詩人:矢井 結緒 | [投票][編集] |
香取線子の生涯
グルグル回る
命の導火線。
何もない
終点に向かって
ひたすら
寡黙な情熱に燃えるの。
灰になる最期まで
あなたを守り続けたい。
それが出来るなら
他には何も望まない。
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ゴミの日なのに
犯罪者さながら
闇に紛れて
自信を棄てにゆく。
生きてもいないくせに
廃棄物だけは
着実に蓄まってく。
自分を分別出来なくて
私を捨てる場所もない。
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何もない空しさに
はち切れそうなほど
透明な夢だけで膨らむ。
空に憧れて
かりそめに
飛んでみるけど
直ぐに萎んで
敢えなく下界に逆戻り。
まるで風船みたいな
あたし。
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バイトの初日
家を出たあと
彼女は電話をしてきた
「ホントは
行きたくないんでしょ?」
彼女の話しぶりや
声の調子から
携帯の向こうで
無言で頷く様子が
目に見えるようだ
その街は
ファッションヘルスで
有名で
おっぱいパブとかも
あるらしい
「わかった。
その店の電話番号
教えて?」
わたしは身内を装って
彼女のバイト先の店長と
話をした
「妹に今後そちらから
電話とか余計な連絡が
あったりすると
面倒な事になりますけど
お分かりですよね?」
と言うと相手は
「判りました」と頷いた
「もう行かなくても
いいよ?」
折り返し電話すると
彼女は一言
「うん」と応えた
「ありがとね」
わたしが言うと
彼女は
「え!なんで?」と聞いた
「わたしに話してくれて
ありがとう」
電話の向こうとこちらで
ふたり笑いながら泣いた
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外出前も帰宅後も
直ぐにシャワーを浴びて
その日着た物は
その日のうちに洗濯する
消毒用アルコールを
フロアにスプレーして
掃除機をかけた後
拭き掃除するのが日課
電車の吊り革は
ハンカチで被って握る
カフェのティーカップさえ
信用出来ない
「俺も汚いのか?」
ある夜、終わった後
急いでシャワーを
浴びに行こうとしたら
彼が憐れむような
哀しそうな顔をした
「ごめんね
あたしの方が汚れてるの」
シャワーを出たら
彼はもういないだろうと
涙も一緒に排水溝に流れた
その夜
わたしはアルコールで
内臓を綺麗に洗浄した
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1人じゃ
直ぐに転ぶから
誰か乗ってよ
きっと
行きたい場所に
運ぶから
ひとりで
歩かないでね
まだかな遅いな
ぼくのともだち
仲間がコカされ
とばっちりで
下敷きになった
広場の孤独
寂しさに負けて
きみを疑い始めた
錆ついてく友情
きみがいたから
ぼくがいる
ずっと待ってる
駅裏の駐輪場
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坂道を下るのは
抱えた重さで容易いのに
後向きだと不安が回って
こんなにも困難
前向きでも
立ち竦むのは
足下ばかり
気にしているから
理屈と言葉だけなら
簡単なのに
遠くを見過ぎるわたしは
小さな部屋さえ出れない
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ゴミ箱あたりで
バキッ!とラップ音
夜になると
細かいパウダーが
霧のように
白く立ち込めて
耳や目や鼻や口から
見えない無数の虫たちが
襲ってきて
喉に張り付くや
ほんの数分で
腫瘍を育んで
呼吸を困難にする
1日何度も
お風呂に入って
窒息の恐怖を
洗い流すのに
酸素が
圧倒的に足りなくて
発狂しそうな閉塞感に
理性は麻痺する
それでも
あなたの最期は
こんなものでは
贖えないほど
とてつもなく凄惨で
筆舌に尽くせないもの
だった
自ら止めた
その呼吸は
瞼を閉じ忘れたのに
4年待っても
戻っては来ない