詩人:番犬 | [投票][編集] |
偽物ばかりで息苦しいと
俺の右手が喘いでる
そうだった
俺は心を塞いでいた
書く理由さえ捨てていた
すまない
右手よ
ペンの重みがつらかったろうな
一人きりで空白の大地に
なにかしらの感情を刻む
それがどんなに過酷な信仰かを
俺は知っていたはずなのに
本当の話をすればな
詩を書くって事が
俺にはとてつもなく
恐ろしい行為になっていたんだ
欲や見栄や対人関係や
詩とは無関係なそんな所で
繰り広げられた争いとかがな
あまりに無惨な殺し合いでさ
それは言葉にできないぐらい
絶対に言葉にできないぐらい
空しさと読んでも差し支えない
深い深いところに佇む悲しみだった
俺は心を捨てたんだ
ただ詩の形態を模した文字配列を
淡々と並べ続ける日々
無感情を装った俺は俺をも欺いた
人間特有の理性的行為の裏で
ペンの重さをお前に押し付けた
しかしもうやめよう
もうやめるんだ
終わったなんて答えは
始まってから出すものだと
今なら言えるぞ
先祖伝来のこの名に誓ってな
最近とうとう
遅いは遅いが気付いた事がある
光は遠いが無いものじゃないってな
まだまだ先は長いが
少なくとも此処に長居はしちゃいけない
行こうぜ右手よ
必ず共にだ
孤独も連れて行こう
奴は寂しがりやの名無しの名残だ
吹く風やそよぐ雲の影や
ビルとビルの狭間のストーリーに
生きる意味や完璧な世界の断片が
秘められていると信じて
右手よ
長い道のりをどうか
また行こうぜ
倒れない限りは見渡せる
空白の大地に刻む為にな
2007年2月3日
流れるに任せず時を動かす
そんな決意を込めて
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もう夢やら目的やらを失って
干からびたはずの血管に
緩めの柔らかなビートを流し込む
すると鼓動を打つんだ
また始まったと言い換えてもいい
固い大地に楔を打ち込んで
未発見の遺跡を発掘するように
テクニクスの針先や
レコードのジャケットが
逞しい厚みのスコップみたいに
ぼんやりとした月の裏側や
遠い星の終わり方を見せてくれる
退屈に過ぎる1日を生きるのは
斬新なアイデアとの出会いの為だ
鬱蒼とした森に迷い込んだが
小さく踊る木漏れ日を見つけた感覚
灰色の街や瓦礫の頂上でも
本質は変わらない
それらを詩って奴に還元するとな
今まで読んだ事もない
体験した事もないようなトリップが
そこに現れるって訳さ
感謝しなきゃな
目を開いたばかりの俺に
飛び込んできたこの完璧な世界に
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日陰に咲いたマグノリア
たった二輪の命だったな
誰も来ないさ
誰も
誰もな
きっとな
泥水
痛み
暴風雨
全て許そう
許すしかないんだ
真冬の氷のマグノリア
小さな命が散ってしまうまで
オリエンタルランドの端々で
人々が笑顔でラムを回す頃
青みがかった銀色の月と
ちっぽけな寂しいテーマパークで
もう回らないメリーゴーランドに乗って
俺達は今までで一番笑うんだ
もう会う事のないマグノリア
命なんて儚くてもろいもんだよ
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地上のあちこちで
世界の切れ端で
若者や年老いた夫婦が
砕け散ったダイヤモンドみたいな
世間の賑やかさに
古びた街並の華やかさに
それ相応の快楽を見つける頃
ハーベストの丘で
月だけが見守る地下室で
俺達はジョイントに
祈りを捧げるように
静かにチルしよう
生まれ育ったゲットーで
今も変わらないであろう日常に
想いを寄せながら
今夜限りのセッション
ジャムを繰り返すんだ
泣きながらステップ
足も腰も腕も止まらない
なんで生まれてきたとか
なんで苦しむんだとか
そんな疑問があまりに無意味で
音と人がセックスしてるだけの
閉じられてるけど塞がれてない
そんな深い深い空間で
俺達は踊り続けよう
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生まれてからずっと
愛なんて知らずに生きてきた
人を好きになる
そんな当たり前の幸福に
俺は預かれなかったらしい
遠くで呼ぶ声はするが遠ざかる
歩みの遅さに進化の速さは辛すぎる
はっきり言えば俺は時代遅れ
誰かに気を使ったり
誰かの為に動いたり
上手になんて生きられないよ
だけどな
ある日のこと
うちに帰るとな
いつもは暗くて寒々しい部屋に
木漏れ日に似た妙に柔らかな
ライトの光粒子と気温と
テーブルにぽつねんと
温かいシチューを湛えた
大きな皿が一枚あったんだ
横にはよく知った女
赤い目のままで飲み干した
皿の底の絵柄が見えるまでに
幸せがそこにある気がしたから
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ねえ君
バッファローの歴史を知ってるかい?
そう
あのアメリカ大陸の大草原を支配していた野牛のバイソンさ
一時はね
三頭にまで減ってさ
その生き残りまで殺されそうになったんだ
それまではさ
インディアン達と仲良くやってたんだ
毛皮や食料やアクセサリーになって
必要なぶんの犠牲だけ
そう
彼らはバッファローの価値ある死に
感謝と祈りを捧げてた
ある日のことさ
知らない世界の人たちが
鉛の玉とライフルで殺しに来たよ
インカを滅ぼしたよりも凄まじく
それは人間らしいと言えば人間らしく
とても残酷だったんだ
インディアンを全滅するために
バッファローを全滅させようと
彼らは汗を流していた
そして多くの血が大地に流れたんだ
理由もわからず孤独にさらされ
つめたい北風に揺られて
先の見えない荒野をさまよう
かわいそうかい?
