詩人:番犬 | [投票][編集] |
俺とお前
同じ下町
裏路地で育った
同じようなボロの家
汚い服で泥と汗まみれ
まるで兄弟みたいに
毎日顔を合わせ
喧嘩したり
河原で遊んだり
泊まりに行ったりさ
なあ覚えてるか…?
秘密基地なんて
すぐバレるようなもの
心底楽しんで
スリルみたいな絆を作ってたよな
俺達に涙は似合わなかった
だからお前の死に際も
他の奴らは泣いてたが
俺は涙を流さなかった
お前の親父の肩を叩いて
もう戻らない扉を閉めた
ヘッドライトがやけに眩しい
病棟からの帰り道
一筋のほうき星
どこまでも透明な空の下
冷たい響きのアスファルト
少しだけ泣いてもいいだろと
街の暗闇に甘えた俺がいた
悪ガキだったか?
俺達はさ
ただがむしゃらに
走ってただけだよな
お前は速すぎた
メーターなんか目に入らなかった
悪かったのは俺達じゃない
進んだ道が荒れてただけさ
人の白い目なんか
少しも気にならなかった
大人って奴らがよく言う
若気の至りなんかじゃない
人を殴るのも
街角の女をからかうのも
退屈な街を少しだけ
違う場所から眺めたかった
ただがむしゃらに走ってただけだ
そんな俺達は悪ガキだったのか?
誰か教えてくれないか?
きれいな星の空の下
中指立てて
生き続ける事が?
優しさなんか便器に捨てて
ただ肩を抱き合えばよかった
わざとらしい誉め言葉は
俺達の間に必要なかった
心の中の太陽に
センチメンタルを投げ捨てて
アウトロー達が持ち寄った花束を
似合わないよなと笑いあった
他の奴らは泣いてたが
俺達に涙は似合わなかった
ただそれだけだった
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栄光よ
お前に逢いに行こう
それまで静かに待っていろ
なにも言わずに
俺を信じて待っていろ
100年後のお前と
肉体を持たぬ俺の魂が
出逢うその瞬間
俺の今の苦しみは
決して間違ってはいないと
きっと証明されるだろう
それは俺を取り巻く
99の風説を吹き飛ばし
残り一つの真実を照らす
救いの手としてな
苦しみや寂しさ
その痛みが如何につらかろうとも
尻尾を振り
媚びを売り
浅ましい理解を求めた瞬間
俺の作品は呼吸を忘れる
栄光よ
お前に逢いに行こう
それまで静かに待っていろ
なにも言わずに
俺を信じて待っていろ
いいか
今ではない
今は絶えず耐えるだけの日々
栄光よ
100年後の理解者と共に
必ずお前に逢いに行こう
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年老いた夫婦が
温かいミルクを飲み干す頃
我が隣人が恋人と
愛の言葉を紡ぐ頃
我が師が生徒に
有り難い説教を述べる頃
裕福な家庭の子供が
やりかけのゲームをリセットする頃
遠くの弱者が死ぬ様を
痩せた大地で死ぬ様を
ブラウン管の外側
国境線の外側から
差別や体制
クーデターやテロル
自動小銃とサーベル
餓えと貧困を
俺はただ静かに
何も言わず
じっと眺めていた
ちっぽけな
ちっぽけな
ちっぽけな
あまりにちっぽけな俺が
ぽつんとそこに立ち尽くしていた
言葉が無力だった
俺はペンを置きたくなった
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君はね
そのか細い首の
小さな喉から
とびきり優しい声を
慰めの言葉を
心の叫びを
君が知る人の中で
最も悩める
そして愛すべき人へ届けなさい
彼(彼女でもあるだろうか)の肩は
おそらくは今も
襲い来る寒さに怯え
震えているだろうから
君は目を背けずに
まっすぐまっすぐ
どのような力にも
決して曲がらぬ
強い想いを届けなさい
君は恐れてはならない
君は声を発さなければならないよ
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寂しがりやのトレーラービッチ
今日の街角での稼ぎは
ここにいくらかでも置いていけよ
それと一緒に愚痴とかもな
今日も浮浪者と並んでは
人の憐れみを求めてたんだろ
だからといって慰めはしないぜ
お前は抱かれるのが商売だからな
嫌なことはあるだろうさ
金が無きゃ生きちゃいけない
綺麗な生き方をしようとしたら
家で待ってるガキが飢えちまう
助けなんて何一つない
神様はいつだって残酷なのさ
神様の複製である人間もな
お前をかわいそうには思うが
センチメンタルは嫌いだから
優しくなんてできやしない
今夜も俺は無言を通そう
お前が酒でつぶれてしまうまで
オールドスタイルのグラスに
琥珀色のアルコールを注ぐ脇役
虹の洪水を窓の外に見ながら
ああ
幸福ってやつがお前の歩く道に
転がってる事を祈るよ
大なり小なり人は汚れて生きていく
たとえどんな理由であろうとも
愛する物がある故の汚れが
必ずつきまとうものだ
彼女のようにたった一人で
貧しい家庭を背負い
国家からの施しも受けられず
その細い体を売ってまで
子供を育てなければならない者がいる
それを考える時
純粋な正義も純粋な悪も
この世には存在しない
彼女の行為は悪だろうか?
