて
光に満たされて
指先まで
髪の一本一本にまで
敏感にふくらむ感覚
体の内側まで
血管も
臓物も
骨も
すっかり光を含んで
膨張していく
網の目のような
血管の中を巡る
血液の
一粒一粒まで
光にさらして
ふと気付くと
花畑を飛んでいた蝶が
私の体をすり抜けて
何羽もの蝶達が
次々に
血管の間や
骨の隙間を
飛び交って……
私の体は透きとおり
輝きながら
粉々に砕かれて
朝の風に乗って
舞い上がる
私で 有った
一粒が
乱反射しながら
空に吸い込まれて
一羽の
小さな蝶になっていく
幻想の中で
私は
祈りをとなえよう
この願い届くなら
どうか
無数の蝶になった
私の欠片が
その短い生命を
逃げ出すためじゃなく
ひたむきに
生きていくために
だだ
そのためだけに
羽ばたいていきますように
思い悩み
立ち止まる事など
知らぬまま
ひらりひらり
ひたすらに飛び続けて
光と 風に
とけるように
空へ
帰っていけますように
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しんどいね
暗闇にいるのは
人の笑顔が
いらだちを増幅する
話し声が耳に付く
つかれるね
他人を憎むのは
全部が嫌いなんじゃない
人のこととやかく言えやしない
痛みも空虚も
蔑みも嫉みも
持ってる
毎日感じてるよ
なんで
許せないんだろう
なんで
笑えないんだろう
もういいよって
気にして無いよって
軽やかに笑って
さっぱり
すっきり
終わったことだよって
無理矢理でも
流してしまえたら
土くれを飲み込んだような
胸の内を
洗い流せるのかな
苦い薬だって
飲み込んでしまえば
良く効くだろう
淋しさに
負けそうになってる
一人が嫌なのは
私なんだ
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外は日暮れて冷たい風が強く吹き抜ける
すっかり葉を散らした桜の枝先がヒョロヒョロ揺れてる
つのる虚しさと苛立ちで麻痺したココロが
木枯らしに吹かれたいと小さく疼くので
ヨタヨタつまずきながら歩いていた
腹に溜まった重りを抱えたままよろけた
瞼に浮かんだ出口は
遠かった が
たどり着いた自動ドアの向こうでは
寒空に 裸の桜の幹がすっくと立っていた
氷のような風の中 すっくと夜空を目指して伸びていた
ほんのり海の匂いがする風が髪を踊らせる
冷えた大気を吸い込むたびに 足取りは軽くなる
抱えるほどもある幹を見つめながら
ヒリヒリする寒さを身体中で感じていた
ぐいっと背を反らして
桜の幹を地面から順に見上げる
町明かりにぼやけた夜空に
くっきり浮かび上がるオリオン座が
骨だけになった細い枝先の真上に
去年と同じ姿で輝く
「あれがオリオン座だよ」と
初めて星座を教えてもらった幼い私が
星座の夜空を占める大きさに
星座が持つたくさんの物語の歴史に
理由もわからず芯から震えたあの時と
変わらない姿で輝く
また会えたね
毎年この季節に見つめてきたよ
今何してる?
まだそこから動けずにいるの?
問い掛ける言葉はそのまま返ってくる
身体の内側から
ぴぃぃいぃぃん と音が聞こえてくる
音に合わせるように歪んでいた背筋が
バキバキ鳴りながら伸びて
夜の静寂にメロディが流れだす
何も変わっちゃいないよ
でもね
また聴こえてきたこのメロディが
私の足を震えさせるから
もう一度一歩踏み出すよ
私は大きく深呼吸して
来た時とは違う足取りで
帰り道を歩きだした
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みんな誰かみたいになりたいって思ってる
自分以外の誰かに
身近なあの人だったり
憧れてるあの人だったり
到底手の届かないヒーローだったり
自分にはない何かを誰かの中に見つけて
嫉妬したりひがんだり
忙しいね
みんな誰かみたいになりたいって思ってる
どうしたらあの人みたいになれるのか
悩んで苦しんで
諦めてまた憧れて
好きになって真似してみて
無理してるって気付いて
焦ってるって落ち込んで
やめられない憧れに
振り回されながら
諦めたくなくて何度も真似を繰り返して
まだまだ届かなくてじたばたしてるのに
誰かに あなたみたいになりたいって言われて
戸惑ってまだまだなんだよって
叫びたいくらいいらついてるのに
どっかで嬉しくて邪険に出来なくて
もしかしたら自分て捨てたもんじゃないかもなんて
浮かれてみたり
このまま突っ走っちゃいたくなってみたりして
ふと
あの人と自分を比べてみたら
情けなくなって
やたらに暗くなってみたり
開き直ったり
ほんと忙しいね
無駄な事なんて無いって
誰かが言ってくれるけど
妬んでたらちっともそんなふうに思えなくて
暗がりに逃げ込んだまま
自己嫌悪にマゾヒスティックにひたってみたりして
どっかから聞こえてきた
馴染みの歌謡曲のよく知ってたつもりの歌詞に
いつのまにか励まされて
意味なんか考えずに口ずさんでた歌に
悲しみやら情けなさやらいろんな感情が詰まってたって気付いて
ロングヒットの曲の深さにあらためて感動してみたりして
口ずさんでみて自分にも歌が歌えるって気付いて
歌いながら泣いちゃったりして
あの人もたくさん悩みがあったはずだって
少しだけやわらかくなれた気がして
また焦って悩んで右往左往するけど
憧れるのも歌うのもやめられないんだって
思った