やったのは僕ら人間さ
国境線で区別されるだけで
中身は同じ人間さ
知ってるかい?
生まれた故郷を奪われて
友人たちをも奪われた
バッファローの深い悲しみが
君らの誰か一人でも知ってるかい?
※現在は六万頭までに回復
保護を始めた人たちは、インディアンの味方だ、裏切り者だと罵られながら、それでも情熱を絶やさなかった
それもまた人間
人間だ
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所詮、詩など言葉の羅列にすぎない
心を込める?
誰かに伝える?
馬鹿を言うな
人間と人間が顔を突き合わせ、幾百の言葉を交わしても交わしても、絶対に伝わらない事など、この世には掃いて捨てるほどに有るというのに
だからこそ現実にもがき苦しむ人間がいるというのに、詩人とはどうも過大評価を好むようだ
時に詩の中には宇宙があると言い出したり、時に詩の中には無限の可能性が秘められていると言い出したり
いいか
人間が人間の心を理解するのは、おそらく宇宙の真理を一人発掘するよりも困難だ
そして言葉の羅列だけでそれを伝えるというのは、宇宙の創造を凌ぐほどの至難の業だ
そこの詩人よ
思い上がってくれるなよ
貴様は所詮、自分の為だけの読み物を書いているにすぎないんだ
…
…
…
いつかどこかで触れた
血まみれの詩があったんだ
雨風にさらされ流され消えた
最後まで在ったような
最初から無かったような
狂ったように書き殴られた言葉の破片
狂うという事は最後の最後まで捧げ信じる事と同じかもしれない
そこに確実に存在した情熱に、俺は詩という物の生き様を見い出した
対比しよう
世界の終わりまで
幸福と不幸を天秤に乗せ
世界の終わりまで
メギドの空の下
世界の淵を見つめながら
…
…
…
…
俺の心の中でずっと泣いてる男の子
慰めの言葉を探して
俺はここまで来たのかもしれない
もっと遠くまで行くのかもしれない
そして最後には帰ってくるだろう
紆余曲折の宝探し
他人から見ればゴミくずみたいな言葉を探す旅
ああ
俺が詩を書く理由はそこにあったのか
いてくれたのか
ついてきてくれたのか
…
…
…
…
…
これは誰でもなく紛れもなく自分自身への詩である
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銀色の月の下でアイアン・サムがバズを鳴らす頃
俺はアコースティックギターを抱えて
ホテル・メトロポリタン近くの地下道で
名も無きブルースを奏でているだろう
幸せそうに歩くサンチェスのリーバイス
ポケットにはパンパンに
たくさんのありがとうが詰まってて
こぼれたり手渡してたり
あるいは投げ捨てたり
少しのハンデを頭に抱え持ち
慰めと憐れみを身に浴びて
その日暮らしのその繰り返しで彼は今日まで生きてる
ドルトムントの街並みでよく見かけた
ジョイントを掲げ行進するモスキーノ
プラカードにはワーキングプアの問題や
外国人排斥や同性愛への差別撤廃や
手厚い生活保護の請求が
彼らの不満よりは小さく
そして施政者に届くであろう声は小さく
しかししっかりと刻み込まれていた
1000の権利を欲しがって
1の自由を犠牲にはできず
かといって黙っていることもできず
ただ月だけが黙って見ていた
本当に月だけが黙って見ていたんだ
逆らうことに命を賭けた
どこか遠くのアナーキーやバンダリスト
お前らの話を耳にするたび
この傷ついた心に戦う力が湧いてくるんだ
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如何なる場合も人に甘えるな
如何なる場合も人に頼るな
小言を言うな
陰口を叩くな
悪役は買ってまで演じる価値がある
どんな事にも言い訳をするな
無駄口は叩くな
真の弱者の徹底的な味方であれ
弱者のフリをした一般人の敵であれ
周りの人間がどれだけ自分に甘く
欲に任せて動いていようが
持つべきは深い内省
厳格な自律
訓戒を自己精製
そこに第三者の意識は介在させない
俺のルールが俺を罰する
俺は俺に背かずに生き抜くべきで
自分を甘やかす為のルールなど無用
ひたすらストイック
人間の徳においても
アートの道においてもな
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来年の3月23日
日本から発つ航空便に乗り込む
憧れの土地
南米を目指して
スペイン語とポルトガル語を学び
働きながら旅をする
もう二度と日本に帰ることはない
もともとが故郷を持たない身
また0から始めればいい話だ
最高に恐ろしくもあり
最高に楽しみでもある
野垂れ死ぬ可能性は高い
ゲリラに殺されるかもしれない
だけどな
おれはもう手に入れちまったんだ
俺だけにしか抱けない夢の原石を
それは磨けば磨くほど輝くという
内から外から全てからな
だけどな
本当に一番輝くのは
発掘した瞬間なんだよ
夢を追いかけるってのは…
最初のそれにもう一度会いたいからかもな
海の向こうには残酷なシーンもあるだろう
俺は刻みつける
海の向こうには日本では出会えない人達がいるだろう
俺は刻みつける
荷物はペンとスケッチブック
少しの服と金とギター
それだけでいい
俺は俺の人生を旅するだけだ
それだけだ
THE ONE