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番犬の部屋  〜 投稿順表示 〜


[11] 血脈
詩人:番犬 [投票][編集]



あんたの
エンジンオイルにまみれた腕が好きだった



そうだ
好きだった

今でもそれは変わらない感情で

おそらくこれからも同じだろうよ

自動車整備があんたの仕事だった

何度か覗いた事がある

まあお世辞にも綺麗とは言えない町工場で働く姿

金属と金属の擦れる音や、FMラジオから流れる曲が響いてた

あんたは黄色のつなぎを着て、オレンジ色の安全靴を履き、大きなスパナを片手に、首に掛けてるタオルで汗を拭ってた


そして年中変わらぬ寝癖の髪型で
うちに帰れば下手くそな鼻歌

ガソリンとタイヤとオイルの匂いが漂う背中

そして笑いジワを深く刻んだ顔が、どんなに粗末でもいい
どんなにちっぽけでもいい
背負える物が在るというだけで
人生は幸福なんだと教えてくれた

だから一秒一秒、胸を張って生きていける

俺はあんたの息子だから


俺とあんたの、血脈なんだ


あんたのような父親を誇れない息子がどこにいるだろうか

父よ

あんたが俺を初めて抱いた年齢に、俺も近づきつつある

いつの日か子供が生まれても不安はない

抱き方はあんたから教わった
アゴひげの押し付け方も、遊び方もあんたが教えてくれた

そして愛し方さえも

全部

全部だ

あんたが教えてくれた


この体、心深くに静かに

なによりも強く流れる血脈

俺はいつまでもあんたの息子だ

2006/10/27 (Fri)

[12] 無題
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俺は余裕を持った人間だ

実際には自分を成長させる為には

極楽よりも苦境を選ぶべきなのだが

選択肢が存在する時点で

俺はおそらくは余裕を持った人間なのだ

余裕は成長を阻害する栄養剤

身の回りの全ての空間が

それに満たされてしまった

2006/10/30 (Mon)

[13] 無題
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一日中ターンテーブルの

灼けつく音を耳に傾けていた

朝日が夕焼けに変わるのも気づかず

心地良い空間の無重力にレコード

ケミカルと煙とパイプの煤とオールドスクール

そしてあらゆる種類の音楽の裾野

そこに立ち尽くす

ヒップホップやメロコア

グランジにヘビィロック

HR/HMにパンク

レゲエとオールディーズ

フォーク カントリー クラシック トランス

現時点で興味をくすぐるのはブルース

一本のギターと空白の凌ぎ合い

聴くというよりも見つめてる

音符の流れと時代の残り火を

何を思う訳でもなく

何を隠そうとする訳でもなく

数年も経てば古臭くなるような

そんな音や言葉に揺られながら

ただ一日中レコードから立ち上る

焦げついた臭いに人間を感じてた

2006/11/04 (Sat)

[14] 無題
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奴らの目玉を抜き取れ

奴らは決して変わらない

奴らの鼻を奪え

奴らは決して変わらない

奴らの足をもぎ取れ

奴らは決して変わらない

奴らの腕を切り落とせ

奴らは決して変わらない

奴らには最初から意味がなかった

生きていく上で必要がないからだ

利己的感情で生きてる限りは

2006/11/04 (Sat)

[15] 無題
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詩を書くのに技術はいるのか?

そんな物は知らない

技術を持っているかと問われれば

そんな物は持ってないと答える

しかし必要な物は持っていると答えよう

消しても消しても消えない炎が

ペン先に宿っているうちはな

2006/11/04 (Sat)

[16] 無題
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淀んだ深みで

ひとしずく

大気が揺れた

心の奥で

閉じ込めた多くが

嘆いては諦め

信じる先もなく

途方もない虚無感

歯を削り

すり潰した苦味

とてつもない苦味

こんな絶望があるとはな

世界よ

教えてくれてありがとう

2006/11/08 (Wed)

[17] 無題
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お前は自分を戒めているか

お前は自分を律しているか

酒を飲み

タバコを吸い

車を運転し

セックスをしてもな

自分の戒律を持たない人間は

大人を装ったただの子供だ

勘違ってくれるなよ

2006/11/11 (Sat)

[18] 無題
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新しい理論が欲しいならば

1%の勘と閃きを要する

99%の経験と知識がそれを支える

つまりは10を見て始まり1を推測する

10を見て7では所詮表面の薄皮だ

5や6を知った所で根本は覗けない

1がどんな選択肢を与えていたか

1でなにを選択したのか

これが始まりで結果とも呼べる

どんな必然を考慮に入れるか

それが知識と経験だ

判断しようがない事柄は勘と閃きに預ける

推測の人間行動学

新しい理論を知りたいなら

人間の根本を覗くがいい

2006/11/12 (Sun)

[19] 無題
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煤けた天井に薄い光

髭を蓄えたマスターは寡黙

几帳面に並べられたバックバーの酒は

おそらくは彼の生涯の財産

年代物のジュークボックスから

アーノルド・ケイモンズ

彼のサックスは涙の結晶のように

不安定な呼吸と深遠さを覗かせる

テーブルにはアイレイモルトを

注いだオールドファッション・グラス

隣にはよく見掛けるプッタネスカ

彼女の指輪は今日も眠らない

今夜分のクリスタルをポケットに忍ばせ

相手を選ぶ瞳は高級さを物語るが

ミモザを飲み干したその唇は泣いていた

赤いドレスの裾に落ちない泥の跡

それは彼女の生き様そのもの

穴の空いた俺の革靴とよく似ている

しかし交差する事はないだろう

永遠の平行線がここにある

少しばかりの会話もなければ

不必要な感情すらもない

ただ流れて消える時を

冷えたグラスの水滴に預け

沈黙の暗さを味わう

2006/11/12 (Sun)

[20] 紙の翼で(試作)
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その命は

何のために生まれた?

その手は

何を握っていたのだろう

その足は

どこに行く為に?

どこまでも高く

飛べると信じていた

手作りみたいな紙の翼で

あの遠い空までもと

たった一枚の壁が分厚い

小さな窓があるだけの

塞がれた孤児院のような一室で

わずかな光の繊維を見つめ

ずっと信じていた

泥で満たされた地上から

羽ばたく本能を奪われたはずの翼が

高く高く飛び立ちたいと

枯れた喉から

叫びにならない叫びを発し

壮絶に空を求めては

手作りみたいな紙の翼で

飛び立とうとしていた

生まれたばかりの頃は

閉じていた手の中には

一体なにを握っていたのだろう

それを知りたくて

2006/11/12 (Sun)
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