正義に基づいたものだろうか?
そんなことはどうでもいい
生きることに必死な人間を笑う奴らを殺してやりたい
ただそれだけだ
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昔からそう
誰もが嫌い避けるような
狭くて暗い場所が好きだった
ジメジメした感触が落ち着いた
そこで飽きもせず秋の始まりを待ってた
昨日の俺が描いた絵を
今日の俺が塗りつぶす
終わるのか?
終わらないのか?
そう問い掛けながら
カウントダウンの秒数は
生まれた瞬間に自分で決めてた
輝いてもいない未来でも
そこは明るすぎるんだ
俺を呼ばないでくれ
昨日の俺が描いた絵を
今日の俺が塗りつぶす
終わらせたいなら
終わらせればいい
そう言い聞かせながら
にやりと笑う自分が
鏡の中で割れるのを見た
瞬間的に沸騰したのは憎しみ
喘ぎを伴って怒りの拳をぶつけた
人や壁や社会の弱者達に
昨日の俺が描いた絵を
今日の俺が塗りつぶす
消えてくれ
消えないでくれ
そう迷いながら
気まぐれでやってくるぞ
夕闇が持ってる切なさはな
全部が思ったよりも儚いぞ
人も夢も感情もな
全部が思ったよりも儚かった
昨日の俺が描いた絵を
今日の俺が塗りつぶす
まだ終わらない
まだ終わらせない
そう呻きながら
独特の絶望って奴は
誰にも理解させる事はできない
百年後にとうとうやってくるはずの
眩しい栄光やたくさんの理解者は
今を生きる俺の慰めにはならない
昨日の俺が描いた絵を
今日の俺が塗りつぶす
昨日とは違う
明日こそはと
暗い場所で睨みつけながら
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俺の心には
二つの夢が
こびりついてる
毎日見る訳じゃないが
ふとした頃に
同じ夢を見るんだ
一つ目の夢は
雨は降ってない
夜の街角
星は出ておらず
高い高い場所で
月だけが輝いてる
薄暗い階段口で
人通りも無いその場所で
一人の女の子が泣いている
いつまでも
いつまでも
ずっと変わらず
泣き続けてるんだ
もう一つの風景
ただ白だけの
一面雪の世界
一軒の家
子供の頃の俺が
泣きながら
家の周りを
ぐるぐると歩いてる
他にはなにもない
家の窓からは
温かい光
しかし触れられない
子供の頃の俺が
思い出したように
玄関に走り寄って
開けようと試みる
しかし開かない
どこからか笑い声
耳を塞ぐ
また泣きながら
家の周りを
歩き続ける
そんな夢
理由は分からない
もう見飽きたくせに
何度も流れる夢だ
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そこのお前
求めるものがあるならば
願うな
もぎとれ
力を忘れた両手に
もう一度だけ
木漏れ日のような光が
差すであろうことを信じろ
蜃気楼のような
深さ無限の砂を掘れ
その中に燃える
一滴の氷を探すように
ああ
それが命ってことだ
お前の中の番犬よ
何度も囁け
お前の居場所はここではない、と
裸の感性
剥き出しの刃で
醜く太ったハングリーを磨け
理解されることを願うな
理解させる力をもぎとれ
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人生は旅だという
ならば若人よ
君はこれからも長い旅路だろう
誰かと歩きたいか?
そう思えたなら
お前は孤独ではない
誰かが誰かを求めるという温かさがある限りは
な
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夕暮れに浮かぶラスタミュージック
キング・タビーに感謝を捧げ
心地よいダブの音色と
歪むベースの寂しいリズムに
裸の魂を揺らしながら
夕焼け空の大気の流れや
偉大なる大地の静かな呼吸を
その一身に浴びたなら
歌う理由を見つけよう
おそらくそれが
俺の信じるべき真実だから